表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第四章 『光の先へ』
68/71

~春が咲く場所~

 何もない真っ暗な場所におれはいた。自分の体すら見えず、その感覚もない。

 ついさっきまでなにかと光あふれる場所にいたため、この暗さは不思議と心地よかった。

 我ながらのんきなものだと思う。


 自分が今、生きているのか死んでいるのか、わからないというのに。


 結局、あの世界は何だったんだろうか。

 『少女』はパラレルワールドかもしれないと言っていたけど、それが正解なのだろうか。

 それにしてもおかしな世界だったな。

 元の世界にはなかったはずの近未来的なテクノロジーがあったり、超能力が発現されていたり、神話時代の人型兵器なんてものも出てきたり、なんでもありのふざけた世界だった。


 でも、『少女』は言ってたな。なんでもありのほうが、世界は面白いって。

 その意見には、おれも少しばかり賛成だった。


 『少女』はどうなったんだろう。

 『親友』は今どうしているだろうか。

 あの世界は救われたのかな。

 おれにタンポポの指輪をくれたあの子は、無事だろうか。

 おれ達は、ナントカのアレを導き出すことができただろうか。


 思考だけが行くあてもなく動きまわる。いくら考えても答えは見つからない。

 当然だ。ここには何もないのだから。

 不安や焦り、不快感といったものが、どんどん高まっていく。

 息苦しい。もういやだ。こんなところにいたくない。


 ここはおれのいるべき場所じゃない。


 おれにはちゃんといるべき場所が、帰らなければならない場所があるんだ。


 そう思った時、真っ暗な世界は消え、目の前に春が現れた。


 おれは公園へ続く遊歩道の入り口に立っていた。すぐ近くには公民館が見える。青く晴れた空の下、遊歩道に植えられている桜は満開の花を咲かせ、あちこちに花見客の姿が見える。

 思い出した。

 これは、高校の入学式が行われる少し前にあった桜まつりだ。

 おれは迷った末に一人でちらっと様子を見に行った。

 もしかしたら『親友』が来ているかもしれないと思ったからだ。

 ほとんど毎年のように、おれと彼は一緒に桜まつりを見に行った。でも、今年は行けなかった。いつもはどちらからともなく誘っていたけど、今年は誘えなかったし、誘われなかったからだ。

 一緒に桜まつりに行けなかったことが、おれと『親友』の道を決定的に分けてしまったように感じられた。


「きれいに桜が咲いているわね」


 そこにいるのが当然であるみたいに、『少女』はおれの隣にいた。


 この時も『少女』はセーラー服を着ていた。

 そのセーラー服を、おれはよく知っている。


「いつ見ても、どこで見ても、桜を見ると気持ちが晴れ晴れとするわ」


 そうだね、とおれは答える。


「どうしたの? 心ここにあらずって感じだけど」


「いろいろとごちゃごちゃしててさ、うまく考えがまとまらないんだ」


「歩きましょうか」


 『少女』はおれの一歩前に立つ。


「桜でも眺めながらゆっくり歩きましょう。そのうち考えもうまくまとまるわ」


 『少女』は桜に彩られた遊歩道を歩き出す。その後を追うようにおれも歩いた。

 風は少しひやりとしていたけど、日の光は春の暖かさを感じさせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ