~春が咲く場所~
何もない真っ暗な場所におれはいた。自分の体すら見えず、その感覚もない。
ついさっきまでなにかと光あふれる場所にいたため、この暗さは不思議と心地よかった。
我ながらのんきなものだと思う。
自分が今、生きているのか死んでいるのか、わからないというのに。
結局、あの世界は何だったんだろうか。
『少女』はパラレルワールドかもしれないと言っていたけど、それが正解なのだろうか。
それにしてもおかしな世界だったな。
元の世界にはなかったはずの近未来的なテクノロジーがあったり、超能力が発現されていたり、神話時代の人型兵器なんてものも出てきたり、なんでもありのふざけた世界だった。
でも、『少女』は言ってたな。なんでもありのほうが、世界は面白いって。
その意見には、おれも少しばかり賛成だった。
『少女』はどうなったんだろう。
『親友』は今どうしているだろうか。
あの世界は救われたのかな。
おれにタンポポの指輪をくれたあの子は、無事だろうか。
おれ達は、ナントカのアレを導き出すことができただろうか。
思考だけが行くあてもなく動きまわる。いくら考えても答えは見つからない。
当然だ。ここには何もないのだから。
不安や焦り、不快感といったものが、どんどん高まっていく。
息苦しい。もういやだ。こんなところにいたくない。
ここはおれのいるべき場所じゃない。
おれにはちゃんといるべき場所が、帰らなければならない場所があるんだ。
そう思った時、真っ暗な世界は消え、目の前に春が現れた。
おれは公園へ続く遊歩道の入り口に立っていた。すぐ近くには公民館が見える。青く晴れた空の下、遊歩道に植えられている桜は満開の花を咲かせ、あちこちに花見客の姿が見える。
思い出した。
これは、高校の入学式が行われる少し前にあった桜まつりだ。
おれは迷った末に一人でちらっと様子を見に行った。
もしかしたら『親友』が来ているかもしれないと思ったからだ。
ほとんど毎年のように、おれと彼は一緒に桜まつりを見に行った。でも、今年は行けなかった。いつもはどちらからともなく誘っていたけど、今年は誘えなかったし、誘われなかったからだ。
一緒に桜まつりに行けなかったことが、おれと『親友』の道を決定的に分けてしまったように感じられた。
「きれいに桜が咲いているわね」
そこにいるのが当然であるみたいに、『少女』はおれの隣にいた。
この時も『少女』はセーラー服を着ていた。
そのセーラー服を、おれはよく知っている。
「いつ見ても、どこで見ても、桜を見ると気持ちが晴れ晴れとするわ」
そうだね、とおれは答える。
「どうしたの? 心ここにあらずって感じだけど」
「いろいろとごちゃごちゃしててさ、うまく考えがまとまらないんだ」
「歩きましょうか」
『少女』はおれの一歩前に立つ。
「桜でも眺めながらゆっくり歩きましょう。そのうち考えもうまくまとまるわ」
『少女』は桜に彩られた遊歩道を歩き出す。その後を追うようにおれも歩いた。
風は少しひやりとしていたけど、日の光は春の暖かさを感じさせた。




