プロローグ2
「皆さんご機嫌よう、今宵は満月ですので存分にお酒やワイン等をお楽しみください。ですが飲み過ぎには注意して下さいね。でないと対価の血を致死量まで頂きますので」
吸血鬼の王は軽く頭を下げてとても強き吸血鬼には見えないほどの無邪気で子供のような笑顔で可憐にそう言い放った。
普通にその言葉を聞いたのならばただの冗談にしか聞こえない。
だが今この場面でのこの言葉を聞いた兵士達は宣戦布告にしか思えず、瞬時に武器を構えざる終えなかった。
「うん、どうした諸君?何故全員武装して武器を構えておるのじゃ?」
吸血鬼の王は首を傾げ不思議そうに自分達を見ていた。
「この状況を見てまだわらないのか?吸血鬼の王カイミサナよ」
「ん、お主はハメクライではないか。久しぶりじゃのう。血の契約の際には人間側の強者とし絶対お主がついてきていたからよく覚えておるぞ」
吸血鬼の王カイミサナはハメクライに向いて無邪気な笑顔でそう話し掛けた。だが急に吸血鬼の王の雰囲気が変わった、なのに笑顔は全く変わっておらず、それが余計に恐怖を醸し出していた。
「それはさておきこれはどういう状況じゃ?まさかとは思うが、我々吸血鬼相手に戦いを挑もうとしているのか?」
その見た目からとはとても考えられない威圧を感じ兵士達はゾッと恐怖を感じた。だがハメクライはその威圧にも臆せず。
「まぁそういう事だ。だから黙ってやられてくれねぇか」
ハメクライは腰から剣を抜いた。
その言葉を聞くと吸血鬼の王は怒りだす訳でもなく、大きく肩を落とし、落胆とした表情に浮かべた。
「そうか....結局はそうなるのか.....
なら戦う前にせめて理由ぐらい教えてくれ、何故我らに戦いを挑む?ここ近年は我々と良い関係を築けていたではないか。何故それを壊そうとするんじゃ」
ハメクライは大きなため息を吐き出し
「様々な事情があるがそれは表面上の理由に過ぎないな。まぁ結局は無理なんだよ。どんなにお前が頑張った所で吸血鬼と俺達人間が争ってきた歴史が変わる訳じゃない。今更共存する事なんて出来ないんだよ。遅かれ早かれいつかはこうなるんだよ。だから分かってくれ」
何故か隊長は自分に言い聞かせるように言っているようにも聞こえた。
吸血鬼の王はその言葉を聞き「そうか.....」と呟き今にも泣き出しそうな顔をしていた。
隊長はそこまで言うと吸血鬼の王を真っ直ぐ見て、
「後、お前はまだ勘違いをしている。そもそもこの戦いはもう終わってんだよ。」
「何を言っておる。戦いはまだ始まってすらおらんじゃろ。ん、そう言えば我の同族は何処にいるんじゃ、おい、カハナタァ、サメクラントォ.....おかしいのう、いつもは呼べばすぐ来るはずだゃが」
「そいつらはもう死んだよ、」
「は?」
「だ、か、ら、お前以外の吸血鬼たちは全員俺達が殺したんだよ。この今の状況を見れば分かるだろ。」
その言葉を聞き、吸血鬼の王は周りを見回してもうこの城には人間しかいない事を知り力無く膝から地面に崩れ落ちた。そして聞き取れ無い程小さな声で隊長を睨め付けながら、
「お主らはわしが居ない間を狙ってこんな真似したのか?」
「いや、それは偶然だ。俺達はお前もまとめて全員殺すつもりだった。だからこの事だけは勘違いしてくれるなよ」
その言葉を聞くと吸血鬼の王はポロポロと涙を流し始めた。
「結局全部わしが悪かったのか。人間と仲良くしようなどと思わなければこんな事にはならなかった。わしが外に出なければ....」
そう言いながら吸血鬼の王は地面を殴りつけながら泣き崩れた。
そのとても吸血鬼には見てない吸血鬼の王である少女が自分を呪うかのように懺悔をしながら地面を殴りつけているの姿を見て、兵士達は武器を握るその手を緩めずにはいられなかった。
だがハメクライだけは違った。ハメクライだけはこの状況が最初で最後のチャンスだと分かっている。なのでハメクライは泣き崩れている吸血鬼の王の周りにいた兵士達に向かって、冷静に静かな声で。
「今が唯一の機会だ、殺れ」
「で、ですが隊長、流石に」
「なら邪魔だ。どけ、俺が殺す」
ハメクライが兵士達を推し抜けて、カイミサナに向かっていると。虫の声のような小さな声が聞こえた。
「もうどうでもいい」
その小さな声が聞こえた瞬間。吸血鬼の王の周りにいた兵士達がいきなりカイミサナを中心として吹き飛んだ。
「くっ、もう遅かったか」
満月に照らさた黒き翼を持つ少女は軽く宙に浮き、怯える兵士達を見下ろした。最初の無邪気に笑っていた時の美しい紅色の目は
今もう警戒色のように危険を漂わせる冷たい恐怖の目に変わっている。
「我を誰と心得る、我は吸血鬼の王カイミサナであるぞ。頭が高い今すぐ頭を下ろせ」
その言葉を聞いて兵士達は一斉に吸血鬼の王に跪いた、いや跪かされた。
体が全く言う事が聞かない。恐怖で言う事を聞いてくれない。魔法耐性が強力についてある鎧を着ていにも関わらずそれを無視するかのような強力な威圧が兵士達を跪かせた。
だが一人だけその威圧魔法に耐え剣を握り、堂々を顔を上げている男がいた。
「くそ、満月のせいで魔法が余計に強まっているな。とりあえず目を覚まさせるからそれまで.....ど、何処だ何処に消えた。」
ハメクライが周りを見回して前を見るともうその時にはミカサレナの姿が一瞬にして消えた。
「頭が高いと言っておろうが」
ハメクライの後ろからその声が聞こえ、ハメクライが振り返ろうとした瞬間、ガッと頭を掴まれた。
そして吸血鬼の王はその頭を思いっきり地面に叩き落とした。そしてハメクライの頭は見事に潰れ、首から上が真っ赤な血が溢れる見るも無惨な姿になっていた。
兵士達はあの最強の隊長が唯一の希望が一瞬にして殺され、顔が潰された姿を見てもう勝つ事が出来ない事を悟った。
兵士達一人一人が何とか逃げ出せる方法を考えいると。それを見越したように吸血鬼の王は兵士達を見て嘲笑いながら手にべっとり付いた血を人舐めにし。
「誰一人逃がしはせんぞ、人間ども」
その声が聞こえたとたん顔以外の部分が更に動かなくなった。
口は動かせるが誰も声を発しなかった。声を発すれば絶対に殺されしまう事が分かっているからだ。
そしてそれはこの城いる者全員がそうなったようでさっきまで全く気にならなかった風の音と兵士達の心臓の鼓動が大音量で響いていた。
そしてそんな中、ふと黒き翼を持つ少女の声がその城に響いた。
「皆の者、近くに置いてある武器を握れ」
嫌な予感がする、絶対にここでは握ってはならない
だがもう体が全く言う事が聞かない。完全に支配されて操られている。兵士達は誰一人とて逆らう事が出来ずに全員武器を握った。
吸血鬼の王は全員が武器を持った事を確認すると足元にある隊長の死体から溢れ出る血を手すくい取りその血を飲み込むと、
「後は武器で首を貫け」
「「「「やめろぉぉぉぉぉぉ」」」」
その最後の声も虚しく。吸血鬼の王がそう合図すると兵士達は全員同時に首を貫き、城の中は赤き液によって溢れかえった。
吸血鬼の王は兵士達の赤い液に溢れた城を歩きながら、兵士達の死体が着ている鎧や武器を見て、
「この紋章はブロギンド王国の紋章、ここから一番近くにあの国か」
孤独な吸血鬼の王はそう独りでに呟くと、ある方向に向いて飛び立って行った。