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ひとりぼっち吸血鬼とその下僕  作者: 亀レオン
序章
3/5

プロローグ3

ブロギンド王国と吸血鬼の因縁は奥深い。

古代の文書から調べても、このブロギンド王国が立国するより遥か昔から吸血鬼が夜孤城に住み着いていた。そして最も夜孤城に近いこの国は吸血鬼との戦いの最前線となっていた。ブロギンド王国は吸血鬼の被害に遭い、吸血鬼の驚異を最も知る国でもある。なのでこの国では吸血鬼こそが一番恐ろしい者として教えられている。

だが近年は吸血鬼の王を中心として何を血迷ったのか吸血鬼我々人間が友好な関係を結ぼうとする風潮が見られていた。

最初はあんなに恐ろしい吸血鬼が人間と仲良く出来る訳が無いと誰もが反対であったが、時が経つにつれ、吸血鬼達は討伐にきた兵士達を無傷で町に帰し、吸血鬼は悪い者では無いと意味不明な事を言わせたり、吸血鬼が作る極上の酒やワインに惑わされ吸血鬼と仲良くしようという者が着々と増えていった。


そんな中ブロギンド王国の国王、ブロギンド.ビクラヤヌツはこの悪い風潮を断つべく、ブロギンド王国の兵士達や各国からの援軍を要請し、吸血鬼に対して大規模侵略を行う事にした。過去の吸血鬼との戦績からは勝利の望みは薄いと思われていたが、吸血鬼との友好な関係を断つ為なら、その犠牲ですら十分だと考えていた。そもそもこの作戦は失敗を考慮された作戦なので対吸血鬼軍の2割でも失えばすぐに撤退するように命じていた。


だが結果こちらの被害は極小での吸血鬼は全滅という大成功に至る結果になった。

そして正直成功するとは思っていなかったであろう。確かに歴戦の強者の軍隊を送り込んだ。そしてその軍の隊長はドラゴンを単独で討伐した英雄もいた。その隊長はこの作戦には反対であったが無事この作戦が成功して今頃酒を浴びる程飲んでいるに違いない。

今までの歴史上誰も達成出来なかった快挙がたった数時間にして達成された。喜びもあるが余りの呆気なさに戸惑いすらあった。だが成功したのだから何も疑う事はない。

国王ビクラヤヌツは王宮から見える吸血鬼の城を眺めつつ、益々の名声上がる事を確信し、邪悪な笑みを浮かべていた。


「「「「「「乾杯~~」」」」」」


ブロギンド王国は今、国を挙げての祝杯を上げていた。もちろん理由は吸血鬼が討伐されたからだ。吸血鬼討伐作戦成功の朗報を届いてから祝杯が始まり、その祝杯は夜を迎えるにつれ盛り上がりが増していた。男も女も子供も老人も吸血鬼討伐に歓声を上げ、夜だというのに街中に光と人が溢れていた。




吸血鬼の王が見ている事も知らずに。


吸血鬼の王カイミサナはブロギンド王国の上空にて、風が吹き荒れる中、町の光景を眺めていた。最早一人一人の人間がただ息をするだけの愚かな家畜にしか見えない。

正直期待をしていた。もしこの国でどんなに小さくても反乱が起きていれば止める気だった。だが町の何処を見渡しても皆が笑顔で喜びを叫んでいた。

吸血鬼の自分達の死を慈しむ物は一切無かった。


「もういいか、どうなっても」


カイミサナは自然に流れでた涙を拭い、片手を月に向けた。

今宵は満月。体から溢れ出る全ての魔力を使い、この町を一撃で沈める。


天に向けたその手からは魔力で出来た球体が出来上がった。


「まだまだこの程度」


その赤い球体はますます拡がっていく。それはまるで月が怒りで満ちているような、強烈な存在力を押し付ける圧倒的な魔力の塊である。


「存分に最後の時を楽しむが良い。抗う暇も無く一瞬で消してやる」


吸血鬼の王が腕を振り下した時、紅い月が破壊の化身となり、地面へと舞い落ちる。








一人の小さな少女がふと何かを感じ、夜空を見上げた。そして顔を薄く赤色に染めた父親の袖をつまみ。


「パパ、パパ、お月さんが二人いるよ」


「ははは、何を言ってるんだ、お月さんは一人しかいないだろ。ははー、さては、酒を飲んだな。ダメだぞお前にはまだ早いって言っただろ」


「違うよ。ほら、赤いお月さんもいるもん」


少女は空に向かって指を指した。父親はちらっと酒のビンを見た、だが量が減っているようでは無い。

父親は嘘だと思っていたが、ここで顔を上げない理由も無い。


「まぁ可愛い娘の頼みだ。少しは乗ってやるか」


そう言って父親は夜空を見上げた。


「うん?あれ?本当に二つあるぞ、飲み過ぎちまったか?」


父親は目を擦り、もう一度を夜空を見上げた。するとそこには黄色満月と先程よりも大きい紅い満月が。父親は完全に酔いが醒め。勢いよく立ち上がった。


「ね。本当でしょ」


「.....あれはヤバい。....おぉーい、みんなぁー上を見ろぉー」


その父親のただならぬ声が聞こえ、町で宴を楽しむ皆が一斉に夜空を見上げた。


「何だあれ?」「月が二つある」「お、吸血鬼討伐の洒落た演出か?」「綺麗ね」「何かどんどん大きくなっていないか?」


町の者は皆口々にこの不思議な現象への言葉を口にしていった。

だがその父親以外今の状況がよく分かっていない。


「違う。アレは演出なんかじゃない。ただの魔力の塊だ」


「「「「「!!?」」」」」


皆唖然となり、やっと今の現状を理解した。そして国内に避難のアナウンスが流れた。


《謎の攻撃により、中心部は大変危険です、町の端に避難してください。謎の攻撃により中心部は大変危険です。......》


「.....吸血鬼は全員倒したんだろ?じゃあ誰がこんな大規模な魔法を....」


「隣のランラインが攻めてきたんじゃ、あいつら吸血鬼を討伐するのに反対してたし」


「でもそれは吸血鬼を恐れていただけで、倒しちまった今じゃ問題ないはずだろ」


「しかも、ランラインがこんな大規模な魔法出来るわけ無いだろ」


「じゃあ、ゼグルギウガとかじゃ無いの?あそこから出来るんじゃない?」


「あんなに遠い国が、わざわざここに攻めて来るもんかよ。しかもあそこは確かまたどっかと戦争している途中だろ」


「じゃあ誰が.....」


「パパ、パパ」


その時。また少女が父親の袖を引っ張った。父親が我が子を見ると少女はまた同じように空に指をさし。


「パパ。紅いお月様の上に、羽がある黒い女の子がいるよ」


その少女の声は何故だか騒ぎが起きているなか、驚くほど大きく響いた。

父親はもう疑いはしない。その言葉を聞いた瞬間すぐ顔を上げた。


「あれは吸血鬼.....の王」


この国の者であれば実物は見たことが無いにしても誰もが知っている。様々な歴史に関する本に描かれている羽を持つ黒い少女の吸血鬼。何百年も昔から言い伝えられている伝説の吸血鬼の王。その姿が今、月に照らされ、夜空に浮かんでいる。


「お、おい、どういう事だよ、吸血鬼が生きてたって事かよ?」


「っていう事は嘘の報告だったって事か?」


「何やってんだよ、英雄ハメクライがいたのに逃げられたのかよ」


「まぁ一匹ぐらい残っていた所で問題ないだろ、この町にもまだ戦える連中も残っているんだからな」


頭の悪い連中は事の重大さが全く分かっていない。あそこに居るのがただの吸血鬼一人だと思っている時点で論外である。


父親は少女の肩を掴み。目線が会うようにしゃがみ込んだ。


「いいかレナ、ママと兄ちゃんを連れて出来るだけ町の端にまで逃げるんだ、分かったな」


「ん、うん、分かった」


少女はよく分かっていないようであったが父親の真剣さが伝わり元気よく頷いた。


「よし、いい子だ、ママ達を頼んだぞ」


父親が頭を撫でると少女は家に向かい走って行った。父親が娘を見送り、後ろを振り返ると一人の男が。


「子供を避難させたのは正解だと思うぞ、この大きさだ。結界で守られているとはいえ、何かしらの衝撃位来るからな」


そう。町の者が騒動一つ起きず逃げずに各々の意見を交わしているのは、この国全体が強力な結界で守られているからだ。

超巨大型対魔竜結界は設立されて以来、43年間破られた出来事は一つも無い。ブロギンド王国が誇る最強の防御結界だ。


「俺が言ったとは言え、多分意味無いけどな」


「??」


元騎手である父親はなんとなく分かっていた。あの魔力の塊はこの結界じゃ防げない。


「お、おい、上を見ろ。あの結界が歪んでいるぞ」


ギギギギギギギギギギギ


巨大ドーム型の結界があの紅い月に押し潰されて凹んでいる。

この結界が歪んでいるのだけでも初めてである。


「こ、壊れるんじゃないのか」


「まさかそんな訳ないだろ、あの火竜の火炎でもビクともしなかったんだぞ」


ギギギギギギギギギギギ


「ヤバい、ヤバい、まじで壊れるぜ」


「に、逃げ......」


ギギギギギギギ.....ババァッッッッッッンンーー


結界が風船を突き刺したように、43年の重みを込めてた大音量で国外にまで響き渡った。


逃げようとするものも多数いたが、その結界割れた衝撃で国民のほとんどが転倒した。だが生き残る為にすぐに立ち上がり町の外に向かって走り出した。


父親も転倒したが立ち上がり逃げる訳で無く、空を見上げ。そして紅色の大きな月に向かって魔法攻撃を放った。


(やっぱり、全く効果無いか....だが少しでも)


父親は何度も何度も紅色の月に向かって攻撃魔法を放つ。


(諦める訳には......)




紅い月が地面に到着するとき、音は無い。ただ静かにブロギンド王国は一瞬にして消滅した。

紅い月が出来上がり、三百を軽く越える長い歴史を刻んだブロギンド王国が、僅か3分でこの世の中から消えた。









何も残っていない更地に、吸血鬼の王が静かに降り立った。


周りを見るが何も残っていない。建物ごど丸ごと完全に消滅している。

ここから微かに見える夜孤城を眺めて、夜空に向かって静かに呟いた。


「もう、わし以外には何も無いのか」


城には兵士達の大量の血が残されている。生きるのには当分苦労しない。そして地下に隠している研究所もある。退屈しのぎにはなるだろう。だが.......


「遂にひとりぼっちか....」


いずれ孤独になるのは分かっていた。だが.......


すす.....


「誰かいるのか?」


風の音しかしない更地に、何か動く音が微かに聞こえた。


「やはり、気のせいか....」


勿論返事は無い。恐らく聞こえたのは都合のいい幻聴なのだろう

あの魔法で生きている者など......


すす.....


「!?、誰じゃ?」


思わずカイミサナは顔を上げた。今確実に聞こえた。絶対に誰かがいる。カイミサナは足早に音の方角に足を進めた。







カイミサナが歩いて行くと、国の中心部にかなり離れた場所に白髪の少年が一人、姿が消えずに仰向けに倒れていた。見るからに瀕死の状態ではあったが確かに生きている。


驚いた。正直あの魔法で生きている者がいるなど想像出来なかった。

場所的に、ここなら直撃はしていないだろう。だが余発だけでも十分に吸血鬼でさえ倒せる。

この少年には人間程度ではあり得ない魔法抵抗力があるのだろう。騎手にでもなれば人間でいう。英雄と呼ばれる高みまで上り詰めていたのだろう。


「おい、小僧」


話掛けても動きもしない。


「よくわしの一撃で生き残った。だがどうせこのままであれば、数分もすれば死ぬ」


何故わしは、この返事をしない少年に話掛けているのだ?


「ならば、せめて選択肢をやろう」


何故わしは、この少年に何かを求めているのだ?


「このまま死ぬか?」


何故わしは、この少年に救いを与えるのだ?


「それとも永遠にわしの下僕になるか?」


何故わしは、この少年に絶望を与えるのだ?


「さぁ、選ぶが良い」


何故わしは、この少年に期待をしている....




ピクリとも動かない少年が唐突に目を開いた。そして吸血鬼の王に視線を向け、睨みながらも堂々と小さな声で。


「なら、お前の下僕になって、いつかお前を殺してやる」


「!?」


少年はその一言を言い放つと、力尽きたかのように、静かに目を瞑った。



「ふふふ、面白い、いいだろう。願いを叶えてやる」


こうして吸血鬼の王は、一人の少年に永遠の絶望を与えた。




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