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第十話 覇者、ぼいんのため、冒険者を目指す

SIDEショーン


小屋に帰ると、扉の前にはひとつ、大きな袋が置かれていた。


「ん、あれなんだろ?」


先に気がついたのはエミレ。

彼女は好奇心のままにその袋に駆け寄り、中身を開ける。


その中には、年季の入った地図と、埃をかぶった保存食と、

そして、ぶっきらぼうに書かれた一枚の手紙があった。


エミレは、おもむろに、手紙を手に取ると、何も言わずに読み始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ばかエミレへ。


どうせお前は途中で手紙を破くだろうから、最初に言っておく。

読むのなら、最後まで読め。


袋の中には、見てわかるだろうが、保存食と地図を入れておいた。

地図は年季ものだが、精密に書かれている。どこを目指してるか知らないけど、役には立つだろ。

保存食は、店の奥から取り出したやつだから、埃がかぶっていても、不味くても、文句を言うな。


……たく、最後まで町のためにって、正義の味方ぶりやがって。

あたしの目を誤魔化せたとでも思ったのかい?

まったく、ガキだね。


でも、おかげで清々したよ。

……静かすぎるくらいにね。


お前さんの事情は、まったくと言っていいほど知らないけど、

あの子のことは頼んだよ。


そして、何より、死ぬんじゃないよ。

ちゃんと、生きて、地図返しに来なさい。

あと、保存食の件は……高級料理の奢りで、許してやる。


追伸。

次帰ってくるときは、正座してドアの前で待ってな。

話はそれからだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


エミレはひと通り、手紙を読み終えると、ふっと鼻で笑って、短く、


「……誰が、正座なんてするか。ばーか。」


と返した。


そうして、くしゃりと手紙をたたむ。


「エミレ、それ誰からの?」


後からついてきたシルアが尋ねる。

すると、エミレは、くるりとシルアの方を向きなおし、肩をすくめる。


「うーん、どこまでも素直じゃなくて、優しいおばさんから。

 ……あたしの、恩人みたいなものよ。」


さらっと放つその声は、その軽さに反して、どこか遠くを懐かしむようだった。


「昔――ちょっくらへまして、血だらけであの町にたどり着いたんだけどね。

 その時に、真っ先に介抱してくれたのがあのおばさんだったんだよ。」


「それって……」


「でも、あの人、それはまぁ、豪快に町のど真ん中で治療するもんだからさ。

 おかげで八芒星オクターヴ・アンシエンヌもしっかりと見られちゃって。」


エミレは、苦笑交じりに続ける。


「そしたら、案の定、町の人たちに、怖がられて――怪我が治ると否や、すぐに、奥の森に飛ばされたんだよね。」


「それってひどくない?」


「……いいや。むしろ、突然、血まみれで町に現れた不審者を、助けて、村にいれてくれた。

 それだけでも、十分すぎるくらい優しいのに、あの人たち、打ち解けたら、すごくよくしてくれて。」


そこまでつぶやくとエミレは、再び手紙に視線を移す。


「……はは、あたし、結果的に、完璧な悪役になんてなれなかったな。」


照れくさそうに吐いたその言葉は風に乗って飛んでいく。

拭いきれない思いを、ひと時だけ、癒すように。


風は頬をなで、髪を揺らす。

エミレはその場に立ち尽くし、青空を見上げた。


……それから、小さく息を吐く。


彼女は、その風を受けきると勢いよく、地図を広げた。


「さ、シルア。」


エミレが手招きして、シルアに地図を見るように促す。


「私たちがまず、どこに行くべきなのかわかる?」


「まったく」


「だよね」


「え、もしかしてだけど……」


「もちろん、私もサッパリ!」


エミレは、そういうと握りこぶしを頭に当てて、てへぺろとポーズをとる。

やっぱりと、黙りこくったシルアの代わりに、


「ケン……」


こいつアホだとリュドエールル(アニキ)は、ため息をつく。

そんな2人をとりまく、詰んだという空気を取り払うため、エミレはパンパンと手を鳴らす。


「まぁまぁ、でも、やることははっきりしてるでしょ!

 簡単!世界の覇者になればいいのよ、この国で!」


彼女はわざと声を張り上げて、高らかに宣う。


「その情報ってどこから仕入れたの?」


シルアがふと思いついたように尋ねると、エミレは待ってました!と立ち上がる。

……いつも通りの、悪寒。


「私が、呪印(シジル)の呪いとそれを解く方法を知った場所。

 それはね……教会の禁書庫だよ。」


「禁書庫……それってあきらかにヤバやつじゃ」


「あ、うん。ヤバいよ。

 教会の大司祭レベルの人間じゃないと立ち入れないし、もし許可なく立ち入ったら、ギロチンころころだよっ!」


エミレは首をうねうねさせながら、得意げに説明する。

(※語尾をころころで可愛くしても、処刑は処刑です)


「まぁまぁ、それは置いといて。

 そこには、たしかに、呪印(シジル)の呪いとそれを解く方法については書かれていたけども。

 ……実は、そこには具体的な異世界に行く方法とか大事なところが、まったく載ってなかったんだよね。」


だからと、エミレは一拍おく。


「情報集めのついでに、まずはドウア国の覇者になっちゃおー!」


「いやいやいや、まずは情報を集めるところからだよ。」


「うーやっぱり、そうなるよね。でもねぇ、情報収集するにはちょっとした問題がありまして」


エミレは口に指を当てて、続ける。


「実は!!私ね、禁書庫に入ってるところ見つかっちゃって、教会に追われているところなんだよねっ」


そうして、本日2度目の、てへぺろをかます。

が、今回は、そこにすかさず、リュドエールルによる手刀が入る。


いたいと涙目になるエミレをつゆとも気にせず、シルアは続ける。


「もしかして、さっきいってた、へまって……」


「そうですそうです!追っ手に殺されかけてね。それで死に物狂いでエピネスの町に入り込んだって訳。

 いやぁ、あれはエミレの人生の3大危機の記念すべき、ひとつめに入るレベルだったわぁ~」


懐かしいなどと目を遠くにするエミレにすかさず、シルアが突っ込む。


「いや、エミレ。それ、済んだことのようにいってるけど十分、現在進行形の出来事だからね!?」


「そうなんだよね。下手に動いたら、殺されるかもだし……かといって、情報集めて、かっちょこく、ドウア国の覇者になりたいですし……」


「……完全に詰んでるじゃん、エミレ。」


そんなシルアの言葉を聞き流しながら、エミレは地図を木の棒でかき混ぜる。

が、その木の棒はある一点をさして、止まる。


その先には、冒険者の町――コラーレーと地図に記された町が。


(情報が入って、いいかんじに身分を隠せそうな職業といえば――)


「……あ、そうだ。冒険者になろう!」


「冒険者?」


シルアはぱちりと目をしばたかせる。


「そう、冒険者なら、身分も隠せるし、いい特訓にもなるし、お金も稼げるし、情報も集まるし……

 なにより、共に覇者を目指す、()()も見つけられるかもだし」


「ねぇ、なんで、仲間を強調したのいま」


「あっっと、それはデスネ……まぁ、癒し系のお姉さんがほしいなって。

 ――すぅ。

 私は!!ほしいの!!

 お姉さんが!!癒し系の!!ぼいんの!!」


エミレは地団駄を踏みながら、シルアに『お姉さん』の魅力をプレゼンする。


「エミレ、それ絶対に、熱弁することじゃないよね!?」


「だって、美少年ショタを拾った後にはぼいんなお姉さんがついてくるのは、覇者の王道展開だもん!」


「キャレレレレレレ!」


「ほら!キラッッぴこーんZ(ゼヱター)も全力で頷いてるよ!」


「おい、リュドエー……」


「……というわけで!!」


「ぼいんのお姉さんとの出逢いもとい、冒険者になるために!!」


エミレはシルアの腕をつかみ、上へ突き上げる。

それに乗じて、リュドエールルも天井へと跳躍する。


「行きますか!!コラーレーの町へ!!」

「キャルルルル!!!」

「……おー」


「さぁ、カモーン!

 ぼいんぼいん~ぼいんぼいん~!」


「キャルルルン~!

 キャレレレレ~!」


「……お願いだから、エミレその歌だけはやめて。

 ――お前もだ、リュドエールル?(圧)」


こうして、エミレとシルア、そして、黯光残星リュミエール・ド・レグジルの問題だらけの旅は始まったのであった。

読んでいただき、見ていただきありがとうございます!

どうもお、ルアンですっ!

次回からはついに旅本格始動!ドウア国編、お楽しみにっ!


前話より18PVいただいております!

いつもほんとにありがとう……です(๑•̀ㅂ•́)و✧


ではでは、また次の話でお会いしましょ~!またねっヾ(≧▽≦*)o


ちなみに、、けふのあとがき全文は、テンション高いからねこころしてね(笑)

変態野郎だからね、苦手な方は飛ばしてちょ

あとがき全文はこちら↓(もしくは上のシリーズ一覧から!)

https://ncode.syosetu.com/n9016kh/11/

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― 新着の感想 ―
序章読み終えましたが、主人公が魅力的ですね! めちゃ強い設定でいつも明るく振る舞える強さも持っているけど悲しみを背負っていそうな描写がいくつかあって、何か辛い時には力になりたいと思い、エミレにどんどん…
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