表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/227

第82話 ESCAPE

 儡はホテルでさとると情報を整理させながらミライに新生物とは何か、宝玉とは何か、鬼殻が存在する事によって生じる危険性を改めて説明した。

 そして、廬やさとるにはミライが異世界人であり魔術師であることを伝えれば、信じられないと言った顔をする。実際に魔術を使わなければ信じる事も難しいが、ミライは「いつか見せてあげるわよ」と得意げに言う。


「僕たちは瑠美奈さんを助けたいんです。死なせたくない。だけど、鬼頭さんは瑠美奈さんを殺してでも厄災を消そうとしている」

「なるほど、一切の犠牲なしに厄災とやらを消したいわけね」

「言いたいことはわかるよ。何かを得たいなら何かを失えと言いたいんだよね? だけど、僕たちは失った。家族も仲間も失った。これ以上失うつもりはないよ」

「既に対価は払っているのに、得られない。それは神にクレームを入れるべき事案ね」

「その神が生憎と敵かもしれないんだから、お手上げだよ」


 瑠美奈を救う為には、神に赦しを乞うしかないのか。

 神なんてペテンだ。存在しない。存在していたら宝玉なんて世界にばら撒いたりしないだろう。


「神は自分で管理したくないから手下を派遣させるのよ」

「手下。もしその手下に反逆したら?」

「さあ? 別に困らないんじゃない? あたしはした事がないけど、今度やってみようかしら」

「まるで手下を知ってる口ぶりだね」

「そりゃあね。じゃなかったらこの世界にはいないわ」


 なんて帰り方も分からないのだと笑った。


「その鬼殻って奴は、宝玉を集めているのよね? 御代志研究所とか言う場所にあるなら、狙われるんじゃない?」

「それは俺が行く。お前たちは、此処を……憐と真弥を守ってくれ。それに瑠美奈もいるから、多分安全だ」


 御代志研究所に鬼殻が行く可能性はある。だが、此処で皆が御代志研究所に向かい一網打尽に遭うことを危惧する。


「此処で散り散りになるのは得策じゃないですよ」


 さとるが言う。鬼殻がこの街にいる状態で廬が御代志町に向かえば、戦えない自分たちはどうなるか目に見えていた。


「宝玉にしか興味がないなら、鬼殻は無意味な殺生はしないはずだ」

「何も知らない癖に知ったように言うじゃないか」

「俺は昔、鬼殻に会っている。数日でも一緒にいた。その時の鬼殻は美しいものを優先していた。つまり、美しくない者は眼中にない。特に今の状態は、宝玉を持たない新生物に興味なんてないだろう」


 廬ひとりで御代志研究所に向かうことを宣言すると「あたしも行く」とミライが言った。


「宝玉がある場所に現れるかもしれないなら、あたしも行くわよ。一切の戦力にならないのに研究所とか言う所を守りに行くなんて言うからつい言っちゃったけど、救いようが無くて笑えて来るわ。あたしの魔術がどれ程通用するか知らないけど、手伝ってあげる。こっちは何とかなるでしょう」

「で、でも僕たちも!」

「まあ待ちなよ、さとる。……死んだら責任はとれない。それに僕たちが優れているのは知識だけ、研究所には他にも特異能力を持つ同胞は多い。それでも廬に手伝いが必要だと思う?」


 さとるがこちらにも攻撃的戦力が欲しいと訴えようとすると儡が制する。

 儡もさとるも特異能力は脅威的ではない。さとるに関しては、怪我をしたら聡にも被害が及ぶ。


「ええ、とてもね。それにきっと相手は簡単な方から片を付けるでしょう」

「どうしてわかるのかな?」

「あたしの大嫌いな男がそうだからよ。すました顔をしているけどね。心のうちじゃあ嘲笑ってる。魔力が高いからってやりたい放題。気に入らないわ。あたしが此処にいる間は、この世界を守る」


 儡はミライの瞳の奥には復讐の色を見た。

 忌み嫌う相手がいる。自分たちが鬼殻を嫌うように同じ色を持っている。


「あたしを利用しなさい。あたしはあんたたちを利用する」

「……流石魔術師、何を考えているか分からないね。だけど、君の読みが外れ場合は僕たちは惨めたらしく死ぬという事で」

「少しは足掻きなさい。瑠美奈が守ってくれるなんて思い上がりも良い所よ。男なんだから、強い所を好きな子に見せるのは当然のこと、お解り?」

「うぅ。僕は弱くても良いよ」


 いつの間にか筥宮にいる人は男気を見せる事になり脱力している。

 貧弱だが勉強が出来るだけが取り柄のさとるは「ぼ、僕も糸識さんと行きたいなぁ~。なんて」と呟くと儡が言った。


「別に彼と行っても構わないよ」

「ほ、本当ですか!」

「うん。その代わり万が一鬼殻が襲撃した際は君も最前線で戦う事になるけどね」

「えっ」

「当たり前だよね? 研究所は襲撃を受けているんだから、誰を守るべきなのか困惑するに決まってるよ。それに比べてこっちには明確な守護対象がいる。しかも相手は憐だ。憐だって君に守られるなんて事はないだろうし、安全性を追求するのならばこっちが安全と言えるだろうね」


 真弥のように廃人になっていない憐は少しならば動ける。

 世界は騙せないが、人々を騙す事くらい、鬼殻を騙す事くらい容易に出来るだろう。研究所に行っても何もすることがなく。気がついたら死んでいたなんて笑い話にもならない始末になる。


「さとる。儡は別にお前を苛めたいわけじゃない」

「え? 苛めてるよ?」

「おい。……まあ、なんだ。さとる、真弥を任せたい。鬼殻にとっては狙う対象じゃないだろうけど、同じ病院にいる。人質になるかもしれないだろ」

「鬼殻に限って人質なんて取らないよ」

「万が一だ。病院には真弥の他にだって多くの弱った人がいる。もし鬼殻が来たら病院と連携して避難させてほしい。お前の力はそう言う所で発揮されると俺は信じてる」

「……糸識さん」


 儡とさとるがいたらきっと病院の方をどうにかしてくれるだろう。


「それに行動限界があるが、劉子だっている」

「彼女が信用できるかな? 仮にも景光のバディだよ」

「俺が信じてる。劉子は俺たちの味方だ」

「……瑠美奈に似て来たね」

「俺が信じてやらないと誰があいつの味方でいる。俺は信じてる」


(少なくとも瑠美奈が俺を信じてくれる限り俺は誰かを信じる事が出来る)


「…………。さて! じゃあ話はまとまったわけだね。じゃあ早速で悪いけど御代志に行ってもらうね。僕は、鷹兎君に頼んで例のビルに行ってみる」

「そ、それは僕も同行します!」


 話はまとまった。筥宮に残るのは、儡とさとる。

 御代志町には廬とミライが行く。

 ミライは明日、廬を迎えに来ると同時に儡とさとるはビルの地下を調査に向かう。


「くれぐれも喧嘩しないようにしなさいよ。あんたたちが殴り合いの喧嘩をしたら明日なんて来ないんだから」


 なんて言ってミライはホテルを出て行った。鷹兎に連絡を入れて明日、ビルに通してくれるように手配する。


「喧嘩なんてしないよ。喧嘩するほど親しくないからね」

「おい。俺は仮にも命の恩人じゃないのか」


 廬と儡だけが残ったホテルの部屋は殺伐としていた。


「僕の命の恩人は、A0じゃなくて糸識廬だからね。半分はA0になってしまった君には救われてない」

「……」

「君、自分で言っていただろ? 『俺は後悔しない。今此処にいる俺が偽物だとしても構わない。俺は今感じている事を偽物なんて思わない』ってね。それなのに今の君はまるっきり別だ。本物であることにこだわっている。それは僕への冒涜だ。僕が偽物だから励ましの言葉だったのかもしれない。君自身が本物であることを疑っていないから……偽物は僕一人で十分だと思われていたようで腹立たしいね。自分の意思と向き合っていない」


 A型0号であった事実を廬は受け入れなければならない。

 その記憶がないと言い訳をせずに受け入れて本物と対峙するべきだ。


「君の発言全てが矛盾しているね。僕に説教した君は何処にいるんだい?」

「……」

「弱い男に瑠美奈は任せられない。君は自分の事になると極端に弱くなる。責任を押し付けられる事を恐れて、君は逃げようとするんだろうね。そうやって生きて来たから無理もないだろうけどさ。いい加減逃げるのはやめたら?」

「逃げる事が癖になっていた。俺の所為にされない。俺に矛先を向けられないように逃げ続けた。気がついたら田舎に異動させられていた。イエスを言い続けた結果なんだろうな」

「此処にいる事、僕たちと知り合ってしまったこと、瑠美奈に会ってしまった事を後悔してる? 家族なんて言った手前対応に困っているとか」

「まさか。瑠美奈は大切な奴だ。後悔なんてしない」

「なら、そんな悩める君にアドバイス!」


 後悔がない癖にうじうじとしている。

 優柔不断の廬に儡はアドバイスと言った。


「大切なら自分の身を溝に捨てる覚悟でいなよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ