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第79話 ESCAPE

 床に叩きつけられた。どうしてなのか、考えるまでもない。

 瑠美奈の行動を押さえる事が出来る人物がこの場にはいるのだ。


「小田原ァ!!」

「怖いなぁ~怖いよぉ」


 瑠美奈は本性を晒していた。鬼化した瑠美奈の影を捕えて床に叩きつけたのだ。

 景光の力が瑠美奈の影を捕らえて身動きが取れなくなる。鬱陶しい力だと瑠美奈は景光を睨みつける。

 これが生身で背中を押さえ付けられているのなら、瑠美奈は力をフルに発して景光を殺していたところだ。しっかりと瑠美奈対策が出来ているのは鬼殻の入れ知恵だろう。

 冷たい床の上で這いつくばるしか出来ない瑠美奈を見て鬼殻は「はあ」と溜息を吐いた。


「我が妹ながら実に美しさに欠ける。完璧な姿をしているのに内面は汚物同然だ。どうしてそうなってしまったのか。勿論、考えるまでもないでしょう。貴方は数多の汚物を口にして蘇生を続けた。貴方の中身は穢れている。かつては美しく生娘のようだったと言うのに……」


「何人食べたんですか?」と膝を曲げて尋ねる。


「私が父を食べさせて以来、何人を食べて、その身を治して来たんですか?」

「っ……ぜったいにころす。おまえを!!」

「殺せると良いですね。次の厄災までに殺さなければ何が起こる事やら」


「それよりも」と鬼殻は立ち上がり偽廬を見て言う。


「彼の事が気になったりしないのですか? 私を殺すことに殺気立っていなくてもいいから、貴方は情報を知るべきだと思いますが」

「おまえをころせば、ぜんぶわかる」

「私を殺したって情報は得られないどころか、情報が消失してしまいますよ? 言ったでしょう? 何事も手順が必要だと、順序立てて物事は進む。そうではないと世界の均衡とやらは満足しませんからね。私も慎重に厄災を早めないようにしているのですよ」


 何を意味の分からない事をと瑠美奈は鬼殻を睨みつける。

 鬼殻はそんな視線も意に返さず偽廬の事を語り出した。


「彼はA型0号に容姿と身分を盗まれたのです。彼が幼少期の頃、父親が運転する車に乗っていました。飲酒運転の車が衝突して彼の父は即死でしたが、後部座席に座っていた廬君は何とか生きていました。事故が珍しい野次馬の中、偶然にもA型0号がいたのです。A型0号の力は、複写でした。自分の容姿を、記憶を、情報の全てを複写する。そして、頭の中で思い描いたものを他者に植え付けるという複写をしたのです」


 どうしてそれを知っているのか。鬼殻が偶然にもその場にいたのだろう。

 そして、事故に遭った偽廬は誰にも相手にされずに車の中で放置された。

 鬼殻が救助しなければ偽廬は死んでいた。


「私が筥宮に来ていたのは研究所の仕事でした。いつものように情報共有の為に向かわされた先で起こった出来事に私は心を奪われた」


 パソコンからの情報転送だとハッキングなどで新生物の計画が露見してしまう恐れがあった。研究所は情報媒体を手渡しする。A型は頻繁に研究所の外に出されていたからよく覚えている。今も時々、研究者が情報を余所の研究所に持って行くところを瑠美奈は見ていた。


 鬼殻がその担当だった日に偽廬が事故に遭っている場面に遭遇した。

 偽廬は何とか一命をとりとめたが、家を失い名前を失い身分を失った。


「A型0号は、B型が生まれた後も捜索が続けられていました。A型0号は自分の事を忘れてしまい。まともに会話など意味がないとわかっていました。なので、「貴方は素晴らしい存在だ」と私は彼の願いを聞き届けました。私について来たらやり直せるのかと……ね。全く、ありもしない過去に何をやり直すと言うのか嘆かわしい事ですよ。その後、彼の中には、透明な宝玉がある事が判明しました。その所為で私は私の中にある汚らわしい怪物の血が疼いた。彼と共に過ごして私の意思はまるで絵具で塗り潰されたように書き換わってしまいました。恐れたのでしょうね。どれだけ偽っても本心は変わらないのです。A型0号は少しずつ私の情報を複写した」


 複写されるまでは従順な研究所の鬼《犬》だった。妹が居て、弟分が二人ほどいた。

 完璧である為に精神が歪んでいくのを感じた。自分が可笑しいと気が付いて、それを封じていた。

 A型0号は、その事を見据えるかのように鬼殻の心情を搔き乱した。


 監視のつもりだった。廬の幼少期の姿をしたA型0号の監視観察をするつもりだった。

 だが寧ろこちらを変えていく。


「感謝はしていませんよ。彼の所為で私の中はぐちゃぐちゃになってしまいましたからね。ゼリーのようにぐちゃぐちゃに、カレーライスを混ぜるようにデタラメに。寧ろ怨んでいると言っても良い」


 鬼殻の中で変わってしまった。隠し通していた感情を引きずり出された。


「私の意識が明確になっていない間に逃げられました。その後は廬君の記憶をもとに生活して、人間を拒絶して生きて来たのでしょうね。本来、A0は一切人間の感情を与えられずに輸送されていましたから仕方ない事でしょう」


 A型0号は人の心を理解出来ていなかった。

 どれだけ感情豊かな子供の記憶を複写したところで何も理解出来ない。


「廬は、A0じゃない! かりにそうだとしてもおまえにはかんけいない!」

「そうでしょうか? 貴方が廬君と呼ぶ彼は宝玉を持っていると言っているでしょう? 宝玉はいつだって七つ存在したんです。それをA0は盗み出した。輸送中だったのはA0だけではなく透明な宝玉も移動されていたのです。透明な宝玉。黒の宝玉よりも危険だったのです。それが何も知らない。欲望を持たないA0が持つとどうなるか。個体の意思を操り、欲望に飢えて欲望を得る為に彷徨い続ける。それが今の糸識廬を名乗っている男の末路です。彼は、厄災を招くために生きているゾンビでしょうか。私は、彼を殺す為に此処にいる。そして、彼から出て来た宝玉を貴方に渡す事を役目に戻って来たのですよ」

「廬を……ころす?」


 廬を殺せば宝玉が出て来る。その宝玉を瑠美奈に与える。

 このまま宝玉を持ち続けていたら厄災は来る。廬の所為で厄災が来る。

 廬を、廬の中の宝玉を瑠美奈が支配しなければならない。


 七つ宝玉が存在すると言うなら回収しなくてはならない。しかしそれでは廬が死んてしまう。守るといった手前殺すために生かしておく。何たる偽善か。


「A0を殺すことが出来れば俺はまた家族と暮らせる。お前だって厄災を無かったことに出来る。もう誰も苦しまない世界が生まれるんだ。それに比べたら鬼頭鬼殻の復活なんて粗末なものだろ」


 偽廬が言う。

 兄が復活したのだから、これでまた一人ではないと揶揄うように笑った。


「是非、協力してください。これから憐のいる病院と御代志町の研究所に向かい残りの宝玉を回収します。終えたら貴方に全ての宝玉を差し出しましょう。そして、最後に黒と透明な宝玉を与えて死んでください」


 その過程は瑠美奈がしようとしている事のままだ。


「私が生前しようとしてたのは、適合者を片っ端から見つけて貴方に食べさせようと思いましたが余りにも手間がかかると気が付きました。なら、もう下手な意地を張ることなく貴方のやり方で事を終えてしまおうとね」

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