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第69話 ESCAPE

 その後、自宅に戻って料理をして食べた後に固定電話が音を鳴らした。

 廬が取ると案の定偽廬からの連絡だ。


『順調か?』

「そんなわけがないだろ」

『だろうな。俺の方は瑠美奈に会いに行ったぜ』

「ッ!? 何もしてないだろうな!!」

『そう怒るなよ。母さんが心配して来るだろ』

「……」

『お前がちゃんと母さんを更生する事が出来るなら何もしない。信用しなくても良いが信じてくれ』


 自分が一番信用ならないとはこの事だ。

 偽廬はその日あった事を語っていく。憐たちが何処にいるのか儡とさとると話し合ったとか。


「お前は知っているのか。二人が何処にいるのか」

『勿論知っている。けどそれを言えばお前は飛び出していくんだろ? それじゃあ母さんが幸せにならない』

「何が狙いなんだ」

『俺じゃあ母さんは幸せにはならないって星占いに聞いた。なら俺によく似たお前が俺の代わりに母さんを幸せにするしかないだろ?』


 星占いが新生物による未来予知だと言うなら偽廬は本当に母親の事を心配しているのだろう。

 此処で「偽物のお前が心配する意味がないだろ」と言えば向こうはきっと『お前が偽物だ』と答えるに違いない。どちらにしても今家にいるのは糸識廬を名乗る男の母親だ。


「お前にとって許せないのはなんだ。泣かせることか? それとも生きていないことか?」

『涙云々はもう仕方ない。心が弱っているうちは沢山泣くことが女性は仕事だと思う。ただ、その鼓動が止まった瞬間、俺はお前も新生物も皆殺しにする』


 途轍もないほどの執着心に廬は異常さを感じた。


『深く考えるのはやめたらどうだ? お前が深く考えた所で何も解決しないのは分かってるんだろう?』

「……何も考えないよりましだ」

『それはそうだ。じゃあ、考えろ。どうやったら母さんは幸せになって、瑠美奈は生き残れる?』

「……どう言う事だ」

『母さんを救うという事は瑠美奈を救う糸口が見つかるかもしれないだろ?』

「そんなわけがない。デタラメを言うな」


 母親を救っても瑠美奈は救えない。

 まだ瑠美奈を救う術は見つけられていないのだ。


『また明日、連絡する』


 それじゃあな。と友だちと通話するような感覚なのか偽廬は軽く通話を終わらせた。


「昨日も電話が来ていたけど、誰?」

「聖人君主」


 受話器を置いて廬はそう答えた。


 母親にしてみれば聖人君主だ。偽廬がこの場にいたら至れり尽くせりで万々歳。

 それを廬が叶えてやらなければならない。疫病神とは偽廬の事だ。


偽廬あいつのしている事に意味なんてない。もしも本当に俺だって言うならこんなに自分を蔑ろにした親に親孝行なんてしない)


 廬は別の場所に連絡を入れる。三十分ほどの通話を終えて廬はその日を終えた。



 最近、廬は夢を見る事がなかった。ホテルの一件以来、夢を見ずに目を閉じれば常闇が廬を迎える。そして、目を開けば朝になっている。

 寝た気にもならない。その所為で疲れが取れない事もあった。


 早朝、母親もまだ目が覚めていない時間に廬は起きた。

 家を出て少し歩く。気晴らしの散歩だった。


「あら? 昨日のお客さん」


 前から来たのは生花店の女性店員だった。

 今から店に向かう所だったようで廬を見つけると「偶然ですね」と笑みを浮かべる。


「そうだ! 昨日の御依頼の品。もう出来ているので良かったらお渡しします?」

「いいのか?」

「はいっ!」


 道中共に生花店まで行く。その間、瑠美奈に贈る髪飾りについて延々と語る女性店員。廬の恋人だろうと譲らない為、とても頑固で……だが、だからこそ相手に喜んでもらえる仕上がりが出来たのだろう。


「花を無下にする野郎もいるので、お客さんみたいに女の子にお花をプレゼントする男性は好意的ですよ! そこらへんの花を蔑ろにする人とは大違いです!」


 喜々と語る。花が好きなのか、花が好きな人が好きなのか。花を大切にする男性が好きなのか。いまいち分からないと廬は苦笑いをする。


「髪飾りを渡すシチュエーションって決めているんですか?」

「し、シチュエーション? 必要なのか?」

「当たり前じゃないですか! 女の子はロマンティックな場面でのプレゼントが心をときめかせるんです!」

「お勧めのロケーションは?」

「そうですね~。やっぱり商業区の一番高いビルが一番ですよね! あそこから見る夜景はとても綺麗なんですよね~」

「行ったことがあるのか?」

「就職活動で一度」


 失敗したがその時、いろいろと話し込んでしまい一度みた夜景がとても綺麗だったと熱弁する。


「だから、絶対にお客さんは……犯罪を起こしてでも! そこで髪飾りを贈ってくださいね!」


 そんな強引なことは出来ないし、彼女も冗談で言っているのは分かっていた。


(ただ退院祝いなんだけどな)


 たったそれだけの事を大袈裟になんて出来ないが何かもっとお祝いらしいことが出来ればと廬は思考を巡らせた。


 その頃にはもう店先に到着していた。裏口から入る女性店員は「お待ちくださいね」と言って店に入る。暫く待っていると生花店のエプロンをした女性店員が可愛らしい包み紙に包装された髪飾りを持ってきた。


「どうぞ!」

「ありがとう」

「いえいえ。必ず良い感じの所でプレゼントしてくださいね! そして、その感想を機会があれば教えてください。私が丹精込めて作ったので」


 中身を確かめるまでもないと思った。女性店員は今回が初めての依頼だったのだと語る。厚かましいと言われても傑作を客に出せたことが嬉しいと体で示した。


 仮に廬が瑠美奈を連れて店に来て感想を伝えたとしても母親の仕事が決まるわけではないが純粋に気になる事だったのだろう。


「またのお越しをお待ちしております!」

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