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第48話 ESCAPE

 豪華な演出は目を刺激する。

 憐とミライが舞台に戻って来る。スコアが無事に決まったと言う。

 司会者の手にその結果が握られている。


「お待たせしました! 得点が無事に計測を終え此処に記録されています! 今年のDHR王者は誰になるのか!! 女神は誰に微笑むのか!?」


 会場の照明が落とされスポットライトが激しく動き回る。


「今年の栄えあるDHR王者は!! この方です!!」


 ドラムロールが起こった後、照らされたのは憐が予想していた通りミライだった。

 会場が拍手で包まれる。敗北した憐は早々に舞台から降ろされ王者にはインタビューが待っていた。


「ナイスファイト。憐君」


 裏で待っていた真弥が言う。


「疲れたっす。天狗~、乗せろ~」

「俺、本当に筋肉痛なんだって」

「俺は準優勝者っすよ? 乗せてくれないとド屑の奴に頼む」

「あ~、はいはい」


 真弥は我儘な弟の面倒を見るように肩車は流石に目立つため憐を背負った。

 準優勝者には一切スポット当たらない。勿論、負けた気持ちなどを追及してくるものがいるのは知っている。

 憐はそんな事を答えるのは面倒だったため、早く儡たちに会いたかった。今日のイベントで分かった事も伝える必要がある。

 周囲には幼い少年に見えるように力を発動して目を閉ざし思考を整理する。


『今回、この大会に出た一番の理由は?』

『お母さんに会いたくて』


 通路に設置されたモニターから流れる会場の様子、マイクを寄せられてミライが返答をしていた。


『今、別の所に住んでいるお母さんがニュースを見て知ってくれたらいいなって、お母さん、あたしは此処にいるよ!』


 それはメッセージには聞こえなかった。まるで迷子の子供が目立って母親に見つけて貰おうとしているようだった。


『きっとお母さんもミライさんの活躍を見ている事でしょう!』


 場違いと言うより、その言葉の意図を理解していない司会者が笑顔で言う。


「憐、おつかれさま」

「お疲れ、惜しかったね」

「旦那、お嬢~。俺もうクタクタっすよ~」


 労ってくれる二人に甘えようとしたがそれよりもと「宝玉を見つけたっす」二人に伝えた。





 二十二時、やっと記者から解放されたミライは深い溜息と共に筥宮ホールを後にした。

 涼しい風が頬を撫でるのを堪能しながら道を歩いていると「やっぱ優勝しなくて良かった」と笑う声が聞こえた。


 声の方を見ると『危険行為直チニ降オリテクダサイ』と防衛機が街灯に向かって言った。その街灯の上には見覚えのある人物が立っていた。


「あんた、そんな所に登って猿か何か?」

「猿? 冗談、俺は狐っすよ? お狐様って信じてないんすか?」


 指を狐の形にして笑う憐に呆れるミライは「玉は渡さないわよ」と先に言う。


「俺には渡さなくて良いっすよ。その代わり、俺のお嬢と旦那には渡してもらわなきゃならない」

「は?」


 言っている意味が分からないとミライは反射的に呟いた。

 

「宝玉って体に良くないんすよ。持ってるだけで身体が爆発する。だから俺は善意で、清らかな気持ちで、嘘偽りない瞳で、あんたに忠告してるんすよ」

「あんたの言っている事が全て嘘だって言うのは理解出来たわ」


 呆れたとミライは相手にしてられないと踵を返そうとするとそこには憐が立っていた。街灯からかなり距離がある。どれだけ身軽だとしてもミライの少し前に着地するなんて不可能だと再び街灯を見るとそこには憐がもう一人いた。

 どう言う芸当を使っているのか凝視していると「イリュージョンっすよ」と騙る。


「あんたが自分の事を魔術師だって言うんなら、俺は道化師っすかね?」

「……道化師、あんたもしかして狭山さんが言っていたクズな道化師?」

「狭山? 誰っすか?」

「知らないなら、別人か。気にしないで……」


 何か含みのある言い方をするのが気に入らない。


「なんだって良いっすよもう……。とりあえず、傷つけたくないんで大人しく渡してもらえないっすか?」

「嫌だ。あんたの言う旦那とかお嬢とかにも渡さない」

「……まっ! そーっすよね。だから、俺は汚れ仕事を請け負うんすよ!!」


 地上にいた憐が拳を突き出してミライを襲った。

 だがミライは軽く後退する。


「やっぱ。あんた、ただの人間にしては身体の作りが可笑しいんすよ」

「人を化け物扱いしないでくれるかな?」

「化け物相手ならもっと上手に扱えてるっすよ。俺、専門家なんで」


 怪物を親に持つ憐ならば人外の扱いを心得ている。

 ミライは違う。作りで言えば完璧に人間だ。しかし人間と断言するには少しだけ違う。


「魔術師」

「……」

「あんた、マジモンの魔術師だって言うんなら魔術を使ってみろよ」

「なんで上から目線なわけ?」

「あんたは俺を傷つけられないから」


 何処からそんな自信が出て来るのか分からないままミライは「減るわけじゃないし」と観念したのか、憐の態度に呆れたのか魔術を見せる事を決めた。


未来失楽ロストフューチャー


 そう呟くと憐の周囲に光の弾が飛んでくる。それに触れてはいけないと直感する。

 紙一重で回避すると茶化すように口笛が聞こえて来た。


「これは初歩の魔術。別に呪文は必要ないけど景気づけにね」

「その割には俺を始末しようって気配がしたんすけど」


 冷汗が流れる。次に呪文とやらが唱えられたら終わりだと直感する。

 野生の勘なのかもしれない。憐はとりあえず、ただの人間ではない事を確定した相手に手を抜いてやるつもりはないと睨んだ。


「宝玉を奪えばただの小娘だろうがよ!」

「言ってくれるじゃない」


 万物をも騙す狐と得たいのしれない魔術師。

 人がいない事を良い事に暴れ続ける。


 怪しい球体が憐の衣服を溶かす。憐の力がミライの視界を鈍らせる。

 宝玉を見つけることが出来れば憐に勝機はあると同時に憐の弱点をミライが見つけてしまえば終わる。


「あんたこそ、何者なのかな?」


 ちょろちょろと翻弄する憐に苛立ちを感じているミライは尋ねる。

 初めは魔術師だと冗談で言ったが、相手が魔術師と対等にあり合っているなんて信じられないと憐の素性を尋ねる。


「言ったじゃないっすか。俺は狐だって」


 狐。その言葉にどれ程の意味が込められているのかミライでは理解できる範疇にない。


「魔獣が人間になるなんて事あり得ないか」


 ぼそりと呟いたミライは憐を凝視する。

 憐も同じくミライを凝視する。


 相手が本当に人間なのか。

 相手は秘密裏に作られた最新型の新生物なのか。


「殺して死ねば人間っすよ」

「あたしを殺すって? この世界もろくな世界じゃない」


 物騒な相手を退ける。

 球体が憐を襲い直撃したと思った矢先、ミライの腹部に刃物が突きつけられていた。


「ッ!? どうして」

「俺を侮ると痛い目を見るっすよ。魔女っ娘ちゃん」

「どうせそれだって偽物でしょう?」

「そう思う? なら貫いてみる?」


 もし偽物だと、憐の力で生み出された幻だとするのなら腹部に出来る傷は偽物で痛みなど感じない。ミライは身構える。徐々に力が込められる。皮膚が傷つく感覚、そこに集中して熱くなる。


GoodBye(さいなら)

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