第63話:予想外の展開に弱ぇー・・・
今週もう一度更新んできたら嬉しいです。
「もう大丈夫なの?」
心配そうにレーアが問いかける。
リンカは半身をベッドから起こすのがやっとであった。
「まだ動くのは厳しいですが、大丈夫だと思います。魔力欠乏症になるのは生まれて初めてです」
リンカは正確に、自分の身に何が起きたのか把握していた。
潤沢な魔力量を誇っているリンカである。
これまで魔力欠乏症とは無縁の人生を歩んできたのだろう。
そうだとしたら、俺はその様子に僅かな違和感を覚える。
リンカはなぜ、自分が魔力欠乏症になったとわかったのだろうか?
リンカは一度深く息を吸い、吐き出した。
そして、今一度確認のために部屋中を見渡す。
次に口を開いた時、そこにいつものリンカの姿は無かった。
「皆さん、本当にすみません。転移する際、私が一番鮮明に描いてしまったのがここでした・・・・。ここは、私の部屋です」
俺達は驚き、部屋を見渡す。
「場所はメデゥカディア島です。つまりここは、シュタットフェルト魔法学院の寮の一室です」
リンカの言葉を聞いた俺達の反応は三者三様であった。
俺は地名を聞いても良く分からず、首を傾げていた。
ティファニアは驚きに大きく目を見開いた後、興味深そうに窓からの景色に視線を移した。
そしてレーアは、驚きすぎて軽くパニックを起こした。
「え? 本当にシュタットフェルト魔法学院なの? だってそれなら、大陸の半分を横断したことになるのよ? あの一瞬で??」
さすが元冒険者ギルド職員だけのことはある。
メデゥカディア島がどこにあるのかわかるようだ。
それにしても、大陸の半分を横断か・・・・。
それならあのリンカでも魔力欠乏症になるのも頷ける。
もし、リンカの魔力がもう少し少なかったら。
もし、リンカが転移の前にもっと魔法を使っていたら。
もし、俺の描いた魔法陣の大きさが小さかったら。
もし、俺の描いた魔法陣があそこまで複雑なものにしていなければ。
このどれかでも当てはまったら、転移は成功しなかっただろう。
あるいは、もっと近場へ転移できたのだろうか?
今となっては知る由もない。
「何も問題ないでしょう。リンカが動けるようになったら、エルアルドまで再度転移すればいいだけの話です。その際は私が魔力を使えば転移できるでしょう」
ティファニアが何の問題もないと言う。
魔力の総量だけ見れば、ティファニアの方が多い。
だから、転移に支障はない。
「私はもう大丈夫です。早く転移しましょう」
リンカが無理やりベッドから起き上がる。
ここにいたくない理由でもあるのだろうか?
床に足をついた瞬間、体が倒れそうになる。
明らかに意思と肉体が解離している。
あわててレーアが受け止めた。
「本当に大丈夫か?」
俺が心配そうにリンカへ問いかける。
「はい。早く、お願いします」
覇気のないリンカの声は、魔力欠乏症ゆえか、それともこの場所のせいなのか俺には判断できない。
とにかく、リンカが大丈夫というのなら転移しよう。
休むならその先で休めばいい。
俺はリンカに断り、床に転移の魔法陣を描く。
程なくして、先ほどと同じ魔法陣を描き上げた。
「行き先はエルアルドの冒険者ギルドにします。いいてしょうか?」
「問題ない」
「大丈夫よ」
「はい、大丈夫です」
ティファニアは俺達の返事に頷くと魔法陣へ魔力を込め始める。
次第に魔法陣の輝きが増し、視界を光が覆った。
いつもと変わらない転移の瞬間である。
ただいつもと違うのは。光が収まった後でも景色が変わっていないと言うことだ。
つまり、俺達は未だリンカの部屋にいる。
それが意味することは、転移失敗に他ならない。
「どういうことだ?」
ティファニアに尋ねるが、本人も首を傾げるだけである。
「もう一度やってみます」
再度ティファニアが魔法陣へ魔力を込め始める。
しかし、やはり光が収まった後でも、俺達がいるのはリンカの部屋である。
「何で転移できないのよ? あんた、魔法陣間違ってるんじゃない?」
レーアが失礼なことを言う。
俺が間違えるはずがないだろう。
そう反論しようとしたが、一応確認のために魔法陣を眺める。
もし間違っていて反論した日には、どんな目に合わされるかわかったものではない。
・・・・やっぱり合っている。
間違いはない。
ではなぜ転移できないのだろうか?
「魔法陣に間違いはない。俺にも転移できない理由はわからない」
それを聞いたレーアが眉間に皺を寄せる。
いや、そんなに睨まれても俺にはわからないから。
嘘だと思っているのだろうか?
「もしかしてとは思いましたが、やはりこの島を覆う結界が阻害しているんじゃないかと思います」
リンカが困ったようにそう言った。
「それならどうして私たちは入れたのよ?」
「詳しいことはわかりませんが、この島には2つの結界魔法で覆われています。1つは外敵から島を守るため、もう一つは島内の魔法を規制するためです。おそらく後者の魔法に転移が引っかかったのではないかと思います」
「なぜそう思う?」
「それです」
そう言ってリンカが俺の腰を指差す。
腰には『月下の大鷹』からもらった魔法のポーチがある。
「これか?」
俺がポーチを指し示すとリンカが頷いた。
「シュタットフェルトには外部に出せない情報、魔法具、知識があります。だから、収納拡張魔法のかかった魔法具を持ち出すことができないようにしているのです。その効果が転移魔法にも影響を与えたのではないかと思います」
ふむ、と腕を組んで考える。
本当にそれが理由なのだろうか?
そもそも、魔法具を持ち込むことはできて、持ち出すことはできないなんて結界を作るだろうか?
俺にはなんとなく、別の理由があるように思える。
「それで、どうするのよ? ずっとこのままってわけにはいかないでしょ?」
レーアの言葉に、俺達は先ほどまでの思考から現実問題へと切り替えた。
「通常の船で島から出るしかないな。それから転移してエルアルドに戻ろう」
一番現実的な方法を提案してみる。
「それは難しいと思います。シュタットフェルトから出る者は厳しく審査されます。それに、そこまで船の往来はありません」
「そうなのか? それにしては港は船でいっぱいだぞ?」
俺は窓の外を指差して言う。
船でいっぱいというか、入港できていない船まである。
明らかに港の許容量を超えた数だ。
「そんなはずは・・・・、なぜでしょうか?」
お前が知らないなら、俺達も知らないだろう。
少し真面目に話していると思ったが、リンカは相変わらずだな。
リンカは驚き、しばらく港を見下ろしていた。
俺達も彼女に倣い、視線を外へ移す。
メデゥカディア島を囲む海は綺麗である。
エメラルドグリーンの海で、海洋貿易が盛んなリェーヌ近海とは大きく異なる。
俺は少しだけ窓を開けてみた。
心地よい風が頬をなで、僅かに潮の香りが鼻に触れる。
本当に良いところである。
バカンスにでも来たらちょうどよいのではないだろうか?
そんなことを思っていると、後ろで部屋のドアの開く音がした。
その瞬間、ティファニアが驚異的な速度で反応した。
ティファニアは一瞬で来客へと接近する。
瞬きほどの時間もない。
ティファニアは来客の腕を引っ張り、部屋の中へと引きずり込みドアを閉めた。
そのまま腕を絞り上げ、床に組み伏せる。
洗練された動作で、一部の隙もない。
「セリア様どうしましょうか? 口を封じましょうか?」
いきなり物騒なことを言ってくる。
さすがにいきなり殺すとかはないだろうが、先の来訪者の仲間の可能性もある。
「まってください。もしかして、ユイちゃん?」
リンカが顔を確認しながら来客へ問いかける。
「知り合いか?」
「はいー。私の学校の後輩ですー」
リンカがいつもの調子で答える。
切り替え早いな。
「リ、リリ、リンカ様ー!?」
驚いて声を上げるユイの口を、ティファニアが容赦なく手で塞ぐ。
「んー! んんーん!」
何か言いたそうなユイであるが、暴れる度にティファニアの締め付けが強くなる。
というか、途中から悲鳴に変わっている。
なんだか、かわいそうだな・・・・。
「ティファ、放してやれ。あんたも、大声をだすなよ?」
俺がそういうと、ユイが頷く。
それを見てティファニアが拘束を解く。
ユイと呼ばれた少女は、俺達を警戒の眼差しを向ける。
「久しぶりー。ユイちゃんは元気だったー?」
リンカがそう微笑みかけると、ユイはリンカの元へ駆け寄る。
それをリンカは優しく抱きとめた。
しばらくそうして、ユイが落ち着くのを待つ。
やっと落ち着いたユイは俺達を見定め、怪訝そうな顔をする。
「リンカ様、いつお戻りになられたのですか? この人達は誰ですか? それに、なぜエルフがシュタットフェルトにいるんですか?」
ユイが敵意のある顔でティファニアを睨みつける。
俺達も警戒レベルを引き上げる。
「どういうこと意味だ?」
俺の問いかけにユイは何も答えない。
どうやら聞こえなかったようだ。
「おい、どういう意味か説明してくれ」
少し大きな声で話しかける。
しかし、ユイはこちらを見ようともしない。
突然難聴にでもなったのだろうか?
「ユイ、セリアさんの質問に答えてください。ちなみに私は、さっきここへ戻ったのよー。それで、今は元の場所へ戻る方法を模索中ですー」
「元の場所へですか? また、いなくなるのですか? 理事長も心配していました」
「おじいさまが心配ですかー・・・・。申し訳ないけど、まだ旅の途中ですよー」
それからもリンカとユイは話を続ける。
だが、二人の会話はどんどんあらぬ方向へと進んでいく。
おーい、戻って来-い。
エルフに驚いた理由を筆頭に、俺達には知らなければならないことが多すぎる。
だから、その話をさせてくれ!
俺が心の中で叫んでも、二人の会話は道からどんどん外れていく。
もう諦めようかなと、少し心が折れそうになるのを感じた。
いつもご愛読ありがとうございます。
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