ガラス越しの夢
咲き誇る大木。
その下に蹲るのは小さなワタシ。
慰めるように寄り添ってくれるのは精霊やマモノたち。
彼らはワタシの友達だった。辛いとき苦しいとき、いつだって傍にいてくれた。
ワタシの大切な友達。
「サクラ、また泣いてるのか?」
「おにいちゃん…ないてないよ、サクラ、ないてない。」
彼はワタシの頭をゆっくりと撫でた。
精霊たちはさっと彼を避ける。
「そうか…。今日は俺の友人を連れてきたんだ。ブラン、来いよ」
彼がそう言えば、どこからともなく現れる人影。
彼の髪は光によって様々な色を映す。
「はじめまして、小さなお姫様。」
「きれい…」
「お褒めいただき光栄ですよ。」
ふんわりと彼が笑えば、その場が明るくなる。
その様子にむくれた様子の彼。
今思えば、彼は意外と子供っぽいところがあった。
それを窘めるのはあの人。
「サクラ、俺は?きれいか?」
「__、嫉妬はみっともないと思うけど?」
「うっせ、__」
「ノアはかっこいいよ?」
「姫様に気を使わせて、君って奴は…。」
呆れたように相手を見る。
「ほんとだよ。ノアはかっこいいのよ。それに、ノアはサクラとおそろいなの。だから、このかみもだいすきよ」
そうワタシが口にすれば苦しいほど抱き締められた。
誰かに抱き締められたのはこれが初めてだった気がする。
ノア、苦しいよ。なんて口にしたけど、その腕はあったかくて。
泣きたくなるほどだった。
「ね、ずっとサクラといっしょにいてくれる?」
蚊が鳴くような小さな声だったはずだ。
それなのに私には杭を打つようにはっきりと聞こえてくる。
「あぁ。いつでも傍にいてやる。」
「俺もですよ。」
大きく頷いた二人にワタシは飛び付くように抱き付いた。
そんなワタシを二人は慈しむように髪を撫でた。
「さぁ、姫様。今日は俺達と遊びましょう。精霊やマモノたちも一緒に。」
「うん!あ、サクラ、姫様じゃないよ。姫様は、リリーだもの。サクラはサクラだよ。」
「俺達にとっては姫様は貴女ですが…サクラと呼びますね。
でもサクラか…貴女にピッタリな名前ですね。この咲き誇る花弁のように美しい。」
彼が手を振れば、咲き誇る桜が風に吹かれ舞い上がる。
花びらは私の視界を奪い、次に見えたのは少し大きくなったワタシ。
あれは…殿下たちに出逢った頃か。
「ノア!」
「サクラ。今日も王子のところか?」
「うん。お勉強…。」
「そうか、頑張ってるんだな。」
「でも、お城は嫌い。ノアたちと魔術で遊ぶ方が好きよ。精霊のみんなとかくれんぼしたり、マモノのみんなとおいかけっこしたり。
それに、お城の人たちは精霊のみんなのこと見えないし、マモノのことを嫌うのよ。こんなにいい子なのに…。」
近くにいた精霊やマモノたちを抱き締めるワタシ。
「仕方ないさ。普通の人間は精霊を見えない。精霊たちは恥ずかしがり屋だからな。
マモノは…本能で生きてるからなぁ…。」
「ほんのう?」
「うーん…食べたいからご飯を食べる。寝たいから眠る。みたいなことだ。」
「まるでノアみたいね?」
「う…」
「あはは、一本取られたんじゃない?」
笑い声と一緒に現れた彼。
その笑い声に不機嫌そうな顔を浮かべる彼はワタシの髪をぐちゃぐちゃに掻き回す。
「きゃっ…もう、ノア!」
「八つ当たりは良くないよ。
こんにちは、サクラ。今日は何して遊ぶんだい?」
「こんにちは。今日は…あ、魔術を教えて?ブラン、今度会ったら教えてくれるって言ってたでしょ?」
「そうだったね。どの魔術から教えようかな。」
「あ?もちろん、俺の属性からだろ。」
「闇属性なんて高位魔術をいきなり教えられるわけないだろ?まずは簡単な…」
「はぁ?闇属性からだ!これは絶対譲れねぇ!」
そんな言い合いを見ながらワタシはただ笑っていた。
あの時間が永遠に続くと信じていたから。
でも、年を取るごとに精霊たちは見えなくなって、彼らにも会えなくなった。
そして今、色さえ失われた。
目の前に咲き誇る桜は色を失っている。
大切な想い出の詰まった桜の大木。
その色さえもう見えはしないのだ。




