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きっと、この恋も一緒


目を開けば黒が広がる。

夢の続きかと思うが、鼻につくような魔法薬の匂いに違うことに気付く。



「ここ、は…」

声に出してみれば掠れた声。

あれだけ泣き叫んだのだ、仕方ないだろう。



「サクラ、起きた?」

「ここは保健室だよ。気分はどう?」


私の声に気付いたユージン様とジェイド様の声がかかる。


「水だ。ゆっくりでいいから飲んどけ。」


差し出されたコップには水がたっぷりと注がれている。


「ありがとうございます。」


冷たい水が張り付いたような喉を潤す。

ほっと一息つく。


「それで、何があった?」


「なにも…」

「なにもないということはないだろ?」

私の言葉を遮るようにグレン様が声をあげる。

貫くような視線は、嘘を許さないと言わんばかりの強いもの。

他の6対の瞳も私をじっと見ていた。


「……色が、消えただけです。」


そう言えば、


「どの色が消えたかわかるか?」

その言葉にぐるりと部屋を見渡す。しかし、そこには黒が広がるだけ。

「見える色を数える方が早いですね。」


皆さんの肌の色。

太陽の光によって反射する金のボタン。

藍色のコップ。

濃淡のお陰で見える白。


そして視界の殆どを覆い尽くす黒。


つまり、見えているのは

「皆さんの肌の色。金。藍色。この3色が視えるといえる色ですね。」


そう答えれば、息を飲む音が聞こえる。


「この間よりも増えてるじゃねぇか。」

「そうですね。まぁ、視えないなら仕方ないです。これまでだって視えてなかったんですから、今更じたばたしても仕方ないじゃないですか。

なんとかなりますよ。」


「サクラちゃん…。」

「サクラ、それは…。」

ユージン様がなにかを言いかけて途中で口を閉じる。

今更だけど、ユージン様にバレたんだ。


「サクラ、お前はこれからどうするつもりだ。」

「どう、とは?」

「その病気を治す気があるのか?あの馬鹿(シュラ)へ伝える気は?」

後回しにしていた問題を突き付けられる。

治す気は…ある。

治るかはわからないが、原因となっているモノも何と無く想像もついている。


殿下に話す気は、正直ない。

話したところでどうなるというのだ。

リリーのもとから離れてくれるというのか。

私を愛してくれると?



そんな幻想を抱くほど甘くない。

もう、裏切られるのは懲り懲りだ。



「殿下に伝えるつもりはありません。今更伝えてなにか変わりますか?」

「だけど、シュラだってきっと知ったら…。」


「『傍にいてくれる。』ですか?」

ユージン様の言葉を引き継ぐ。


「病気を理由に縛り付ける必要がどこにありますか?」

「縛り付けるなんて、シュラは!」


私の言葉にユージン様は刺されたような表情を浮かべる。


「そうですね。曖昧にしていた私が悪いのです。」

認めるのが怖かった。でも…もう認めないと。


「シュラ殿下はリリーに懸想されているのです。だから、私はシュラ殿下に伝える気は毛頭ありません。

婚約も、元々は私が黒持ちだから成立したようなもの。魔力の枯渇した今の私は監視する必要などなくなる。

つまり、婚約破棄されても可笑しくないのです。」


“シュラ殿下は私を愛していない。”

あんなにも認めることが怖かっていたのに、口に出てみれば呆気ないもの。


「ちょっと待って!サクラ、それはっ!」

「サクラちゃん、それは勘違いで、」


なにが勘違いなのだろう。

王家が望むからシュラ殿下の婚約者に据えられた。それは黒持ちだからで、それ以上でもそれ以下でもない。


「おい、枯渇した魔力ってどういうことだ?」



「そのままです。色が失われる度に魔力が失われているのです。といっても、見た方が早いでしょう。

ふぅ…『風よ 吹き渡れ!』『凍てつく氷よ 貫け!』」

詠唱する度に指先から感覚が薄れていく。それなのに魔術は発動せず、冷たい風が頬を優しく撫でるだけ。


「『燃え上がる…』」

「やめろ、もういいっ…それ以上は危険だ。」

先生が私の腕を掴む。その手が温かく感じるのはきっと私の体温が下がっているからだろう。


「ご覧の通り、初等魔術ですらまともに発動しません。黒持ちですが、今は普通の人間にすら劣るでしょう。こんな娘がこの国の脅威になるわけありません。」

身体に纏わり付く倦怠感。話すことですら億劫だ。


「もういい。話すな。これでも食ってろ」

と口に押し込まれたのはチョコレート。

先生にチョコレート…。なんだか少しチグハグな気がする。


「サーディル卿は…。」

「知らないだろうね。知っていればなにかしら対処するだろ。」

「まともに視えている色は3色。人が認識出来るのは幸いだけど、それでも残りの2色は生活する上でなかなか見ない色ばかり。サクラちゃんを一人にするのは心配だね。」


「サクラ、俺の屋敷に来るか?」

「グレンの家に行くのは不味いだろ。ただでさえ良くない噂が出回ってるのに…ここはシュラの従兄弟の俺が妥当じゃない?」


「いえ。大丈夫です。ユージン様が仰る通り、父は私に無関心ですから。なんとかなりますよ。それよりも、良くない噂とは…?」


ジェイド様とユージン様が顔を見合わせる。

その顔は言うべきかと迷っているようで、口にするのも戸惑われる内容なのだろう。


「『サクラ・サーディルは妹のリリー・サーディルを殺そうとしている』

そんなことサクラがするわけない。根も葉もない噂だ。でもまだ出所がわかっていない。」


『サクラ・サーディルは妹のリリー・サーディルを殺そうとしている』か…。


「だから、サクラを一人にしたくないんだ。サクラが陥れられるかもしれない。傷付けられるかもしれないのに見てるだけなんて嫌だから。」


その言葉に頷く他の3人。ふんわりと胸奥の方から温かくなる。



「心配してくださりありがとうございます。ても、やはり、ご迷惑をおかけするわけには参りません。

きっと大丈夫です。」


悪意に晒されるのだって慣れている。

伊達に生まれてから黒持ちをやってない。


「迷惑じゃない。」

「大丈夫だって根拠はないじゃない」

なおも言い募るグレン様とユージン様を押し留める。

「何かあれば相談すると約束します。」


差し出す小指に絡まる体温。

それはあの幼い頃の彼らと重なる。


『また明日。』

そう言って絡めた小指。


あの頃より遠くまで来たんだな…。

どこか哀しくてどこか痛みを含む感傷に私はただ絡めた小指を眺めていた。



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