もう望んだって手に入らないってこと。
2016年最後の更新となりそうです。
ただ、愛されたかっただけなのに針の筵のような学院や居場所のない家。心休まる場所など何処にもなかった。
口さがない噂話に心が壊れてしまいそうだ。
それでも、学院に向かうのは、帰路につくのは…そこにしか私の居場所がなかったからだ。
サクラ・サーディルとしてしか生きることが出来ないからだ。
家を捨て、名前を捨て、姿形を変えて生きていく。そんな勇気がないからこうしてまだ生きている。
たとえ、目の前でシュラ殿下と妹が密会してようとも。
知りたくなかった。
気付きたくなかった。
気付いたら惨めになるだけだから。
「遅くなってすまない。」
「私がシュラ様に早く会いたくて、約束の時間より早く来てしまっただけですから」
「リリー…」
恋人同士のように身体を寄せあう二人に、胸がズキズキと傷み、張り裂けそうだ。
私の婚約者なのだからあの仲を問い詰めればいいのかもしれない。
けれど、まるで絵のような、愛し合っていることが一目でわかるような姿に引き裂くことなど出来そうになかった。
ううん。これは言い訳だ。
もし、今出ていってシュラ殿下に引導を渡されてしまえば、妹のことを愛していると言われてしまえば、私はきっと
クルッテシマウ。
「シュラ様。私、」
「リリー嬢…」
「わかっていますわ。だからこそ…」
「俺は、」
途切れ途切れに聞こえてくる言葉に身体が押さえ付けられるようだった。
逃げなきゃいけない。そう頭の中で警鐘が鳴り響くのに足は動こうとしない。
動け、動いてよ。
脳から信号を送っているのに、何処かでその信号は遮断されているのだろう。
「………が好きだ。愛している。」
―――――――――パチン。
―――――――――パチン。パチン。
―――――――――パチン。パチン。パチン。
―――――――――パチン。パチン。パチン。パチン…
その言葉と共に、一斉に鳴り響くスイッチの消える音。
言葉にならない声。
血の気が引くように急速に冷たくなっていく身体。それに反して、痛いほど熱くなる瞳の奥。
遮断されていた信号はやっと解除されたようで、私の足はやっと動き出した。
親密そうに寄り添う二人。という見たくなかった光景。
愛しているという聞きたくなかった言葉。
シュラ殿下の心はリリーの物になってしまった。
突き付けられた現実。
締め付けられたように息が出来なかった。
何処をどう走ったのかなんて覚えていない。
あの場所から、あの二人から逃げ出したくて滅茶苦茶に走ってきた。
「はぁ…はぁ…」
荒い息を溢しながら、木の幹に身を任せる。
見上げた先には咲き誇る真っ黒な桜。
あぁ…。
「もう、この花すら見えないのね」
身を任せていた身体から力が抜けて、ずるずると座り込んでしまう。
もう、立ち上がることすら辛い。
いっそ、このまま…。
「サクラ?」
上から降ってくる声に視線だけを上げる。
そこには色彩の欠けた彼ら。
どれだけの色が消えたのかと思うと同時に言い様のない感情に襲われる。
「…なんで、私が…?」
「サクラ?」
堪えていた想いが溢れてしまえば、後は石が坂道を転がっていくように吐き出す。
「私が、何をしたっていうの?」
「ただ、必死に生きてきただけなのに。愛されたかっただけなのに…」
「色彩が消えていくなんて、もう平気なフリできない。」
「怖い、怖いよ。どんどん真っ黒になって、色が消えてっ…」
「そんなに、妹がいいの?」
「期待なんかさせないでよ、どうせ離れていくくせに」
塞き止められていた感情が零れるとともに頬を涙が伝っていく。
グチャグチャな思考。
だけど、これだけはハッキリとしていた。
「幸せになりたい、それだけなのに…」
取り繕うことのない、本心だった。




