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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
肆 『異常』な女王銃(プレイン・ブレッド)
35/44

参拾肆殺

「ところでちゃん、お目目は大丈夫? さっき『普通』の閃光弾の数十倍の性能を持った瞬光弾スパーク受けたと思うんだけど」


 お姉さんがニヤニヤしながら尋ねてくる。

 瞬光弾? あー、さっきの閃光弾の事ですか。あれも最新鋭銃弾ユニカル・ブレットだったんだー


「大丈夫ですよー。この前みたいにお目目はバッチグーでーす! お姉さんの真っ白いパンツもバッチシ見えまーす!」


 私の言葉に、お姉さんは顔が赤くなり、両手でミニスカートを抑える。


「ちょっ、どさくさ紛れて何処見てんのよ! あとあたしは白じゃなくて緑よ緑! ライトグリーンよ!」

「えー? ライトグリーンなんですかー? 態々教えてもらわなくても良かったのにー」

「なっ……」


 お姉さんは再度顔を真っ赤にする。きゅふふ、お姉さん可愛いー


「……ていうか、今の話の間であたしに不意打ちするチャンスぐらいあったんじゃないの?」


 お姉さんはまだ顔が赤いけど、冷静さを取り戻して私に聞いてくる。

 確かにそうなんですよねー。パンツ見た事を言えば(勿論見えていない)隙ぐらい作れるかなーって思って話振ったなんだけどー、


「いやー、やろうかと思ったけど、お姉さん全然隙見せないから無駄でしたー」


 けどさすがはお姉さん。あまりの『異常』さに、仕掛けようとしたら返り討ちに遭いそうだったから止めちゃった。

 それにしても、この部屋ヤバいなー。火薬の臭いだけじゃなくて、色々と油の臭いもするー。

 私に残された武器はクナイ十本、針三十本、小太刀一本、ワイヤー10m、棒状手裏剣10本、かー。最初で銃を無くしちゃったのは痛かったなー。私もお兄ちゃんが持ってるぜつがんとう神流かんなづき』みたいな刀ほしいーなー。今度理事長さんかこうげんさんにでもおねだりしーよっと。あーでも、次があったら良いなー


「そんじゃまっ、早速りますね、お姉さん」


 わたしはクナイを握り締めて、お姉さんに突っ込む――と見せかけてクナイを投擲する。

 ――ビュッ!

 まさに待ち構えていたお姉さんの首と頭目掛けてクナイが飛ぶ。けど、

 ――プチン、パチン

 クナイが飛んでいる途中で、何かが切れる音が聞こえた。そしてお姉さんを狙ったクナイは、何故かお姉さんの首と頭からそれぞれ右に1.2度、上に1.3度ズレて、そのままお姉さんを掠めて通過して行った。


「……チッ」


 お姉さんと私は互いに舌打ちする。

 大体予想してたけど、この部屋には至る所にワイヤーが張られてるみたいだね。それも軽く指が触れただけでスパッと切っちゃう様にダイヤモンドをコーティングしたのを。私のクナイは張られているワイヤーに当たって、それで軌道がズレちゃったのかな。『普通』の鋼鉄製とはいえ、ワイヤーで切られる事はなかったけど。


「……なーんか、ここも面倒臭いなー」


 お姉さん相手だったら接近戦に持ち込んだら良いんだけど、生憎お姉さんはそれを阻止する為にワイヤーを張ってたみたいだね。なんとかしないとなーっと思って、腕を捻って床にバンッと叩きつける。


「忍法『のうしんとう』!」


 私が放った振動波は、この部屋全体に伝わり、仕掛けられていたワイヤーやナイフとかを次々と破壊していく。

 これにはお姉さんもビックリ仰天! 目を丸くしている。


「……あーあ、昨日五時間ぐらい掛けて作ったのに、こうも呆気なく壊されちゃったー」


 うひょー! 五時間も掛けたんだー! 凄いなお姉さん!


「まっ、いっか。どうせ本職の忍者にこの手の罠が効くだなんて初めから思ってなかったし」


 じゃあお姉さんが費やした五時間は一体何だったんだろうー、という私の疑問は一先ず置いといて、お姉さんはポンチョの中から二丁の短機関銃サブマシンガン、マイクロUZIウージーを出してきた。ヤバッ!


「やっぱあたしには、こういう銃撃戦ガンシューバトルが性に合ってるわね」


 UZIの装弾数は凡そ20発から50発。それが二丁って事は、最低40発、最高で100発!


「それじゃあ、本当に風穴ブチ抜いてあげるわね!」


 ――ババババババババババッ!

 マイクロUZIから無数の銃弾が放たれる。


(――かいてんッ!)


 私は即座に怪天で体を高速回転。私に降り注ぐ銃弾を弾き返す。正直この弾が全部貫通弾スピアだったらヤバかったけど、幸いにも弾けてるから、多分UZIの弾は全部9ミリのパラベラム弾かもね。

 いやー良かったー。貫通弾だったら人間蓮根になってたよー。

 お姉さんの銃撃が止み、私は怪天から腕を床に叩きつける。


「忍法『しんどう』!」


 『振道刃』は床に叩きつけた振動波を直進させて、対象を振動波で切断する振動型忍術。

 『振道刃』は床を破壊しながらお姉さん目掛けて進む! でもお姉さんは横にジャンプしてそれを避ける。今の間に、お姉さんの懐に入って殺す! そしてグッチャグッチャにする!

 私はクナイを取り出して握り、いざ走ろうと思ったら、お姉さんがUZIを私に向けてきた。弾を再装填リロードするの速ッ!?

 私は止むを得ず、横にも動きながら走る。お姉さんは再びUZIを乱射してくるけど、高速移動している私には全然ぜーんぜん当ったりません!

 これなら、お姉さんに近づける! そう思って私が床を踏むと、シャリン、という金属の音が聞こえた。何だろうとは考えたけど、余計な事を考えてると死ぬからあえてスルーしようかなぁ、と思ってたら、急に左足が引っ張られた。


「ひゃあああっ!」


 私思いっきりずっこけてしまい、何かにズルズルと引っ張られる。急いで足を見てみると、何故か鎖がやたら長い手錠が嵌っていた。何で!? いつ!?

 私はこけた時に打ったお尻をさすさすしていると、チャキ、と私の頭に何かが押し当てられる。


「――(ニコッ)」


 それはお姉さんのUZIの銃口マズルだった。

 あっちゃー、ヤッバいなー、死亡フラグだよー


「これはあたしの運が良かったわね。本当は逆さ吊りにするつもりだったのに」

「えーっと、どういう事ですかー?」

「さっき伊佐南美ちゃんが破壊した罠の中に、手錠を足に嵌めて逆さ吊りにする奴があったのよ。けど、鎖を止めてたのが壊れて鎖は落下。それでも伊佐南美ちゃんの足に嵌ってて良かったわー。いつ嵌ったのか知らないけど」

「じゃ、じゃあ、お姉さんも私のパンツを見るつもりだったんですね!」


 私は慌ててスカートの裾を両手で押さえる。この行動にお姉さんはどうリアクションして良いのか分からず、目がピクピクと引き攣る。


「どうしてそこなの? 別に私は伊佐南美ちゃんのパンツなんか見たい訳じゃないんだけど」

「嘘です! さっき私がお姉さんのパンツ見たって嘘付いたから、仕返しに見る気なんでしょ! どうせ私はスパッツ穿いてるから見えませんけど!」

「じゃあ恥ずかしがる必要なんか無いでしょ」


 お姉さんがげんなりとしてUZIの銃口で私の頭を突っつき、寝そべらせる。そして屈みこんでもう一丁UZIを私の口の中に押し込む。ヤバい、これマジヤバい。腕を掴めば良いんだけど、掴んだら即座に撃たれて殺される……!


「一応遺言があったら聞くけど?」


 お姉さんが私を殺せるつもりで情け掛けてる。最期に言う事? うーん、そうだなー。


ひゃじゃひゃあじゃあおへぇはんひ(お姉さんに)ひひょふひゃへ(一つだけ)ひひひゃいほひょは(言いたい事が)

「ん? なーに?」

「……はんひゅパンツはふひえへひゅ(丸見えです)

「え……?」


 お姉さんが屈んでると、ミニスカートの中が丸見えになっちゃってるんですよねー。お姉さんの言うとおり、ライトグリーンのパンツがバッチシ見えちゃってます。可愛いパンツですねー


「なっ、ちょっ……」


 お姉さんが顔を真っ赤にして、今度は本当に見られたと分かり、羞恥心が刺激される。

 私はそれを見逃さなかった。私は即座にお姉さんの両腕を掴み、寝転がったままお姉さんを投げ飛ばーす!


「しまっ――」


 私は起き上がって足に掛かっている手錠を振動波で破壊。クナイを手にしてお姉さんに突撃!


「――っ!」


 ――ガキンッ!

 私のクナイの刃は、お姉さんのUZIによって防がれる。おっしーいなぁっ!


「……こっのぉっ!」


 私はギリギリとお姉さんを押す。腕力はお兄ちゃんほどじゃないけど、だからってそこまで弱い訳でも無いのに、お姉さんも腕力強い! あれだけの銃器を操ってるだけの事はあるね。


「お姉さん、死んで下さい」

「そんな無茶な頼み、聞ける訳ないでしょ」


 ですよねー。私でも聞きませんよそんな頼み。


「じゃあ、私の玩具になって下さい!」


 私は急に突き立てるのを止めてクナイを両手から放し、お姉さんの首を絞め出す。


「あっ……カッ、ハッ……!」


 お姉さんはUZIを放して私の両手首を掴み、首から放そうとする。


「こ、こっのぉ~!」

「くっそ……!」


 お姉さんは私の手を首から力づくでなんとか放させ、私も絞めようと押すけど、私とお姉さんの腕力はほぼ互角。このままじゃ埒明かないなー。


「……いい加減に、しろっ!」


 ――ガスッ!

 お姉さんが私のお腹を蹴ってきた。いったぁーいっ! ていうかパンツ丸見えになってた。


「あたしを玩具にしたいんだったら、あたしを殺してからにしなさい!」


 何故かお姉さんは顔を真っ赤にしながら、ポンチョの中からファイブセブン二丁を出して全弾発射フルバースト

 ――パパパパパパパパパパパパパパパッ!

 ――パパパパパパパパパパパパパパパッ!

 お姉さんの撃つ銃弾が私に襲い掛かる。私は部屋の中を駆け回って銃弾を、避ける避ける避ける!


「あわわわわわわわわわわっ!」


 ファイアセブンの装弾数は大体20発ぐらいだった筈。それが二丁だから40発ぐらい? 多っ!


「こっの! 私の玩具になれ!」


 私は袖に入れてる投げ針をお姉さんに投擲!


「だから、あたしを殺してからって言ってるでしょ!」


 お姉さんは何故か顔を赤くしたまま私が投げた針を撃ち落とす。


「あのーお姉さん、何で顔が真っ赤なんですかー?」


 私はあまりの疑問にお姉さんに尋ねる。お姉さんは私の質問に顔がトマトの様に赤くなり、


「……あんたね、あたしを玩具にしたいってどんだけレズなのよ!? どんだけ性欲溜まってんのよ!? この変態!」


 ……あー、成程。このお姉さん、私の言った意味を勘違いしてたのかー。


「お姉さん、私が言った玩具って、別にエッチな意味で言ってないですよ?」

「はあ? じゃ、じゃあ、どういう意味よ」

「お姉さんの身体をグチャグチャに抉りたいって意味で言いましたー」

「あんたどんだけ人虐めるの好きなのよ!? 頭可笑しいんじゃないの!」

「別に可笑しくないですよー。だって人の身体を抉るの楽しいじゃないですかー♪ 特にお肉を抉られて悲鳴を上げてる時の顔と来たら、そりゃもうサイコーですよ」

「うわっ! このどんだけSなの!? 『異常』なまでにドSだわ!」


 何を今更。私のSっ気はお兄ちゃんもドン引きするぐらい、服部家で随一ですからねー。

 あぁ~、本当にお姉さんをグチャグチャにしたくなってきた~。

 私が今まで嬲り殺しにした人達は皆ヘタレばっかだったからなー。特に去年った奴は傑作だったー。

 その獲物は、表向きでは親のいない子供達の面倒を見る施設の所長をやっていた女の人。けど裏ではその一部の子供達を今時流行らない人身売買でクズ共に売ってお金を稼いでいた悪人さん。売られた理由は様々で、人体実験、奴隷、性的玩具、ペットetc

 そこまで酷い事するからさぞかしり甲斐あるんだろうなぁーって思って行ってみたら、それが楽しいのなんの。

 まず両手両足を手錠で動けなくしてー、最初は服の上から小太刀でお腹のお肉をグッチャグチャにしてー、内臓は傷付けず、殺さない程度に抉って抉って抉りまくってー、次は顔の方をクナイで頬っぺたを抉ってー、その次に耳と鼻とおでこと口と目を順番にクナイで刺しては抉って刺しては抉ってー、顔がグチャグチャになるまで抉りまくって皮も剥いで内臓もグチャグチャにして最後はみーんなみーんな焼いて残った骨は足で粉々に踏み砕いて跡形もなく殺して本当に本当に楽しかったなー♪

 あぁ、人の身体をグチャグチャにする時がどんなに楽しいか、お兄ちゃんにも伝わったらなー。そしたら兄妹仲良く一緒に相手をグチャグチャに出来るのにー。


「はぁ~、本当に、たっのしいな~♪ 人をグチャグチャにするの~」


 私は人をグチャグチャにし続けていたら、色々感じた。グチャグチャにされている人の悲鳴を聞いた時、私によって原形が無くなるまでグチャグチャになった身体と、その度に汚れる私の両腕を見た時、それを汚す血の臭いを嗅いだ時、その血を思わずペロンと舐めて味わった時、私の心の中は楽しさで一杯だった。その楽しさのあまり、とうとう快感を覚えて、凄い気持ちよくなって、められなくなっていた。だってすっごい楽しいから、楽し過ぎて私の欲求不満か満たされちゃうから、すっごいストレス発散になっちゃうから。


「あぁ、絶頂だなぁ~♪」


 すっごい気持ち良い~……なーんて感じで浸ってたら、お姉さんが全身を身震いしながら冷ややかな目で私を睨む。


「……あ、あたし、ひょっとしてとんでもない奴を相手にしてるんじゃ……」

「えー? お姉さんもとんでもない奴ですよー?」


 私がニッコニコの笑顔で言ってあげると、お姉さんは深ーい溜息を吐く。


「伊佐南美ちゃん、一体あんたに何が起こってそうなったのかは知らないけどさ、よくそんなんであんたのお兄ちゃん生きてけるわよね」

「えー? だってお兄ちゃんは私に殺されるのだけは嫌ですもん。私もお兄ちゃんに殺されるのだけは死んでも御免ですけど」

「……素朴な疑問なんだけど、伊佐南美ちゃんとお兄ちゃんは一体どっちが強いの?」

「えー? 勿論私の方が強いですよー。それでー、私は今までお兄ちゃんに一度も勝った事が無いでーす」

「言ってる事が矛盾してると思うのはあたしだけなの……?」


 矛盾? 確かに矛盾してますねー。

 表の世界に限らず、裏の世界での基本は弱肉強食が世の理である実力主義。弱い無法者は自分よりも強い無法者に殺され、静かに葬られる。生き残る為にはひたすら強い相手を殺して強くならなければいけない。そこで死んだとしても、誰も悲しまない。只、弱いから死んだだけの話、それだけである。それが裏の世界での『普通』。一度足を踏み入れれば二度と戻れない殺しの領域。私とお兄ちゃんは、そこで生き抜く為に強くなってきた。けれど、お兄ちゃんは弱い。私なんかよりも全然。

 ……まあ、そんな事はどーでも良いから置いておいてー


「あのーお姉さん、私からも一つ訊いて良いですかー?」

「ん? 何?」

「お姉さんって、何で『ZEUSゼウス』に入ったんですかー?」


 そういえば、お姉さんは5年前にアメリカに潜伏していた凶悪テロ組織300人をたった1人で壊滅させたんだっけ。そこまでの腕を持って何で『ZEUS』に入ったのか気になるなー。

 私の質問に、お姉さんは少し黙り込んで、


「……良いわよ。どうせ死ぬ相手に言ったって意味ないだろうけど、伊佐南美ちゃんには特別に教えてあげるわ」


 おぉーっ! 教えくれたー。ラッキー!


「あれはね、あたしが五歳の頃かしら。生まれて初めて、人を殺したのは」



 あたしの先祖は、カラミティ・ジェーンことマーサ・ジェーン・カナリー。そう親に教えられのは、まだあたしが五歳の頃だった。

 両親は、裏の世界で悪人を殺す、殺し屋をやっていた。そして、その抗争の途中で殉職し、あたしは両親の残した莫大な遺産を抱えて一人だった。そして、生まれて初めて、人を殺したのも五歳の時だった。

 相手は警察官だった。丁度逃亡中だった強盗犯が、偶然一人でポツンと立っていたあたしを人質に取ろうとした時に、それをさせまいとした警察官と銃撃戦になった。その時あたしは犯人に首根っこを掴まれて、犯人の恐怖と焦りで歪んだ顔があたしを睨みつけていたのをよく覚えている。

 あたしの頭の中は混乱していた。突然親が死に、周りには遺産を貪りに来るクズ共がやって来る毎日、そんな日々を送っていたあたしには、もう心の中が限界だった。

 銃撃戦は、呆気なく終わった。途中であたしが暴れ出し、犯人か身を乗り出した所で警察官が犯人を運よく射殺。あたしは丁度壁に隠れて流れ弾が当たる事は無かった。

 警察官がこっちに近づいて来た時、当時五歳だったあたしの心理状態は相当のものだった。しかも暴れた時に犯人に首をよく絞められてたせいで、状況もよく分からなかった。やって来た警察官があたしに近づいた途端、何がどうなったのか、あたしは犯人が落とした銃――トカレフ TT―33を掴み、警察官を撃った。それも三発も。

 一発目は右胸を、二発目は左肩、三発目は頭を撃った。それだけで警察官は死んだ。

 何故殺したのか、自分でも分からない。でも裁判ではまだ五歳という事もあり、過失致死となって大した罪にはならなかった。

 その日からだった。あたしが『異常』に目覚めたのは。

 この事件の日以来、あたしは常に帯銃するようになった。だけどあくまで護身用。無闇に人に向けて撃ったりはしない。勿論帯銃している事は周りには秘匿していた。そして夜中に家の地下室で射撃の練習をしていた。日々邁進、暇があれば銃や弾に触れて、自分の中にある欲求不満を満たしていた。

 秘密の訓練を続けて、十歳になった頃、あたしの家に妙なものが届いた。

 それは、ベレッタやグロック、スミス&ウェッソン、ウィンチェスターなどの様々な銃器、手榴弾などの爆弾の類、最新鋭銃弾という名の変わった銃弾、どれもこれも見た事の無いものばかりだった。

 どうやらそれらの武器は死んだ両親が裏の世界の業者に注文していたものらしく、発注が随分と遅れたらしい。

 私はこれらの武器を見ると、どういう訳か、自分の中に眠る先祖の血が、カラミティ・ジェーンの血が騒ぎだした。あの日『異常』に目覚めた時から、あたしの心の中の何かが、一変した。

 以来、あたしは服装を変えた。先祖だった女ガンマンらしく、ガンマンハットにポンチョを着こなして、服の中にはあらゆる銃器や爆弾の類を入れ込んだ。そして二年後、その真価を発揮した。

 あたしが十二歳になった頃、アメリカに凶悪テロ組織が潜伏しいるというニュースが報道された。本当は報道規制されていた筈だったけど、一般市民が一気に何十人も犠牲になる事件が勃発し、とうとう報道に至った。

 そのニュースを見たあたしは、胸が高鳴った。そのテロ組織の人間と思しき人を尾行して、そのアジトを見つけられた。何故バレなかったか。それはあの日届いた銃器類の中に、光歪透迷彩メタマテリアル・ホロウという所謂透明着衣を着ていたからだ。

 アジトの中へ侵入するのは簡単だった。監視カメラには映らなかったし、赤外線センサーなんてものもなかった。特に何の苦も無く侵入したら――振るった。隠し玉達を。

 組織の人間、総勢300人を殺すのは、意外と容易かった。持参した銃器や爆弾、銃弾が次々とテロリスト達を殺していく。その時、あたしは笑っていた。とても、楽しかったから。

 大体二時間ぐらいで全員殺し終えて、光歪透迷彩を着たあたしはすぐにそこから離脱した。そしてそれから数日が経ち、そのテロ組織が壊滅している事がニュースで報じられた。ニュースではクーデターが起こって壊滅したがどうこうと報じられたけど、あたしは特に気にする事無く、普段の生活を送っていた。表では。

 テロ組織を壊滅してからは、あたしは裏の世界の住人となった。なので、自分の生活の為に裏の世界で悪人を狩っていた。それも程々に。あまりにも狩り過ぎると同業者に狙われやすくなるからと、両親が生きていた頃によく言っていた。当時のあたしには訳の分からない事だったけど、裏の世界に入り始めてからはそれを守り、程々に殺すだけにしていた。

 そんな殺しを続けて、二年。十四歳になったあたしは、あの日も獲物を狩っていた。相手は、裏で人身売買をしている青年実業家の男。何十人もの若い女を売り捌き、裏で富を得ていた。そんな奴が裏の世界にいると、あたし達無法者が暮らせない。だから殺した。奴を警護して、商品である女をお零れとして貰っていた護衛の奴らもまとめて。

 護衛の奴らはそこそこ強かったけど、『異常』な武器を使っているあたしの敵ではなかった。即行で殺し、まだ売られていなかった女達を解放させ、あたしの事は他言無用でいろと口止めしておいた後、その男が顧客にしていた奴らも狩ることにした。けど、それは無駄だった。


「……さてと、それじゃあまずは、ラスベガスにいる連中から狩るか」

「その必要は無えぜ」


 いざ行こうとしたら、突然後ろから男の声が聞こえ、あたしは振り返った。


「ソイツらはとっくに俺らが始末したからな」


 その男は、年はあたしより一つか二つ上ぐらい、身長は高く、髪の色が黒かった。そして、顔はアメリカ人じゃない。明らかに東洋人、恐らく日本人だ。そして男が着ている服、黒、白、赤、青の色鮮やかな服――日本の伝統衣装、ユカタと呼ばれるものを四枚重ね着していて、下はジーパン。

 そして背中に背負っている、一本の剣に違和感を覚えた。その剣は日本のカタナと呼ばれる刀剣――あれが『普通』じゃない。よく分からないけど、かなり『異常』だ。そして、この男からも、『異常』な雰囲気が漂ってくる。


「……あんた、誰?」

「俺か? まぁなんつうか、あんたと似た者同士、だな」


 日本人のくせに英語がかなり流暢だなと思う反面、似た者同士と言う事は、あたしと同じ、裏の世界で生きる無法者。

 どうしてこんな奴がここに? もしかして、あたしがとうとうそこまで狙われるようにでもなったとか?


「……ふーん。そう。それで、その似た者同士さんが何でここに来てるの? あたしを始末しに来たとか?」


 単刀直入に訊いた質問に、男は笑い出した。


「違えよ。確かにあんたに用があるけどよぉ、別に始末しに来たとかそんなんじゃねえ。只な、ちょっとした勧誘だ」

「勧誘? あたしを?」

「ああそうだ。ウチのリーダーが、直々にあんたに話があるってよ」


 男が数歩横に歩き、振り返ると誰かが来るのを待っていた。そして、景色が変わった。さっきでいた、獲物の家とは違い、まるで何処か懐かしく思える、温かな楽園。


「……『異常』を持ちし、現世の銃士よ」


 現れたのは、一人の人物。そして、当時は正体が分からなかった『何か』。


「だ、誰よアンタ」

「私は君を勧誘しに来た者、そう名乗っておこう」


 ソイツと『何か』が、ゆっくりとあたしに歩み寄ってくる。あたしは下がろうと思った。けど何故だろう、何故あたしは、下がる事が出来ないの?


「リドカ・カナリー。現世を生きる、マーサ・ジェーン・カナリーの末裔よ。私と共に来なさい。君にはその資格がある」


 あたしは、コイツが言っている事が理解出来なかった。いきなり現れてしかも来いだなんて事、ホイホイ聞ける訳ないでしょ。


「……良いわよ別に。但し、条件があるわ」

「ふむ。条件とは何だね?」

「それはね……」


 あたしは、愛銃――マニューリンMR73をソイツに向ける。


「あんたが死んだらね!」


 あたしはマニューリンの引き金を引こうとした。けどその途端、あたしの両手から、マニューリンか落ちた。そして、全身から力が抜けて、その場に倒れこんでしまう。


「な、何よこれ……」


 あたしは訳が分からなかった。一体何が起こったのかも分からず、只ソイツを睨みつける事しか出来ない。


「リドカ、君は選ばれし申し子の一人。君がこのまま単体でいるのを続ければ、何れ狙ってくる者達には太刀打ち出来ない可能性もある。だからだ、私と共に来なさい。そうすれば、君は今まで以上に強くなれる」


 コイツの言う事に、嘘は無い気がした。確かに、何れあたしも自分より強い相手に出会い、殺し合い、そして負けて死ぬ事があるだろう。そんな事は正直嫌だから、強くなりたいとも思っている。それに、倒れこんでいる今になって思った。コイツには勝てない。どう足掻いても、絶対に。けれど、それでも、コイツの所に来る事を、まだ心が拒んでいる。すると、不意に横で見物していた男があたしに近づいてきて、興味本位であたしの顔をジロジロと見る。


「なあリーダー、コイツ仲間になる気無えみてえだぜ。るか?」


 男は背中に背負っているカタナを抜く。そのカタナの刃はとても『異常』で、闇の様に漆黒で、孤独の様に暗かった。それに、この男は本気であたしを殺す気みたいだ。当然殺される覚悟はしているけど、こうも無様に殺されるのは悔しくて仕方ない。けど、アイツはそれに待ったを掛けた。


「待てゆき。彼女は素晴らしい人材だ。ここで消すのは惜しい」

「はぁ? ……ったく、リーダーは甘過ぎるぜ。誘った奴が全員仲間になるだなんて保証も無えだろうがよぉ」

「それは充分に分かっている。だが、無駄な殺生は好まない。下手に殺め過ぎれば、他の者達に狙われやすくなる。前にも同じ事を言った筈だが?」

「そ、それはそうだけどよぉ、じゃあどうすんだ? 連れて帰んのか?」

「ふむ。それか現実的だろう。刃刃幸、あまり手荒にするな」

「へいへい、りょーかい」


 男は座り込むと、あたしの腕に手錠を嵌めた。


「へ?」


 あたしがキョトンとしている間に、男はあたしを後手に手錠を嵌めて拘束した。


「よっこらせっと」


 そしてあたしを肩に軽々と担ぐ。


「ちょっ、ちよっとあんた」

「安心しろよ。殺さねえから」


 あたしは訳が分からず、ソイツらと一緒に何処かに連れて行かれた。



「……とまあ、その後は刃刃幸に色々とされて、それで仕方なく『ZEUS』に入ったのよ」

「色々って、一体何を色々されたんですかー?」

「い、色々は、色々よ」


 お姉さんは顔を赤くして口ごもる。

 ふーん、ちょっと弄ってみよっと。


「だから何ですかー? もしかしてすっごいエッチな事とかですかー? 例えば赤ちゃんが出来たりとか?」

「ち、違うわよ! セックスはしてないわよ!」

「そうですかー。じゃあセックスの域までは達していない程度のエッチな事されたんですかー。おっぱい揉み揉みされたりー、お尻触られたりー」

「うぐっ!」


 ふむふむ。お姉さんのお顔がよく熟したトマトみたいにまっかっかになったって事はー、図星だね、これは。


「……こ、このガキ、殺す……!」


 お姉さんは凄い形相で私を睨みつける。うひゃー、怖い怖いー。


「殺すんでてすかー? 良いですよー。殺し返してやりますけど」


 私はニッコリと笑って、コクの内側に仕舞いこんでいる小太刀を抜く。

 対するお姉さんは、背中から銃を取り出した。何で背中にまで。


「あーあ、散々銃器使ったのに殺せなかっただなんて、いつ以来かしらね。けど、これで殺すわ」


 お姉さんが取り出した銃は、散弾銃ショットガン。けど、只の散弾銃じゃない。形状はレミントンM870のポンプアクション式だけど、長い銃身には銃剣が付いている。刃渡りは30cmぐらいで、よく研がれている曲刃だった。ていうかどうやって背中に入れてるの。


「伊佐南美ちゃん、これで死んでも怨まないで頂戴ね」


 お姉さんはその可銃剣付きのレミントンの銃口を私に向ける。


「別に良いですよー。お姉さんも私が殺したって文句言わないで下さいねー」


 私も逆手に持っていた小太刀を反対の向きに持ち直す。この近距離で撃ってくるという事は、少なくとも焼火弾ブレイズみたいな爆発は無い筈。という事は貫通弾で私を撃ち抜く筈。だったらその撃ってきた弾、斬る!

 お姉さんは照準を何故か頭じゃなくて、お腹に合わせた。頭を撃てばそれだけで勝てるのに、何で態々お腹に?

 お姉さんがニヤリ、と笑う。そして、引き金を――引いた。

 ――ドォンッ!


「――っ!」


 そして、放たれた銃弾は、見えなかった。黒牙を纏っている筈の私のお腹に、銃弾が被弾した。


「ガッ、ハッ……! な、何で……」


 私は倒れる体をなんとか立たせて、撃たれたお腹を見る。お腹は間違いなく撃たれてる。しかも、黒牙を『普通』に貫いている。という事は撃った弾は貫通弾。けど、何で見えなかったの。


「どうしたの伊佐南美ちゃん。呆気なく喰らってるけど」


 お姉さんはニヤニヤしながらハンドグリップを前後に往復させて、撃った弾の薬莢を出して弾を装填する。

 お姉さんは確かに引き金を引いた。けど、弾は見えなかった。忍術で強化した私の目では見えなかった。スローモーションで見える筈の弾が見えない。という事は、スローでも速い弾、或いは透明銃弾インビジブル・ブレットのどちらか!


「さすがの伊佐南美ちゃんでも、これを避けるのは無理でしょ」


 ――ドォンッ! ドンッドンッドォンッ!

 お姉さんは次々と私のお腹ばかり撃ってくる。避ける事なんか、出来ない。


「何であたしが伊佐南美ちゃんの頭を狙わないか教えてあげるわ。ドSっの伊佐南美ちゃんには、ドSらしい死に方で殺した方が良いと思ってね」


 ――カシャンッ、ドォンッ!

 お姉さんは空になった弾を再装填して私のお腹をドンドン撃ってくる。なのに、私は避けられない。弾が見えないから。


「……お、お姉さん、それ、何……?」


 私は、まだ立ち上がっていられるのがやっとの体が片膝を突いた所でお姉さんに訊く。


「これ? 良いわよ。特別に教えてあげるわ」


 ――ドォンッ!

 お姉さんの声が、銃声と共に私の耳に響く。そして私の目が本当に正常なら、お姉さんの顔が、笑って見えた。


「これはね、最先端技術の結晶、『最新鋭機怪ユニカル・メタニカル』製の科学剣、『最新鋭刀剣ユニカル・ブレイド』――無銃弾剣銃ロストキャリバーよ」


 ――ドォンッ!

 その顔はまるで、空飛ぶ獲物を地に撃ち堕とし、快楽のままに虐め殺すのが趣味の、平原の女王銃プレイン・クイーンの様だった。

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