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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
肆 『異常』な女王銃(プレイン・ブレッド)
34/44

参拾参殺

 私は耳を澄ます。千葉の森に吹く静かな風。心地よくて私の肌を気持ち良くくすぐる。木がガサガサと鳴る音が聞こえる。随分長閑な所だなーと思っていたけど、どうせこれから血で汚れちゃうんだよねー


「あのーお姉さん、一つ聞いても良いですか?」

「ん? 何?」


 私はさっきからずっとやりたい事があってウズヴスしていた。


「もし私がお姉さんに勝ったら、裸にして体を徹底的にグチャグチャにしちゃって良いですかー? 勿論録画しながら」


 あぁっ! 早くこのお姉さんをグッチャグチャにしたいー! 今まで私が殺してきた人なんか一分どころか三十秒も持たない人ばかりだったけど、このお姉さんだったら軽く五年ぐらいは持ちそうだな!


「じゃあ、もしあたしが勝ったらお嬢ちゃんの身包み剥いで柱に縛り付けて、死ぬまで銃の的にしてあげるわね」


 お姉さんはニヤリと笑いながら腰のヒップホルスターに下げた拳銃――マニューリンMR73二丁を抜く。


「別に良いですよー。でもお姉さん、私ってお姉さんにお嬢ちゃんって呼ばれる程子供じゃないですよ? 私もう十五歳ですよ?」


 私もショルダーホルスターから最近愛銃になってきたベレッタM92SBを抜く。勿論二丁。


「でもあなたってあたしよりも年下でしょ? だったらちゃんの方が良いかしら?」

「良いですよー。これからグチャグチャにする人に何て呼ばれるかなんかあまり気にしないんですけど、お姉さんは『異常』な人だから簡単にはいかないみたいなんですよねー」

「今まで無法者やってて、お姉さん扱いされた事なんか無かったわね。でもそうね、伊佐南美ちゃんも充分『異常』だと思うけど」

「またまたぁー、謙遜しないで下さいよー。私の『異常』さなんてお母さんをエッチなパンツに例えたら私なんか赤ちゃんのオムツですよー」

「何、その例え方」


 お姉さんは呆れているけど、本当にお母さんはエッチなパンツをよく穿いてたなー。あれ絶対お父さんと毎晩やってたよー。ていうか話が逸れちゃったなー。


「それじゃあ伊佐南美ちゃん、血を血で流す殺し合い……」


 ――パァンッ! ボスッ!


「やっちゃいましょっか!」


 喋ってる途中でいきなり撃ってくるだなんて卑怯だなーこのお姉さん。しかも袖に隠してた、恐らく一発しか無い仕込み銃で。まぁ、予め忍法『がん』を使っておいて、その銃弾をコクの袖でしっかりガードした私が言えた義理じゃないけど。

 私はベレッタをお姉さんに向けて、出し惜しみ無しの全弾発射フルバースト×2!

 ――パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパンッ!

 それとほぼ同時にお姉さんも二丁のマニューリンの全弾発射×2

 ――パパパパパパパパパパパパンッ!

 十二発しかない弾で三十発の弾をどうやって防ぐつもりなのかと思っていたら、遅視眼で見てみるとそれはもうビックリ仰天!

 お姉さんが撃った銃弾は、最初の三発は私の弾に当たると、そのまま弾道が逸れていき、別の弾に当たり、また逸れていった。これはお姉さんがこの前やった、一発の弾で二発の弾を逸らす技だった。けどもっと驚いたのはその後。残りの三発の弾は私の弾に当たってそのまま逸れて、別の弾に当たってまた逸れて、三発目の弾にも当たって逸れていった。最初が三回、後が三回、合計で十五発の弾を全部逸らした。それも、二丁同時に。


「嘘でしょそれ!?」


 私はベレッタからマガジンを素早く抜き出し、予備のマガジンを素早く装填。いざお姉さんに向けたら、お姉さんは既にマニューリンをホルスターに戻して代わりの銃を出してた。それはS&W・M500二丁。スミス&ウェッソン社が開発した超大型回転式拳銃リボルバー。装弾数は五発と少ないものの、50口径のマグナム弾を使用する、威力が結構高くて重たい銃。それを容易く二丁同時に持っていて、しかも私よりも速い!

 ――パンパァンッ!

 お姉さんが撃った二発のマグナム弾を、私はお姉さんみたいに銃弾で弾く事は無理だったから、ジャンプして避けた。銃弾は二発とも木に当たったけど、

――ドカアァァァァァァァァァァンッ!

 被弾した木が突然大爆発だーいばくはーつ


「わあああっ!?」


 私は爆発の衝撃で吹っ飛ばされて、そのまま木に激突。背中を強く打ったけど、毎日鍛錬のおかげで大した支障は出ないかな。


「イッターイ……」


 あー、それでも全身痛いなー。ていうかさっきの弾は何? 凄い威力だったけど。


「へえー。やっぱりしぶといわね」


 なんて思ってたら、お姉さんが銃口マズルで頭を掻きながらゆっくり歩いてきた。よく見たらお姉さんのマニューリンは既にホルスターに戻っているし。

 よく見たらベレッタを両方とも落としちゃって丸腰になっちゃってるよー。私は痛い背中を摩りながら立ち上がってお姉さんに問いかける。


「な、何ですか今のはー。どう考えても『普通』の銃弾じゃないでしょー」

「そりゃそうよ。今のは『最新鋭銃弾ユニカル・ブレット』っていう、最先端の技術作った『異常』な銃弾。さっきの爆発は焼火弾ブレイズっていう、当たった所を軽く爆発させる弾なのよ。ちなみに私の弾は最初のマニューリン以外全部最新鋭銃弾だから気をつけて」


 いや、気をつけてねって言われてもそんな無茶苦茶だよー! そんな弾あるなら後で理事長さんにおねだりしないとー!

 あ、でも、私にこの後ってあるのかな。


「良いなー良いなー。欲しいなーその銃弾。私にくれませんかー?」

「別に良いわよ」


 と言ってお姉さんはM500の銃口を私に向けてきて、


「死んでも良いんだったら」


 勿論発砲した。どうせ弾は焼火弾で、これで大爆発させて私を殺そうって魂胆でしょうけど、


(――げんえいッ!)


 接近戦に追い込めば問題無ーい!

 私は秒速20mの速さでお姉さんの懐に一瞬で入り込む。


「なっ――」


 私はお姉さんの鳩尾に一発殴り込む!

 ――ガキンッ!

 けどそこはお姉さんがM500の銃身バレルでガード。それでも私は諦めずに袖に仕込んでたクナイを取り出してひたすら狙う!

 ――キンッ! キンッ! キンッ!

 距離を詰められているのに流石はお姉さん。私のクナイをM500で弾き返しているけど、距離が近過ぎて撃つ事が出来ない。下手に撃って私に当たったとしても、詰め寄っているこの間合いならお姉さんも巻き添えを喰らう。凄い爆発を起こす銃弾は接近戦には不向きという弱点を突いた私はこのまま接近戦に持ち込みたい。けどお姉さんは私のクナイや足蹴り、腕刀を悉く避ける。


「ああ、もう! すばしっこいなっ!」


 私はクナイを放してM500の銃身を掴み、大きくバンザイする。勿論M500を持っているお姉さんも一緒にバンザイ、胴がガラ空き。その瞬間に私はお姉さんの胴に強い膝蹴り!

 ――ガスンッ! ガキンッ!


「ガッ!」


 ……ってあれ? 変だな。あんまり手応えが無い。ていうかさっき金属がぶつかった音が聞こえたけど、まさかこのお姉さん、


「甘いわね」


 お姉さんはM500を持ったまま私を横に振り回し、M500を手から放した。そして即座にシャツの中から別の銃――チャーターアームズブルドッグ二丁を取り出して私に向ける。

 けど私もお姉さんから奪ったM500が二丁もある! 私もM500をお姉さんに向ける。

 ――パアンッ!

 私達は同時に撃った。互いの銃弾は互いの頭を狙っていて、私の銃弾は上向き、お姉さんの銃弾は下向き、だから途中で弾道が重なる所があった。

 互いの銃弾が重なり、表面に火花が散り、大きな爆発が起こった。私の撃った焼火弾がお姉さんの銃弾諸共爆発させたのだ。

 でもそんな事はすぐに流され、私とお姉さんの撃ち合いが始まった。お姉さんのブルドッグの弾を私のM500の弾が次々と爆発させていくけど、さっきお姉さんはM500を二発撃った。ブルドッグの装弾数は五発。だから弾数でなら私の方が負ける。そして私の持ち弾があと一発ずつになった。

 ――パンパァンッ!

 お姉さんが次に撃った弾二発、これでお姉さんも残り二発になったから、私は撃ち落さずに高くジャンプして避ける。

 ――ドオォォォォォンッ!

 爆発音が聞こえた。やっぱりブルドッグに装填されてたのも焼火弾。M500に残ってる弾二発をお姉さんに向けて発射!

 ――パンパァンッ!

 そこもさっきと同じ、お姉さんの弾とぶつかって爆発。私は弾切れになったM500を捨てて、掌を前に突き出す。


「忍法『しんしんなみ』!」


 お姉さん目掛けて一直線に飛ぶ振動波は、当たればお姉さんの脳味噌をすぐに破壊出来る、筈なんだけど、伸振波は目には見えないのにお姉さんは私が何かを飛ばした事を察してその場からジャンプして離れた。私の放った伸振波は地面に当たると地面が半壊。当たったら絶対お姉さん殺せたのに、おっしーい!

 地面に着地した私は気が付いたら散々爆発しまくって森が火事になって火の海が私を取り囲んでいた。私は即座に忍法『ひょうはくとう』で周りの炎を凍らせて火事を消す。お姉さんの姿は、見えない。


「何処に行ったのもうー」


 私はキョロキョロ周りを見渡して捜していると、火薬の臭いが鼻に伝わった。足元を見てみると何と安全ピンの外れた手榴弾が十個も転がってた。


「ヤバッ――」


 爆発寸前だったから避ける事も忍法『氷白凍』を使う事も出来ない。


(――かいてん!)


 だから爆発寸前にとうろうげき・怪天を発動。独楽みたいに回転した私は周囲に微弱な振動波の壁を作り出す。

 ――ドオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!

 手榴弾が一斉爆発。微弱とは言えどそこそこ堅い振動波の壁は手榴弾の爆発の衝撃から私を一部守ってくれている。後は回転する事で飛び散る破片やらなんやらを弾き返したり、小さい頃から火薬を塗られた裸の体に火を付けられて爆発するという鍛錬を受けてきた体のおかげでこんな爆発はへっちゃら!

 爆発が止むと、周りが黒い煙に覆われているけど、お姉さんの気配は分かる。多分これで私を殺せたと思っているみたいだけど、この程度で殺されたらお兄ちゃんにお尻ペンペンされちゃうよー。

 まあね無断しきっているお姉さんをビックリさせないと!


でんこんけつ――」


 私は掌にいかずちを集めて、源影で突っ込む。勿論お姉さんには私の姿は見えていない。

 ――ガスッ!


「――らいァァァァァァァァァァッ!」


 ――バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!

 お姉さんの鳩尾に雷の掌底がクリーンヒット!


「きゃああああああああああああああああああああっ!」


 お姉さんは目を大きく見開いて驚愕の顔。あーあ、これで終わりかー。もうちょっと歯応えあったと思ったんだけどなー

 ――ドォンッ!

 私の耳元で、発砲音が響いた。


「……え?」


 そして何でだろう。私のお腹に強い衝撃が加わった様な。それに何で雷牙が途中で終わってるの。まだお姉さん死んでない筈なのに、何で私のお腹から、血が出てるの……


「……残念だったわね」


 ガハッ、と血を吐いたお姉さんは、私のお腹に銃を――スタームルガー・セキュリティシックスを突きつけていた。


「あれで生きてるだろうなって予感はしてたから、態と攻撃受けて相打ちにしようかと思ってたら、まさかスタンガン顔負けの電気攻撃なんて予想外よ。まあ、伊佐南美ちゃんの方も予想外でしょうね。そのコート、『異常』な防弾性能が施されているんでしょうけど、私の最新鋭銃弾はそれも破るわ」


 何で、黒牙の防御性能は『異常』なまでに凄い筈なのに。どんな大量な銃弾を撃とうが、どんなに鋭い刃物で切りつけようが、黒牙には全部無意味な筈なのに。


「今伊佐南美ちゃんを撃った弾は貫通弾スピア徹甲弾アーマーピアシングの数十倍の貫通力を誇る『異常』な銃弾。防弾チョッキだろうと分厚い防護壁だろうとなんでも貫通するわ。当然伊佐南美ちゃんの『異常』なコートもね」


 お姉さんはセキュリティシックスをずらし、別の所に銃口を向ける。

 ――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!

 一気に五発の弾を全部撃った。私の右胸に三発、左脇腹に二発。しかも全部貫通弾だよー。


「あ、あああっ!」


 被弾した所から血が流れ出す。予想だにしなかった突然の痛みに私は顔を顰める。でもセキュリティシックスの装弾数は六発。今のお姉さんはガラ空き!


「忍法『しんでん』!」


 私は普段やらない頭突きをお姉さんの頭に喰らわす。お姉さんは弾切れになったセキュリティシックスでガードするけど、私の目的は頭突きをぶつける事じゃない。

 ――ガキンッ!

 私の頭突きはセキュリティシックスの銃身に激突。でも、問題ない。私の頭突きがぶつかった時点で、私が頭に乗せてた振動波がセキュリティシックスに伝わり、ビキ、バキ、という亀裂音が鳴り出す。


「――っ!?」


 お姉さんも気付いたみたいだね。

 ――ガッシャァァァァァンッ!

 私が送った振動波がセキュリティシックスを粉々に破壊! そしてそのまま振動波はお姉さんの手に伝わり、お姉さんの体内で暴走!


「あ、く……」


 お姉さんは両手を押さえて痛みに顔を顰めている。すぐに新しい武器をポンチョの中から出そうとしたけど、出した拳銃――スミス&ウェッソンM36・チーフスペシャルを落としてしまう。

 無駄だよお姉さん。忍法『振伝頭』は頭突きで伝えた振動波が敵の体内で暴走して、そのまま体を麻痺させる振動型忍術。今のお姉さんは手足が痺れて銃器の類は一切使えない。


「うおりやああああああああああっ!」


 ――ガスンッッッ!

 私はお姉さんの鳩尾に思いっきりパーンチ!


「ガッ、ハッ……」

「吹っ飛べぇぇぇぇぇっ!」


 ――ドオォォォォォォォォォォンッ!

 私は思いっきりのパンチの後に思いっきりお姉さんを吹っ飛ばーす! お姉さんは木に激突、私はさっき撃たれた傷が急に痛み出して撃たれた所を押さえ込む。


「イ、イッターイッ!」


 出血は『氷白凍』で傷口を凍らせておいたから止まってるけど、それでも痛いったら痛いー!


「……ゲホッ、ゲホッ!」


 っていうかあれ? お姉さんが血を吐きながらヨロヨロと立ち上がってる。雷牙喰らった後に鳩尾パンチしたのに何でまだ生きてるの。結構力込めたのに。


「あーもう、服の中に武器入れてなかったらマジで死んでたわよ、まったく」


 あー! さっき殴った時の金属音で、お姉さんが服の中に武器入れてる事すっかり忘れてたー! そっかー、そのおかげで威力が少し小さくなったのかー。


「マニューリン、M500、ブルドッグ、セキュリティシックス、チーフスペシャル、こんなにも銃使ったのに殺せなかった相手は流石にいるけど」


 お姉さんは草の茂みの中から何かを出してきた。結構大きいね。


「これを喰らって死ななかった奴は、あたしら仲間内以外にはいないわよ」


 それはなんと、多銃身機関銃ガトリングガン――M61・バルカン!

 何でそんなもの持ってるのー! てかそれ喰らって生きてるお姉さんのお仲間さん『異常』だよー! あ、元から『異常』か。


「ちなみにこのM61の弾は全部貫通弾になってるから、人間蓮根が作れるわね。という訳だから――」


 お姉さんはM61を私に向けて、


「――風穴開けてやるわ!」


 ――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

 M61から放たれた無数の貫通弾。これは避けられない。怪天では弾き切れない、『氷白凍』では銃弾が速くて凍らせられない、振動波でも弾数が多過ぎる、だったら、


(――源影――れん!)


 私はお姉さんが撃ち始めたと同時に袖に仕込んでたクナイ一本を左手に持たせ、秒速20mの速さで体をドリルの様に回転させながらお姉さんに突っ込む。


(――えんかんぎょうせん!)


 螺旋。文字通りドリルみたいに体を回転させて突っ込み、ドリルの刃の様に回る手刀で標的を抉り取る、服部家に伝わる体術。今回は手にクナイを持っているから、飛んでくる貫通弾を悉く回転する体やクナイで弾く。


「ちょっ、そんなの――」


 お姉さんは驚愕の顔を浮かべているけど、私の方もそんなのだよ! そんなガトリングガンなんか反則だよ!

 ――ガッシャァァァァァァァァァァンッ!

 私のクナイがお姉さんのM61に激突! ドリル状になっていたクナイはM61のほぼ真ん中から銃身を破壊! これで多銃身機関銃は使い物にならない!


「チィッ!」


 お姉さんはポンチョの中から手榴弾を十個落とす。


「えっ、待っ――」


 その直後、手榴弾から発せられたのは爆発ではなかった。

 ――カッ! パチパチパチパチパチッ!

 それは、眩しい光と、火花の散る音だった。


「ヤバッ!」


 前戦った時と同じ様な閃光弾だった。私は反射的に両手で目を覆ってしまう。このままだとお姉さんからの追撃が来る! そう思って私は目を瞑ったまま両手を構えて気配だけで動こうとした。

 けど、妙だね。お姉さんが仕掛けてこない。それどころかお姉さんの気配が遠のいていく。まるで、この場から離脱している様に。

 私はゆっくりと目を開ける。問題ない。ちゃんと見える。けど、お姉さんの姿が何処にもない。


「……逃げたのかな」


 いや、それは無いか。殺し合いの途中で敵から逃げるのは流石に自殺行為だし、ひょっとして私を誘ってるのかな。

 仕方ないからお姉さんの気配が消えていった方向へと足を動かす。まだお腹の傷は残ってるし痛いけど、こんな痛み、昔お父さんに半殺しにされた時に比べたら余裕余裕ー!



 お姉さんを捜す事約十分。途中で森に罠でもあるかと思ってたら案の定ワイヤートラップやら爆弾トラップやら沢山仕掛けてあって、それを避けつつ爆発で燃えた森を『氷白凍』で消しながら移動してると、私はあるものを見つけた。


「……お姉さん、ここにいるのかな」


 それは、もう何年も使われていないと思しき廃ビル。使われていないだろうけど、結構丈夫そうだねー。でも何でこんな森にこんな廃ビルなんかあるんだろう。

 頭の上にハテナマークを浮かべていた私の黒牙の内ポケットからスマホの着信音が鳴り、私はすぐに出る。


「はい、もしもしー?」

『伊佐南美ちゃん、私が今何処にいるのか分かるでしょ?』


 その相手はお姉さんでした。


「お姉さんはこの廃ビルにいるんですよねー?」

『ええそうよ。このビルは五年くらい前、好みの女子高生を拉致して自分の玩具として散々遊んだクズ教師が持ってたビルよ。そのクズ教師をあたしが消して、あたしなりに改造したのよ』

「へえー、そうですかー」


 ていうか女子高生を玩具にする教師って東京にもいたんだ。三重にもいたなー。ストーカーまがいの行為で女子高生に付き纏って、最後はその女子高生を殺してホルマリン漬けにしてずっと隠してた理科の教師。あの時は私がその教師を椅子に縛り付けて散々体をグッチャグチャにしてあげたなー。楽しかったー。ちなみにホルマリン漬けの方はこうげんさんが処分してくれたらしいけど、そんな先生がいて世の中物騒だなー。私達が言えた義理じゃないけど。


「じゃあお姉さん、グッチャグチャにするんで待ってて下さいねー」

『良いわよ。伊佐南美ちゃんも人間蓮根にならないように気をつけてね』


 通話が切れて、私はスマホをポケットにしまう。人間蓮根にならないように? 良いねー、人間蓮根。

 きーめた、お姉さんをグチャグチャにした後、蓮根にして串刺しにして焼いちゃおうっと♪

 私はモチベーションを上げてビルの中に入る、その瞬間、

 ――ビュッ!

 半ば予想してた私は、日頃の鍛錬で身に付けた反射神経で体を屈み込ませ、突然私の首目掛けて飛んで来たナイフを避ける。壁に鋭く突き刺さったナイフを見てみると、ご丁寧に毒まで塗ってあるよ。絶対猛毒だね。

 私は気にせず中へと進む。ビルの広さは大体学校の体育館ぐらいと結構広くて、階数は外から見ただけだけど、多分十階ぐらいかな。


「さーてと、おっねえさんはどっこかなー」


 私は黒牙の内ポケットに入れてあるクナイを取り出してビル内を散策する。

 わあー、懐かしいなー。小さい頃にお兄ちゃんと一緒にこうやって森に残ってた廃ビルを探検したなー。ドキドキワクワクして凄い面白くて、偶然鉢合わせた見た感じ悪い事してそうなオジさんに出くわしてついつい殺しちゃったんだよねー。その後でお父さんとお母さんに凄い叱られて、お父さんにお尻ペンペンまでされちゃったしー、あの頃は本当に悪戯っ子ちゃんだったなー私。

 とまあ、昔の出来事を思い出しながらビルの中をキョロキョロと捜していると、

 ――ヒュンヒュンッ! キィンキィンッ!

 何処からともなく飛んできたナイフ(毒塗り)を私がクナイで弾く。


「まったくもう。お姉さん何処行ったんだろうー」


 私がプクー、と顔を膨らませて次々と飛んでくるナイフを弾いていると、ビルの床が黄色く光っていて、それが点々と続いている事に気付づいた。多分蛍光塗料か何かだと思うけど、態々塗ってあるって事は、そこに私を誘導したいのかな。まあいっか、お姉さんの所に行けるかもしれないし。

 なんて思って私がその道を歩き出すと、四方八方からナイフ(毒塗り)がたーくさん飛んできて、私はそれを怪天で弾いていくけど、ナイフはドンドン、何処からともなく飛んでくる。


「……なーんか、面倒臭いなー」


 私は飛んで来たナイフを全部弾くと、クナイを袖に仕舞い込んで、両腕を思いっきり捻る。


「忍法『のうしんとう』!」


 捻った腕を回しながら床に叩きつける。待つ事数秒、

 ――ドオォォォォォンッ! シィンシィンシィンッ! バババババッ!

 突然目の前の通路から爆発音、ナイフの飛ぶ音、機関銃マシンガンの連射音が鳴り響く。こんなにも罠張ってたなんて凄いなー。私やお兄ちゃんでもここまでしないよー。

 忍法『濃振透』は、床や地面に振動波を叩きつける事で、壁などの周りにあるものに振動波を伝えさせて破壊する振動型忍術。私を誘導させてるんだし、絶対に沢山の罠を仕掛けてると思ってたけど、思ってたよりも多かったなー。


「まあ良いや。早くお姉さんみぃつけちゃおうっと!」


 私は鼻歌を交えながらお姉さんのいる所を目指す。でも問題なのは肝心のお姉さんが何処にいるかという事なんだよね。このビル相当広いから片っ端から捜すのは大変だし、かと言って当てずっぽうで行くのも危険だし、困ったなー。


「あーあ、本当の本当に面倒臭いなー。仕方ないやー、あれ使おっと」


 私はその場にしゃがみ込んで両手を床にペタと付ける。


(――忍法『どくしんかん』!)


 忍法『読振感』。地面や床に手を付ける事で振動波を流し込み、その振動波で人や物が発する振動を感じ取り、周囲の人や物の居場所を読み取る振動型忍術。

 『しんしゅうおん』、『振伸波』、『振伝頭』、『濃振透』、『読振感』、これらは全部服部家に伝わる振動型忍術。手や足の捻りや回転で振動波を作り出し、それを巧みに使いこなす技の数々。それを私は一応使いこなしている。

 私はお母さんとお祖母ちゃんの固有特性を一つずつ受け継いでいる。

 私のお母さん、服部はっとりはとーってもエッチな体をしてて、そのエッチさを利用した蠱惑術はそれはもう凄いったら凄かった! お母さんの固有特性は『蠱惑』と『妖艶』。私はこの二つの内のどっちを受け継いでるのかと言うと、実は分からない。

 もし『妖艶』を受け継いでいるんだったら、私の体はとっくにエッチな体になっていた筈なのに、未だに私の体は全然色気が無いし、どちらかと言うとまだお子様体型。『蠱惑』を受け継いでいるとしても、お母さんは自分の体を使って強い蠱惑術を使ってたから、体に色気が無いと蠱惑術は役に立たない筈。私の場合は。

 だから私に受け継がれたお母さんの固有特性が何なのかは置いといて、今回重要なのはお祖母ちゃんの固有特性の方!

 お祖母ちゃん、服部はっとりの固有特性は、『静寂』と『振動』。

 お祖母ちゃんは生まれつき喋れない。原因は不明だけど、声を発する為の声帯が死んでいるかららしい。そのせいでお祖母ちゃんは昔から言葉を発する事が出来ず、代わりに体の動きでどんな振動波でも自由自在に生み出す事が得意だった。だからお祖母ちゃんは誰かに何か言いたい時は、声帯を使わずに振動波で言葉を相手の脳に直接送り込む忍法『しんでんしん』を使わないといけなかった。この忍術は射程距離が短い上に相手の目を直視しないといけないと言う欠点があってあまり使われなかった忍術だけど、声帯が死んでいて、振動波を自由自在に作りだせるお祖母ちゃんには丁度良い忍術だった。『意振伝震』に限らず、『心終音』や『振伝頭』、『濃振透』などの振動型忍術をより強力に使いこなし、喋れないから常に静寂であり続け、『異常』な振動波で静かに暗殺を繰り返してきた所から『暗殺静サイレント』って二つ名が付いたんだけど、普段のお祖母ちゃんは凄い静かで、喋れないから影が薄い訳でもないのに余計に何処にいるのか分からない時が多かったなー。

 とまあそんな訳で『読振感』でお姉さんの居場所を読み取ってみると、大体予想してた通り最上階辺りにお姉さんがいる事が判明。でもその途中の階の所々に罠がいーっぱい仕掛けてある。どうしよっかなー。


「……よしっ、ここは忍者らしくいこっと」


 私は窓ガラスをクナイで割り、一旦外に身を出すと、そのまま壁を伝ってダーッシュ!

 忍者だから壁ぐらい走れないとお父さんとお母さんに殺されちゃうから――現に修行中に何回半殺しにされた事か――これぐらいは『普通』『普通』ー。

 流石のお姉さんも壁とかには罠は仕掛けられなかったみたいで難なく壁を登って、お姉さんがいる部屋の窓に足蹴り!

 ――ガッシャァァァンッ!


「――っ!?」


 まさか私が外からやって来るとは思っていなかったのか、お姉さんは驚愕の顔を浮かべ、弾を入れ直したらしいマニューリンをホルスターから抜く。

 お姉さんがいた部屋は学校の教室の1.5倍ぐらいの広さ。特に遮蔽物になりそうな柱は無くて、その代わりに彼方此方から火薬の臭いがプンプンするなー。


「おっまたっせしましたお姉さん♪ グッチャグッチャにしちゃいまーす!」


 私がニコニコしながらクナイを両手に握って言うと、お姉さんはニヤリと笑う。


「良いわよ。存分に来なさい。『暗殺霞ミスト』」

「分かりました。『平原の女王プレイン・クイーン』」


 そして私も、相手の体をグッチャグチャにした時によく出る笑みを浮かべた。

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