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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
弐 『異常』な幕開け(スタート・オブ・ゼウス)
21/44

弐拾殺

「……はあ」


 私、てんどう百合ゆりは呆然としていた。担任のはなぶさ先生に連れられてやって来たのは、地下第二書類倉庫という名の、巨大な部屋。その部屋には沢山の書類の山やダンボールが床や机の上に所狭しと無造作に置かれており、足の踏み場が殆ど無い。


「それじゃあ天童さん、あきさん、しまさん、ゆずかわさん、お願いしますね?」

「……はい」

『……はい』

『……はい』

『……はい』


 私だけじゃなく、もも小夜さよしいも元気無く返事をする。


「ああそれと、理事長から手紙を預かってるわ」

「え……?」


 花房先生が渡してきた茶封筒を開き、中に入っていた手紙を読む。


『1.お昼御飯は寮のおばちゃんに頼んで届けてもらうように手筈はついてます。

2.整理内容は同封したリストに書いてあります。

3.一日1人1000枚くらいの書類を整理すれば片付くと思います。

4.ちなみに一週間過ぎて終わっても怒りはしませんが、過ぎた分だけ欠席日数が減らされるので注意して下さい。

5.以上の事柄で意見があるなら直接ボクの所に来て下さい。

あらしざき紫苑しおん


 何故でしょう。これを読んでいると理事長の笑顔が頭に浮かんじゃうわ。良くない意味で。


「それじゃあ私はこれで。くれぐれも、問題行動だけは起こさないようにね?」


 花房先生は私を睨みつけて去って行った。


『ねえ百合華ちゃん』

「何、桃子?」

『あの2人、大丈夫かな』


 あの2人、服部はっとり君兄妹の事?確かにあの2人は運悪く理事長の助手をすることになっちゃったけど、どちらかと言えば欠席制限の無いR組が倉庫整理をすれば良かったのに。まあでも、あの理事長の助手をやるよりかは数十倍マシね。お気の毒ね、服部君。


「ま、生きてはいるでしょ。きっと」



 俺、服部はっとりじゅう兵衛べえと、愛する妹、は理事長の助手をする事になったのだが、正直大変だ。


「銃兵衛くーん! あっちの棚から例の書類持ってきてー!」

「あ、はい」


 まず理事長に書類を持ってきたり、


「伊佐南美君、事務室からメモ帳とボールペンとシャー芯の替え貰ってきてー!」

「は、はーい!」


 事務から備品を貰いに行ったり、


「銃兵衛君お茶!」

「は、はい」


 理事長に茶を出したり、完璧にこき使われている。


「あぁ、もう! ゆうさんがいない間に仕事を片付けとかないといけないのに! 何でこんなに仕事があるのさ!?」

「俺達に聞かれても知らないですよ。てか、何でほうじょうさんがいない時に一気に片付けるんです?」

「だって優子さんがいる時に一度でもガーッと仕事したら、なんだか優子さんに見張られているみたいな視線を感じて、途中で止めたくても止められないんだよ!」


 アホだ。この人すげえアホだ。


「普段は少しずつしかやらなかったけど、今日から一週間はこれを機会に、一気にやるんだあぁぁぁぁ!」


 ……仕事熱心、という事にしておこう。


「うおぉぉぉぉぉぉ! ファィトォォォォォォォ!」


 理事長は凄い早さで次々と仕事を――書類に目を通して印を押したり、何やら書き込んだりの作業――やりまくっていき、俺達は散々こき使われた。



「あ~疲れた~」


 あれだけ凄い早さでやったのにも関わらず、まだ半分しか終わっていない理事長は応接用ソファーに横になる。


「銃兵衛く~ん、マッサージして~」

「だ、そうだ伊佐南美」

「はーい」

「……ねえ銃兵衛君」


 無邪気に返事をした伊佐南美が理事長にマッサージする所を頼んだ本人が止める。


「ボク、銃兵衛君に頼んだんだけど?」

「俺がやると伊佐南美が発狂するので無理です」

「……それ、マジ?」

「マジです。もしやったら伊佐南美の精神的ストレスは大幅に上がります」


 理事長の眉がピクピクと引き攣る。そりゃ引き攣るか。


「……銃兵衛君、ずっと聞こうと思ってたんだけど、伊佐南美君の発狂条件って、精神的ストレスが溜まったら、だよね?」

「はい」

「じゃあさ、その精神的ストレスの溜まる要因は何なの?」


 理事長さん、それは聞かない方が良いと思うんですけどね。けど、理事長には世話になってるし、言っておいても損は無いか。


「俺が伊佐南美を可愛がらない、嫌う、冷たくする、虐める、傷付く事を言う、俺が他の女子と馴れ馴れしくする、セクハラに近い事をする、その他諸々の理由で伊佐南美は発狂を起こします。端的に言えば、俺が出来る限り女子と接しずに伊佐南美だけに興味を持っていれば大丈夫です」


 理事長は聞かなきゃ良かった、という様な顔をして引き攣る。ええその通りですよ理事長さん。伊佐南美はそれだけブラザーコンプレックスなんですから。『異常』にね。


「それってさ、銃兵衛君には一生カノジョ出来ませんよって言ってるのと同意義だよね?」

「伊佐南美、もし俺にカノジョが出来たらどうする?」

「どんな手を使ってでも別れさせるよー♪ やっても駄目だったらそのカノジョ暗殺するー♪」

「そういう事です」


 俺にとってはもう『普通』になったこういう恋愛系の会話は、理事長にとっては『異常』な会話に聞こえたんだろうな。そんな風に顔が引き攣ってる。


「ま、まあ、そんな事だったら、伊佐南美君にお願いしようかな」

「はーい」


 伊佐南美は無邪気を返事をし、うつ伏せになった理事長の腰をグイグイ押し始める。


「あ~! 気持ち良い~! 極楽極楽~」


 この17歳なのに年寄り臭い事を言う少女が、本当に昨日ヤバい殺気を出したあの『異常』な理事長なのか、正直疑いたくなる。


「それにしてもさ銃兵衛く~ん、君も君で挑戦的だよね~」

「は?」

「彼女だよ~。天童百合華君。あの子はね、高等部1年E組の主席なんだ」


 ……しゅ、主席? あの天童が? 一応この学校は私立って事になってるらしいし、そういうのがあるのは『普通』か。けどそれはあくまで『普通』の私立高校の場合。そういった時の主席ってのは、成績が優秀な生徒の事を指す。けどこの『異常』な学校での主席って事はもしかして、


「それって、クラスで一番強い、とか系ですか?」

「正確にはE組の中で一番の実力と『異常』を兼ね備えている、かな。クラス主席はクラスによって選ぶ基準が異なるから。でも天童君はよく『心奇牢ミラージュ』を使って他の生徒と死闘をする事が多くてね。いつも厳重注意だけだったんだけど今回はさすがに花房先生もあれでね」


 ハハハ、と『普通』に笑う理事長だが、アイツは一体何をやってきてるんだよ。あの精霊使い女、昨日のあの会話でそれとなく問題を起こしているとは思ったんだが、まさか人殺し厳禁な学校で死闘って。


「まあ、今回は一応無かった事にしたけど、もしあれが正式試合なら天童君の評判はガタ落ちだっただろうね」

「何故ですか?」

「だってさ、彼女はE組の主席だよ。そんな子がいきなり何の突拍子も無く編入してきた男子生徒との勝負で負けただなんて事が知れたらねー」


 成程。確かにクラスで一番上の奴が大して学校で名を上げていない無愛想で非社交的でネクラな男子高校生との勝負に負けたら確実に評判は悪くなる。しかも前科もあるから更に余計に。ていうか自分で自分を無愛想だとか非社交的だとかネクラだとかと言う俺もあれだけど。


「そういえば、天童って精霊使いなんですね」

「うんそうだよ。天童君はいかずちの精霊と契約を交わした精霊使い。それに銃兵衛君も知ってると思うけど、古式武具アンティカル使いだしね彼女」

「てか本当にあったんですね、古式武具。俺はこうげんの奴から話しか聞いてなかったんですが、ありゃまさに兵器ですよ」

「まあね。古式武具には個々の力というのが宿ってるからね。天童君の持ってる古式魔導銃エンシェント・ガンは魔術の銃弾を撃つ銃。この学校には他にも古式武具が沢山あるから気をつけてね」


 いや、気をつけてねって言われても理事長さん。それは俺なりの解釈でいくと、これから先、天童みたいに俺に喧嘩を売ってくる奴が続出するって事か?


「ま、銃兵衛君だったら大丈夫でしょ。あの天童君にほぼ素手だけで勝ったんだし」


 いや死にかけましたから。いかずち喰らって感電死する所でしたから。あと手裏剣以外に暗器持ってませんでしたから。あと超能力とか魔術とか門外漢ですから。俺が心の中で全否定していると、

 ――プルルル、プルルル、

 理事長の机にある電話の音が鳴り出した。


「あ、ボク出るね」


 伊佐南美にマッサージしてもらってた理事長はソファーから起き上がって伸びをし、電話に出る。


「はい、とうきょうじょうがくえん理事長、嵐崎です……はい、はい、あー今からですか? あーはい、付き添い一人ですね。分かりました。はい」


 理事長が電話を切り、俺のを向き、


「銃兵衛君、これからボクと総務省に来てくれない?」

「は?」


 そ、総務省?


「い、今からですか?」

「うん。今から。ちょっと召集が掛かっちゃってね。から」


 召集って、しかもって事は、政府がらみか何かか?


「何で総務省なんですか?」

「知らなーい。前は防衛省だったし、そのまた前は文科省だったし、場所が色々なんだよ。それよりも銃兵衛君、早く行こう」

「あ、はい」

「え……」


 伊佐南美がこの世の終わりみたいな顔になりだす。


「どうしたの伊佐南美君?」

「理事長さん、お兄ちゃんとデートするんですかー!?」

「デ、デート!?」


 案の定それ関係か。我が妹伊佐南美よ、お前は何で俺が他の女子と2人っきりになるって聞いただけでそんなに絶望的な顔になるんだ?


「ち、ち、ち、違うよ! 何でデートなのさ! 断じて違う! 絶対違う! た、単なる付き添いが1人同行するようにって言われたからだよ!」


 それで理事長さんも何でそこまで必死に否定するんですかね? 顔真っ赤ですよ。


「それなら伊佐南美でも良いじゃないですか。何で俺なんです?」

「そもそも私はお兄ちゃんと離れ離れになるのは死んでも嫌です!」

「うん、それだったら銃兵衛君の方が役に立つでしょ。伊佐南美君グズるかもしれないし」


 確かに。伊佐南美なら俺と一緒じゃない時点で絶対グズる。


「だったら2人一緒は駄目なんですか?」

「駄目だね。付き添いは一人までだし。兎に角、これは理事長命令です」


 理事長は頑なに俺を指名する。何でそこまで俺にするんだ?意味が分からねえ。けど、命令違反でもしたら後が面倒だし、


「……分かりました。伊佐南美、1人でお利口に待ってたらご褒美をやるぞ」

「キチンと待ってます!」


 とりあえず伊佐南美には物で釣っておいて黙らせとこう。


「それじゃあ銃兵衛君、行こっか」

「はい」


 俺は理事長の後について行ったのだが、後ろから伊佐南美の視線が気になったけど、あえて放っておこう。

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