弐拾壱殺
理事長が手配した車に乗り三、四時間が過ぎ、午後三時。俺と理事長は総務省に到着した。
「理事長、招集って一体何のですか?」
「射城学園理事長の全員召集だよ」
射城学園理事長の、全員招集?
「あ、そっか。銃兵衛君にはまだ言ってなかったけ。日本にはね、国策校である射城学園が八つあるんだ。北海道に釧路射城学園、東北に青森射城学園、中部に新潟射城学園、近畿に大阪射城学園、中国に岡山射城学園、四国に高知射城学園、九州に長崎射城学園、そしてボク達のいるのが、関東の東京射城学園、とまあ日本全国には『異常』な人間が沢山いるんだよ。それを隔離するのは色々大変だけどね」
「それだったら理事長、大阪にも射城学園があるなら何で俺と伊佐南美はわざわざ東京まで来る羽目になったんです?」
「え、そんなの簡単だよ。ボクの所だけが共学だから」
……え? って事は、この召集で来る付き添いは全員女って事ですか?理事長さん
「東京射城学園様、こちらになります」
案内人の女性がそう言って第一会議室というプレートの入った部屋の前で止まり、扉を開けて理事長と俺を中に入れた。
「あー、どうやらボク達が最後みたいだね」
中にいたのは、真ん中の巨大机の前に座った、婆さんや二十代ぐらいに見える若い女性、その中間など年齢層が広い女七人――コイツらが恐らく各学園の理事長だろうな――、その後ろにいる秘書と思しき女や東京射城学園の女子制服とは違うデザインの制服を着た女子生徒七人、計十四人の『異常』な人間達。付き添いは兎も角、理事長達がヤバいな。ヘタに仕掛けたら即死ぬぞ。
「じゃ、銃兵衛君は後ろに控えててね。くれぐれも問題を起こさないように」
「はい」
理事長は空いていた席にストンと座り、俺も後ろの壁側に控える。
「嵐崎理事長、遅刻とはまた余裕ですね」
俺達が遅刻してピリピリしてたのか、隣に座っていた三十代~四十代ぐらいの眼鏡を掛けた女性が理事長に文句を言うように話しかけてきた。
「すみませんね、鈴海理事長。こっちは郊外にある学校ですから、来るのにはどうしても時間がかかるんですよ」
「別に言い訳をしなくても結構です。それに……」
リンカイという理事長は俺の方ほチラッと見た。やっぱこの中じゃ俺がダントツで目立つな。悪い意味で。
「いくら嵐崎理事長の所が共学になったとはいえ、その男子生徒を連れてくるだなんて聞いてませんでしたよ」
「ボクはこの召集が今日だなんて聞いてませんでしたけど?どうせまたあなたが日取りを決めたんですよね? 新潟射城学園理事長、鈴海八海さん」
理事長と鈴海理事長が互いにヤバ過ぎる殺気を出し合う。問題起こすなって言ったのあなたですよね理事長さん。
「嵐崎理事長、鈴海理事長、ここで殺気を出すのは禁止した筈ですよ」
理事長の向かい側に座っていた20代前半ぐらいに見える若い女性が『異常』な殺気を出していた二人を止めに入る。
「月砂理事長、邪魔しないでくれませんか?」
「そうですよ、青森射城学園理事長、月砂信花さん。あなたは自分の生徒が小馬鹿にされても平気でいるつもりですか?」
「別に嵐崎理事長の気持ちが分からない訳ではありません。ですが、この召集はあの方からのお話もあるんですよ。これ以上殺気を出し続けるのならば即退室して下さい」
月砂理事長の言葉が効いたのか、二人は殺気をどんどん収めていく。
するとそれを見ていた隣の白ブラウスに黒ロングスカートの制服姿の女子――恐らく鈴海理事長の付き添い――がひひっ、と面白がるように笑い、
「あんたんとこの理事長、相当短気だなぁ」
……それは要するに理事長を馬鹿にしてんのか?
その発言には俺もイラッときたので、
「お前んとこの理事長も似たり寄ったりだろ」
とだけ返してみたら急に怒り狂った顔になり、
「んだとてめぇっ! やんのか!?」
俺の制服の襟首を掴んでグイッと引っ張って罵ってくるが、罵るぐらいなら1発殴れよ。
あと襟首は容易に掴むモンじゃないぞ。裏に毒針仕込んでたら即おしまいだからな。俺はやんないけどね。伊佐南美が掴んじゃったら大変だし、間違えて自分に刺さるかもしれないし。
コイツ、付き添いをしてるくせに注意力散漫だな。
「柚美やめなさい! ここで争うのは厳禁よ!」
じゃあさっきまで殺気を出してたあんたはどうなんですかね?
「け、けど理事長……」
「いいから! 言う事を聞けないならすぐに出てってもらうわよ!」
鈴海理事長の言い方が良かったのか、ユミと呼ばれた女子は黙って襟首から手を離し、渋々と壁に凭れて大人しくなった。すると俺も理事長からの妙な視線を感じ、当人の顔を見ると、睨まれてる。理事長さん、殺気までヤバい殺気を出してたあなたはどうなんです?
なんて思っていると、コツコツと何かが近づいてくる音が聞こえ、それが総務省の人間らしい男が歩いてくる靴の音であるというのが分かった。
「……全員来られましたね。ではこれより、全射城学園統括者、如月百合姫様からのお話が御座います」
男が反対側を向いて一礼をした。かと思ったら、出ていたスクリーンに突然誰かが映し出された。それとほぼ同時に座っていた理事長8人が一斉に立ち上がり、周りが一瞬でピリピリとした空気になる。
誰が映し出されたんだ、と思って見てみたら、『異常』に驚愕した。
それは、俺と同い年ぐらいの少女だった。そこはまだ百歩譲って良い。だが問題はその後だ。別にこの少女が禍々しい雰囲気を出しているというならまだ良い。けどそんな雰囲気はまるで無い。むしろ逆だ。
この少女は『美しい』。すげえ美人だ。絶世の美女に例えられるぐらい、いやまさに絶世の美女だ。純白のドレス、ロングの銀髪、サファイアの様な碧眼、そして美しい白い肌。こんな漫画に出てくるような美女が本当にいるんだな。
「ごきげんよう皆さん。本日も集まって頂き、まことに感謝します」
しかももう一つ驚いた事に、この少女からは何の殺気もヤバい雰囲気が一切感じられない。全部美しさしか感じられない。『異常』美しさを持った、射城学園の統括者。なんかもう訳分からねえ。
「本日皆さんに集まって頂いたのは他でもありません。皆さんに緊急のお知らせがあり、お呼びしました」
緊急のお知らせ? 何だよ一体、どうせ極悪人が出たから消して下さいとか、政府の要人が狙われているがどうとかだったりか。
「実は昨日、私は何者かに命を狙われました」
当たった。適当に予想したのに一つ当たった。
「詳しい事を省きますが、皆さんには私の護衛、そして命を狙った人物達の排除をしてもらいたいのです」
当たった。もうひとつの予想も当たった。要するに理事長達が呼ばれた理由って、射城学園の統括者が殺されそうだからなんとかしてくれって事だろ?そりゃ呼ばれる筈だ。
するとうちの理事長が静かに挙手をする。
「百合姫様がお命を狙われた経緯について詳しく教えて下さい」
「昨日、いつものように業務を行っていた所、秘書が誤って紅茶を零してしまいた。その時紅茶は床に零れたのですが、その紅茶は床に落ちた途端に蒸発したのです」
じょ、蒸発? 紅茶が蒸発したって事は、毒でも入ってたのか?
「調べてみた所、紅茶には強力な猛毒が混入されていました。ですが、誰がいつどのようにして混入させたのかは不明です」
やっぱ毒か。なるほどな。守りの堅い人間を確実かつ簡単に仕留めるには毒殺が一番有効だしな。
「つまり、犯人については何も分かっていない、という事ですか?」
「はい。なので、不躾とは思いますが、皆さんのお力を貸してほしいのです」
百合姫様の頼みに理事長達は顔を合わせあい、理事長が代表かのように百合姫様に向かって、
「百合姫様、我々はあなた様の手足となって動く事を誇りに思っています。あなた様のお命を狙う輩、必ず排除します」
まるで殿様に仕える忠臣のような忠誠心を見せてきた。まあ、気持ちは分からなくもないが。
「……ありがとうございます」
百合姫様は申し訳無さそうに礼を言うが、一つ気掛かりな事がある。
さっき百合姫様は『命を狙った人物達の排除』と言った。何で人物達、なんだ?
毒を盛られただけなら犯人が1人という可能性だってある。少なくともさっきの説明だと犯人は単独としか思えない。なのに複数形を使った。
犯人は複数いると考えたからか、或いは……
「ヒャッハハハハハハハハハハハハ!」
突然、男の笑い声が聞こえ出し、会議室全体に響き渡った。
「一体誰です!?」
「俺だよ」
全員が声のした方を見た。その声の主は、十八か十九ぐらいの少年だった。
(ッ!?コ、コイツ……!)
だが、この中で一番驚いたのは多分俺だ。なんせその少年とは面識がある。
髪は黒いロングストレート。黒、白、赤、青の四枚の浴衣の重ね着、下はジーパン。そして背中に携えた日本刀。
そう、その少年は一昨日の仕事で、俺よりも先に来て、俺の獲物を勝手に始末した、ヨウサイだからだ。




