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零階梯の神話  作者: Matsu
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破壊神

轟音が森を揺らした。


巨大な魔物の身体が宙を舞う。


木々を何本もへし折りながら、遥か後方へ吹き飛んだ。


レイヴァは目を見開いたまま動けなかった。


何が起きたのか、うまく理解できない。


ただ一つ分かるのは。


目の前の大柄な男――アレスが、

異常なほど強いということだった。


「遅ぇんだよ!」


アレスが笑う。


巨大な拳を振るう度、空気が爆ぜる。


衝撃だけで地面が割れ、周囲の木々が揺れていた。


人間の戦いじゃない。


レイヴァは本能でそう理解した。


巨獣が咆哮する。


山全体が震えるような声。


普通の人間なら、立っているだけで腰を抜かす。


だが、アレスは笑っていた。


楽しそうに。

心の底から。


「そのくらい頑丈な方が面白ぇ!」


巨獣が突進する。


大木をなぎ倒しながら一直線に迫ってくる。


レイヴァは思わず後ろへ下がった。


速い。

大きい。

怖い。


しかし、アレスは避けなかった。


正面から踏み込む。


次の瞬間。


轟音。


アレスの拳が巨獣の顔面へ叩き込まれた。


空気が歪む。


衝撃だけで周囲の地面が吹き飛んだ。


巨獣の身体が大きく仰け反る。


そのまま後方へ倒れ込み、岩壁へ激突した。


山肌が崩れ、土煙が舞う。


レイヴァは息を呑んだ。


強い。


そんな言葉では足りない。


力の次元が違った。

 

「これが……神」


思わず声が漏れる。


隣に立つオルフェウスが静かに口を開く。


「アレスは純粋な戦闘能力なら、今でも最上位に位置する」

「真正面から彼と戦いたがる者は少ない」


「そりゃそうだろ!」


アレスが振り返りながら笑う。


「正面から殴り合えば俺が最強だからな!」


ルナが呆れたようにため息を吐く。


「脳筋」


「なんだと?」


「事実でしょ」


二人が言い合う。


だが、その間にも巨獣は立ち上がっていた。


身体は半壊している。

片目も潰れていた。


それでもまだ、殺意を失っていない。


巨獣が咆哮する。


すると、森の奥から新たな気配が溢れ出した。


木々が揺れ、赤い目が闇の中で光る。


新しい魔物達だった。


レイヴァは思わず周囲を見る。


囲まれている。


だが。


オルフェウス達は全く焦っていなかった。


むしろ、少し退屈そうですらある。


ルナが空を見上げる。


「増えたわね。匂いに集まったのかしら」


アレスが笑う。


「ちょうどいいじゃねぇか、坊主の授業には分かりやすい」


レイヴァはそちらを見る。


「授業?」


アレスはニヤリと笑った。


「力の使い方だよ」


その瞬間。


巨獣が再び突進した。


アレスは動かない。


地面を黒い影が走る。


ルナだった。


彼女の影が月明かりの下で大きく広がる。


地面を這う闇。

その闇が巨獣の身体へ絡みついた。


巨獣が暴れるが、闇は微動だにしない。


まるで、影そのものが生きているみたいだった。


「縛りなさい」


ルナが静かに呟く。


次の瞬間。


闇が巨獣の身体へ食い込んだ。


悲鳴。


巨大な身体が地面へ崩れ落ちる。


レイヴァは目を見開いた。


気付かなかった。


いつの間にか、周囲の空気が変わっていた。


冷たい。


背筋を何かが這うような感覚。


本能が警告している。


触れてはいけない何かを前にした時みたいに。


「それが……妖力?」


レイヴァが聞く。


ルナがこちらを見る。


月明かりに照らされた赤い瞳は、人のものには見えなかった。


「ええ、神力とは真逆の力、理ではなく本能に近いものよ」


巨獣がなおも暴れるが、それでも闇は離れない。


アレスがその横へ歩いて行き、無造作に拳を振り下ろした。


拳が巨獣の頭部に当たった瞬間、地面ごと砕けた。


巨獣は二度と動かなかった。


森に残ったのは、土煙と血の匂いだけだった。


レイヴァは言葉を失っていた。


強すぎる。


王国最強の騎士でも、こんな戦いはできない。


そもそも。


比べること自体、間違っている気がした。


アレスが肩を回す。


「んー、ちょっと暴れ足りねぇな」


「十分暴れたでしょう」


ルナが呆れた声を出す。


オルフェウスは静かにレイヴァを見た。


「怖いか?」


怖い。

それは確かだった。


普通の人間ではない。


この者達は、世界そのものが違う。


 

だが、目を離したいとは思わなかった。

むしろ、もっと知りたいと思った。


「......正直少し怖い。でも、強いって思った」


アレスが笑う。


「ははっ!正直でいいな!」


そう言って、レイヴァの背中を叩く。


今度は少し加減していた。


「なら、お前も強くなれ。坊主には才能がある」


その言葉に、レイヴァは小さく眉を寄せる。


才能。


王城では否定されたもの。


ゼロ階梯。


無能。


失敗作。


何度も聞いた言葉だった。


レイヴァは小さく呟く。


「俺に才能なんてない」


レイヴァがそう言うと、アレス達が少し黙った。

ルナが目を細め、オルフェウスは静かにレイヴァを見る。


そして、オルフェウスがゆっくり口を開いた。


「レイヴァ、お前はまだ知らないだけだ」


風が吹く。

湖の水面が揺れる。

月明かりが森を照らしていた。


オルフェウスは静かな声で続ける。


「才能がなかったわけではなく、測れなかったんだ」

「今の人間達の術式では、お前を理解できなかった」


レイヴァは黙ったまま聞いていた。


そんなことを急に言われても、

すぐに信じることはできない。


それでも。


オルフェウス達の言葉には、

王城の大人達みたいな冷たさがなかった。


だからだろうか。


怖い場所のはずなのに、王城よりずっと居心地が悪くなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


今後とも『零階梯の神話』をよろしくお願いします。

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