第三章 作戦会議 02
「確かに可能ですよ、ご主人様」
と、まるでオレの心を見透かすように、大人の女性特有の妖艶な笑みを浮かべるアルトさん。
その艶っぽい笑みに一瞬ドキッとしつつも、なんとか平静を装い問いかける。
「えっ? もしかしてアルトさんって、コッチ方面の魔法に詳しいのか?」
「はい、専門ではありませんが、それなりには。わたしの故郷は痩せた土地が多いですゆえ、マナを使って作物を早期栽培する研究が進んでおりました」
紆余曲折あってウチでウェートレスなんてしてるけど、アルトさんの故郷は隣の国のウェーテリード王国。
話では半軍事国家で、鉱山が多く鉄鋼業が盛んな国だそうだ。まあ、鉱山がたくさんあっても、鉄は食えないからなぁ。
「ただ、野菜などと違って樹木の場合は収穫して終わりという訳にはいきませんから、枯らさないようにその後も定期的にマナを供給する必要がありますが」
「なるほど……じゃあ、もしも桜並木――そうだな、川沿いに三百本の桜を植えて、その桜を今から冬までに咲かせたいと言ったら可能だと思う?」
「三百とは……なかなかの数ですね」
オレの問いに眉をしかめるアルトさん。
問題になっている川は、この街の東側を通り海へと流れるプリモ川。
こう言っては何だが、川を挟んで反対側は隣の領地。何よりそちら側は山林だ。向こう側に洪水が起こる分には、人的被害はない。
だから植樹するのはコチラだけでいいのだが……
例えば隅田川の場合、墨田区側の桜の数が約三百五十本あったはず。そう考えると、そのくらいの数は必要だろう。
「大気のマナを集めて木に注ぎ込むにしても、わたし一人では二十……いえ、三十が限界でしょう」
元宮廷魔導師でもそれくらいが限界か。
とはいえ――
「わたしも魔導師の端くれ。やり方さえ教えて頂ければ、お手伝いできましよう」
「それでも手が足りぬなら、近隣の領主に掛け合い魔導師を派遣させればよい。渋るようなら妾の名前を使え」
オレの考えを察したように名乗りを上げるレビンとシルビア。
そう、別にアルトさん一人でやる必要はないのだ。何よりこの街には、伝説の大賢者とやらもいる。あのエロジジイならウチの綺麗どころが頼めばイヤとは言うまい。
まっ、用が済んだらポイだけど。
となると、次の案件は――
「ステラの方はどうだ? ヤッパリ人手が必要か?」
「精霊魔法の方は、わたし一人でなんとかなると思います。実際に働いてくれるのは、精霊さん達ですから」
さすがこの店のオーナーさまだ。見た目は子供でも頭脳と胸は十分大人。頼りになる。
「シズトさん。何か失礼な事、考えてないですか?」
「ソンナ コト ナイデスヨ」
オーナーさまにジト目で睨まれ、しがない雇われ料理人のオレは、そっと視線を逸らした。
てゆうか、ステラは最近、よくオレの考えを読むようになったな……
ったく、ラーシュアのヤツ。余計なスキルを教えやがって。
オレは視線と一緒に話を反らすべく、一つ咳払いをして話を続けた。
「じゃあ、ちょっとまとめるぞ。桜の苗木はステラの精霊魔法で枝分けから三日で植樹が出来る状態に出来る、と?」
「はい」
「で、堤防沿いに肥沃な土を用意して植樹。その後はマナで気温と日照不足を補いつつ、成長に必要な分のマナも送り込んで行く――アルトさん、コレはどれくらいの日数が必要かな?」
「一気に送り込むと木にも負担になりますから、五日ほどかけてゆっくりと行うのが良いかと思います」
「了解。で、マナが十分に集まったら、再び精霊魔法で木を成長させると――」
うん、今年中にはムリかと思っていたけど、十分に実現可能なレベルまで形になって来たな。
正直、浸水した店内の補修をするのは勘弁して欲しいし、何より世話になった街の人達に恩返しが出来るチャンスでもある。
まっ、最終判断はこの案件を持ち込んだ、このペド紳士だけど。
「で、どうする、レビン? 治水は街の人の生活に関わる問題だからな。やるって言うなら協力はするぞ。まあ、費用はそっち持ちだけど」
「はい。話を聞くに、試す価値のある計画だと思います。ぜひ、やってみましよう。それに、税収とはこうゆう時の為に使うモノ。当然、費用はコチラで持たせてもらいます」
ぜひとも日本の政治家どもに聞かせてやりたい伯爵公子の返事を聞き、オレは席を立つとテーブルを囲むみんなを見渡した。
「おしっ! じゃあ、いっちょヤッて――」
「待て、主よ――」
人のやる気へ水を差すように、ラーシュアはオレの言葉を遮った。
途中から、あまり会話に入って来なくなっていたロリッ娘は、腕を組んで何やら難しい表情を浮かべている。
「まだ大きな問題が残っておるぞ」
ラーシュアの言葉が理解出来ず、オレは顔をしかめた。
てか、大きな問題だと……?




