scene16大罪人
王城中庭。
黒煙が立ち上り、石畳が砕けていた。
玉座から退いた国王が、わずかな近衛兵に囲まれ、迫りくる魔族を睨み据えていた。
もう迷わない。
俺は一気に距離を詰める。
「待て!無資格は下がれ!」
国王の声はこの戦況下にあっても、なお揺るがない。
王を囲んだ兵が、盾を重ね俺と魔族の間に入った。
だが次の瞬間、盾は弾け、兵士の体が宙を舞った。
ダメだ。
そんなんじゃ防げない。
死が止まらない。
一歩踏み出した俺の肩をティアがつかんだ。
「無駄です」
その声は冷たく、視線は突き刺すように鋭かった。
「王は...殉教者、資格制度に取りつかれている。
自らの死ですら資格制度の正当性を証明する手段としか考えていません」
「何をいってるんだ。
これ以上俺の前で誰も死なせない」
俺はティアの手を振り払う。
「改革には犠牲がつきものですわ」
「改革?何言ってるんだ。
犠牲の上に成り立つものなんてない」
俺は叫び、走り出す。
魔族の前衛を蹴散らし拳で叩き潰した。
資格はない。
それでも俺の拳は魔族を打ち砕く。
人を救いたい、その思いだけで動ける。
王が叫んだ。
「止めろ!その無資格を取り押さえろ!」
兵たちの動きは鈍い。
そうだ、俺が戦わなければ王は救えない。
「王の命令だぞ!無資格を止めるんだ!」
兵士の一人が叫びながら向かってきた。
他の兵も後に続き俺を囲む。
「邪魔だ!敵は俺じゃない!」
ほんの一瞬、俺の動きが止まったその時。
魔族の一体が、王の背後に回り込んだ。
刃が振り下ろされる。
「国王!」
俺は兵士たちを、押しのけ強引に突破する。
それでも...間に合わない。
鈍い音とともに床が赤く染まっていく。
音が聞こえなくなり、静かな景色がゆっくりと動いている。
俺は振り向きざま、その魔族を叩き潰した。
怒りも理屈もない。
ただの衝動。
魔族は倒れ周囲の敵は退いた。
だが...王は膝をつき、崩れ落ちる。
兵たちも俺も状況に理解が追いつかない。
俺は守れなかった。
兵たちは守ろうとした俺を止めた戸惑い。
それぞれの正義で動いた結果だった。
王と兵士を交互に見る。
握った拳には血がにじんでいた。
「……俺が...俺がもっと早く…」
声が出ない。
資格、制度、正しさ。
一瞬の躊躇が今のこの状況を作り出した。
血が広がっていくのを見ながら歯を食いしばる。
資格...こんなもののせいで命が奪われている。
俺は倒れた王のもとへ行き膝をついた。
血が止まらない。
温かいはずのそれは、急速に冷え始めていた。
「なんで...なんでそこまでして...」
国王の目がかすかに開いた。
「資格なき力は....破滅へと......」
聞こえたのはそこまでだった。
俺に何を伝えようとしたのか…。
カシャン!
鋭い金属音が鳴り王の胸に、新たな刃が突き立った。
「...なんで...?」
視線の先で剣を握っていたのは、ティアだった。
俺をまっすぐ見るティア。
「今の資格制度では世界は守れません。
生まれ変わる時が来ました」
ティアが視線をそらし血に濡れた剣を掲げ、叫んだ。
「無資格勇者が国王を暗殺した!」
「これは資格制度に対する反旗だ!」
何を...何を言っている...?
状況が理解できない。
「ティア、何を...?」
背筋が凍りつく感覚がある。
兵士たちが一斉に駆け寄ってくる。
混乱と怒りと恐怖、感情の全てが俺に向けられる。
「無資格の反逆者を捕らえろ!」
兵士たちが一斉に斬りかかってくる。
「止めろ!俺は、俺はやってない!」
言葉は刃にかき消され、何も届かない。
「くそ!」
俺は剣を受け流し、蹴りで間合いを開く。
包囲を突破する。
絶対に殺さない。
ただ、振り切る。
崩れた外壁から夜の闇へと飛び込む背後で怒号が渦巻く。
視界の隅にティアの姿が見える。
その横には宰相ナザエルの姿が見えた。
ティアが高らかに宣言をしている。
「王は倒れた!
だが資格制度は終わらない!
新たな資格時代の始まりだ!」
仕組まれていたのか?
俺は騙されたのか?
悔しさがこみ上げる。
制度を守り死んだ王。
制度の為に何も出来なかった俺。
結局、俺は何も守れず、無資格のまま国王殺しの大罪人となった。




