表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネオ・ウルガータ ~次元のアルケミスト~  作者: 路明(ロア)
II 観測衛星ルフ・シャハフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/193

TARIQ 路上 2

「それと」

 アンジェリカがそう付け加えて、こちらを指差した。

「あんたは絶対うちには来ないで」

「行きたくて行ってんじゃねえ」

「できる限り早くしてほしいわ。死後硬直も解けたし。防腐処理はしてるけど、処置しやすいタイミングってものがあるのよね」

「まじで反吐(ヘド)が出る」

 ハーヴェルは顔をしかめた。


 生きていたのか……。


 突如。

 頭の中に直接言葉が湧くようにそう聞こえた。

 一気に周囲の空気が重くなる。

「ユーセフか!」

 この感覚はすでに覚えた。ハーヴェルはあたりを見回した。

「うわっ、嘘やばっ」

 アンジェリカが日傘で顔をかくす。

 後方に向けて見えない何かに引っ張られるように空間が歪んだ。

 引きずられはしなかったが、身体の内部だけが吸引されるような感覚が心地悪い。

 ひとしきり空間が引っ張られたあと、歪んだ空間の先に長身の男性の姿が現れた。

 長い灰髪に落ちついた精悍な顔立ち、軍装のような服。

 ユーセフだ。

 半透明ではあったが、以前よりも少し姿ははっきりとしている。

 背後にはうっすらと五次元の建物内部らしき景色が見えた。

「なんかあっちの技術の進み方って早くない?」

 アンジェリカが日傘からチラリと顔を出す

「もともとこちらとのコンタクトの技術はあったからな。いつなのか知らねえが祭祀(さいし)の件もあったわけだし、おなじ事態に備えて技術開発くらいはしてたのかもな」

「あんたが進めてた重力子の観測は? 今どんなとこよ」

 アンジェリカが口元に手を当てる。

「データ分析中だ。うるさい」

 関連する理論だけはこちらにもあるが、技術的には一から始めなくてはならないのは不利だ。

 お二人とも、

 生きていたか。

 ユーセフは目元に微笑を浮かべた。

「うう……敵ながらやっぱりイケメンだわ」

 アンジェリカは、傘の柄を握りしめた。

「思いっきり殺そうとしやがったくせに何言ってんだあんた」

 ハーヴェルは睨みつけた。

 あなたも、

 よくご無事で。

 ユーセフがこちらのほうに視線を向けた。かすかに笑みを浮かべる。

「あなた」

 アンジェリカがプッと吹きだした。

 日傘で顔を隠し、くくくくと肩を震わせて笑う。

「何を笑ってんだ(クソ)魔女」

 女性の方々に

 攻撃するのは、

 本当に

 心苦しいが。

 ユーセフが苦笑する。女性の方々って誰と誰だ。ハーヴェルは眉をよせた。

「フェリヤールのことなら、今日は俺の中にはいねえぞ」

 そうか、とユーセフが返す。

 ならば、

 あなただけは

 見逃せるかもしれない。

 上に

 そう進言しよう。

「……案外あっさりだな」

 アンジェリカは相変わらず日傘の陰に隠れて、くくくくと笑い続けていた。

「酔っぱらってんのか、てめえは」

 では、

 そちらの可憐な方。

 アンジェリカのほうを向いてユーセフが言う。

 まるでその場にいるかのように目線を合わせられるのが、すでに相当の技術だ。

 始末

 しなければ

 ならないのは、

 あなただけになった。

「やだ、やば」

 アンジェリカがわずかに後ずさる。

 ミニドレスの(ひだ)の間をさぐると、白いレースの(おうぎ)を取り出した。

 このまえの転送装置か。ハーヴェルは軽い嫌悪感を覚えながら横目で見た。

 ユーセフが首をかたむける。

 あのとき、

 どうやって

 助かったのか。

 参考までに

 教えてくれないか。

「言うわけないでしょ」

 アンジェリカは扇を開いた。優雅な貴婦人よろしく口元をかくす。

 わざわざ開かなくても使えなかったかとハーヴェルは内心で突っ込んだ。

 見えない何かがアンジェリカの日傘の生地部分を攻撃し、日傘の一部が大きくへこむ。

 ほぼ同時にアンジェリカの周囲の空間が歪み、白いミニドレスの姿は端から崩れて消えた。

「逃げられたな」

 何の感動もなくハーヴェルは淡々と告げた。

 仕方がない。

 ユーセフが呟く。口元には微笑を浮かべたままだ。

 わざと手加減したのか、何かの余裕なのか。

 次元が違えば価値観もまるきり違う可能性があるので、こういった推測自体が無駄かもしれないが。

「言っとくが、あれを殺すのは無理だぞ。あの身体が死んでもすぐにべつのにとっ替えるからな」

 三次元の人間は、

 そういう

 仕組みなのか。

「あれは例外中の例外だ」

 ハーヴェルは嫌悪感に目を眇めた。

 そうか。

 あなたは?

 ユーセフがそう尋ねて穏やかに笑む。

 ハーヴェルは無言でその表情を見ていた。

 こういう表情で男に見られることが、むかしからちょくちょくあった。


 女と間違えてる奴の表情だ。


 なるほど。あの魔女が気にさわる笑い方をしていた理由が分かった。 

 ハーヴェルはチッと舌打ちして懐をさぐった。

 拳大(こぶしだい)ほど大きさの転送装置をとりだす。

 ユーセフの質問には答えず、指先で歯車を操作した。

 やはりカディーザの屋敷を早々に辞去してよかった。あの魔女はいくらでも巻きこんでいいが、カディーザを巻きこむわけにはいかない。 

「俺をねらう理由がなくなったなら二度と現れんな。あの糞魔女だけさっさとぶっ殺してろ」

 ユーセフが毒気を抜かれたような表情をする。

 あなたは

 美しいが、

 ずいぶんと

 言葉が乱暴なのだな。


「死ね」


 ひとつだけ。

 フェリヤールは

 どこにいる。

 ハーヴェルは答えず、歪んだ空間に足を踏み入れた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ