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新しい生活

最終話に出てきたサリア国をトランジーヌ国と変更させて頂きました(セシールがいた国のサリ国と名前が被っていた為)

特に問題なく読めるかと思いますが、ご迷惑かけ申し訳ありません。



 私、ドロシー・レイナーがリジェに来て10日が経とうとしている。いや今はドロシー・ヘリオスという名か。これには今も慣れないが、それがまた直ぐに変わるのだからややこしいことこの上ない。結婚式を控えた私はリジェの要人に挨拶をしたり、ドレスの調整をしたり結婚式の打合せをする必要がある為、リジェの城の後宮で過ごしていた。


 リジェ国内は君主の婚姻で賑わっていたが、それに伴う城下の祭りの指揮や式典準備の仕事のせいで城内の官僚達は目が回るような日々を過ごしていた。婚約時にあったトランジーヌ国の姫とのことを考えれば官僚達は殺人的スケジュールをこなしているといえる。官僚達は目に隈を作りながら各自書類に奮闘していた。


 それはアレクも一緒で寝る前の短い間しか彼との時間は取れない。その時間も、アレクは話の途中で眠ってしまうことが多かった。こんな忙しい中私に時間を取ってくれるのは嬉しいが、無理はしないで欲しいと思う。

 アレクは渋ったが私はシモンを正式な護衛騎士とし、日々妃としての勉強に勤しんでいた。勉強の合間に城に取り寄せられた満月葉を使い雨乞いの練習をしている。


 それと、ジョシュア殿下から頂いた魔石のアクセサリーだが、全て処分しアレクから貰った魔石のアクセサリーをつけている。より華美に、より豪奢になり魔石も大きなものになった。価値がわかってしまった今では普段使いするのもハラハラしてしまう。お陰で遠くに雨を降らせることが容易になり、ヘリオス国のすぐ近くまで雨雲を作る事に成功している。


 目下私を困らせているのは机の上に載っている書類達である。その書類には騎士達の個人情報が細かく書かれ上官からのちょっとした評価がついている。アルタイル騎士団という騎士団の人達の書類らしいが、この中から少なくとももう1人、私の専属騎士を選ぶように言われていた。その中でも紙の左上に赤丸がついている書類があり、優れた者たちをピックアップしているのだという。


 要するにこの赤丸から選べという事だろう。赤丸がついている書類を見ればどれも公爵令息や侯爵令息で明らかに身分で選んでいるように感じた。騎士ともなれば四六時中側にいる存在だ。爵位よりも私と気が合うかどうかが問題だ。勿論、シモンとも。


 アルタイル騎士団員全ての書類に目を通していけば一つだけ異質な書類があった。男爵令息のジークフリート・ド・シャマル。今期の最優秀者として入団しているにも関わらず上官メモには《勤務態度、怠惰・不真面目》と書いてあった。


 どの騎士も褒め称えることしか書いていなかったにも関わらず、この書類だけ悪意が感じられる。


「ねぇ、シモン。私直接騎士達に会ってみたいんだけど」


 私は背後にいたシモンに相談を持ちかける。


「いいと思いますよ。実際に会った方が書類とにらめっこするよりずっと人となりが分かるでしょう」


 こうして、私はアルタイル騎士団の面談をしたい旨を王室庁に伝えた。すんなり許可が出て意気揚々と面談を始めたものの結果的に会えたのは赤丸がついた騎士だけで、それ以外の騎士は今全員任務中故会えないと言われてしまった。

 会えた騎士達は王妃になろうという人物の専属騎士とあって、どの騎士も熱力が凄い。それに加え気持ちが悪いほど、私を褒め称えた。


「なんだかどっと疲れちゃったわ」

「賞賛の嵐で碌な話も出来ませんでしたね」


 賞賛の嵐と言う名のお世辞や媚びというやつだ。


「どうにかして他の騎士と会えないかしら?」

「うーん。アルタイル騎士団や王室庁は公爵か侯爵家から選んで欲しいみたいですからね。正攻法では難しいでしょう。そうだ、陛下に一度相談なさっては?」


 確かに相談すれば簡単かもしれない。でもあんなに忙しくしているのに、さらに手間を掛けさせる気には到底ならなかった。


「……そうね」


 この問題は解決した、とシモンは話題を別に移した。

 私は曖昧に頷きながら、思考は騎士との面会について考えていた。

 アルタイル騎士団をこっそり訪れてみよう。元近衛騎士のシモンが居ると私の身元がバレてしまうかもしれない。行くならシモンの勤務時間外の朝早くだ。どうせなら、普段の彼らを見たい。



 翌日、私は早速出かける。鐘が鳴る頃までに部屋に戻ればシモンも侍女もこない。まずは着替えだ。私が一人で着られる服は雨乞い師の服だけなので、慣れ親しんだその服に袖を通す。冬用の少し厚手の生地に変わっているが、デザインは夏用とほぼ一緒だ。リジェではこれだけでは寒いので真っ白な足元まであるマントも羽織る。


 こっそり宮を抜け出した私は事前に侍女に聞いた敷地内にあるアルタイル騎士団の騎士塔へと向かった。


 しかし、いざ塔に着いてみれば鍵がかかっており扉が開かない。


(その可能性を失念していたわっ!)


 折角ここまで来たのに、なにも収穫のないまま帰れない。私は塔の壁に沿って歩く。すると少し行ったところで複数の人の声が聞こえた。耳を澄ませれば、誰か1人を集団で意地悪をしているのだとわかった。その行為に酷い嫌悪感を抱く。間違っても私の騎士になどにはしたくない。


(せめて、顔を確認したい)


 側に積んであった木箱を踏み台に上がり私はこっそりと顔を見る。赤髪の男、黒子が鼻にある男、刈り上げの男。私は男達の特徴を脳に刻んでいく。


 男達が去って行くと、意地悪されていた少年だけがその場に残った。この人だけはさっきから死角に入り顔が上手く見えなかった。今など殆ど真下にいるのだから隠れ見ている私は彼の姿を捉えることもさえ出来ない。


(別に見つかったって殺される訳でもない。少し偉い人に怒られるだけよ)


 私は意を決して身を乗り出す。が、思ったよりも腕に力が入り過ぎたらしい。塀に乗り上げ過ぎた私の体はバランスを崩してあろうことか敷地内へと傾く。


「きゃっ」


(落ちる)


 頭からの落下に恐怖が押し寄せる。ぎゅっと目を瞑ると誰かに抱きとめられた。


 目を開けると心配そうに私を覗き込んでいる少年の顔があった。目が合えば優しそうな黄金色の瞳を見開いて私を見つめた。

 この垂れ目の赤毛の少年が、書類にあった怠惰な男、ジークフリート・ド・シャマルだと知ったのはこの後すぐのことだった。

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