表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
9/49

8、変わったこと

 その後の生活で、私たちに変わりは無かった。いつも通りお互い無関心に過ごしたし、いつも通り私は学校生活を一人で過ごした。ただそれは、修学時間の中でのみの話だが。

 気がつくと、私の秘密基地は二人の溜まり場となっていた。私は水彩画を描くし、マイロニーはそれを見たり、マンガを持ち込んで読んだりしていた。何も話さずに帰る日もあるし、やけにしつこくマイロニーから話しかけてくる日もあった。その内容のほとんどが、面白いダジャレを思いついただとか、道で見かけた太った猫の写真を見てほしいとか、くだらない内容だった。

 いつの間にか、マイロニーに対する嫌悪感はどこか消えていた。


 今日も途中の水彩画を描き足していると、マイロニーがニコニコと微笑みながら入ってきた。てててと私のそばに来ると、手元をのぞき込む。そして、楽しそうに「うん、うん」と頷いていた。

 横目でチラリとマイロニーを盗み見る。本当にこうして見ると、授業中とは大違いだ。今日も「つまらない」「下手くそ」のオンパレードだったが、水彩画を見る時だけは心から嬉しそうに笑うのだ。

「夢子は、どうして水彩画を描くの?」

 開口一番、マイロニーはそう尋ねた。ふ、と一瞬、思考が止まる。しかし、私の脳は再び正常に働き出した。

「描きたい絵があるんです。」

「へえ、どんなのだい?」

「昔見た景色です。私がノルウェーのクオーターというのは知ってますよね?祖父がノルウェー人なんですけど、祖父の家に遊びに行った時に連れて行ってもらった場所があるんです。その時の景色が頭から離れなくて……。」

 マイロニーはふんふんと話を聞いている。目をキラキラとさせて、まだ見ぬ景色を想像しているのだろうか。

「その場所は谷だったんです。足元には真っ暗な闇が沈んでいて、落ちたらどうしようとか、そんな事しか最初は考えてませんでした。でも朝日が全てを照らし出した時、怖さが消し飛んだんです。太陽、谷底の海、霧で濡れた木の葉、全部キラキラしていて……目に入りきりませんでした。それを、何か目に映る形に残したいと思ったんです。」

 ふう、とため息をつく。マイロニーは黙りこくっている。あれっと思いマイロニーの方を見てみるも、マイロニーはアゴに手を当ててなにか考え込んでいた。しんと静まってしまい、なんだか気まずい。

 何か変なことを言っただろうか、と思いながら、黙って再び筆を手に取る。絵の具を染み込ませ、それをキャンバスに乗せようとした時、

「よし、そうしよう!ね、そうしよう!!」

と叫びだした。


 急に同意を求められた私は、思わず筆を落としてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ