7、似合わない
空はいよいよ赤くなり、部屋全体を朱色に染めていた。頭がぼうっとして、軽く頭痛もする。泣いたせいで目の周りが熱く、頬の涙が流れた部分がかゆい。
マイロニーはというと、ニコニコと微笑みながら私の水彩画を見ていた。器用に椅子のバランスをとり、キャンバスを掲げている。
「……面白いですか、その絵」
「うん!とっても」
てっきりまた「つまらない」と言われると思っていたので、子供のような笑顔でそう言われ拍子抜けした。マイロニーの目がキラキラと輝いている。
「これはユニコーン?」
「そ…そうですけど」
「躍動的で見ていて楽しいよ!フワフワしたタッチなのに力強さが溢れていて…おっと、絵の感想を言うと分析っぽくなるのがどうにも良くないなあ….」
コロコロと表情が変わるマイロニーは、授業中とは別人みたいだ。あの微笑みがポーカーフェイスなんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
それにしても、世界的画家のこの人が、気晴らしついでに描いてた水彩画なんか見て、何が面白いんだろう…。
「ユニコーンに乗ってるのは、これは誰だい?」
「えっ………別に、誰でも」
「誰でもないってことはないだろう。君がこの人を描いた時、何かを想いながら描いたはずだ。彼はそれを型どっているんだよ。」
何だ、それ。そんなの、後付けでも何にでもできるじゃないか。
バカバカしい。なのに、何故か吹き出してしまった。だって、あまりにも真面目な顔で言うから。
「……?」
マイロニーは、急に私が笑い始めたもんだから目が真ん丸になっている。
「なーんか似合わな!いつものふやけた顔の方がアンタらしいわ。………そうだな、その人は私の救世主………さしずめ、白馬の王子様ってことかな。」
ああ、バカバカしい。言っててしょうもなくなってきた。でも不思議と恥ずかしいとは感じない。むしろスッキリして、清々しい気分だ。
「白馬の、王子様…!いいな、彼。」
マイロニーは満足げに、ゆっくりと言葉を繰り返し、水彩画に目を移した。そして、
「僕も白馬の王子様になりたいな。」
と、言った。
その時のマイロニーの顔は赤い光の逆光で見えなかったが、声が異様にかぼそかった。