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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
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5、侵入者

 放課後、みんなが学校から出ていく。窓からそれを眺め、しばらくしてから描きかけの油絵を持って教授の元へ鍵を借りに行く。これは私の日課だ。

「はいはい、鍵はいつもの所ね。毎日熱心だねえ。」

 そう言って教授はいつも通りの言葉で適当に労う。鍵入れからタグが真っ白の鍵を取り出してポケットに入れる。そしてエレベーターを使って最上階まで行き、廊下の一番奥の部屋を鍵を使って開ける。

 この大学はやたらと部屋が多いため、空き部屋がいくつかある。最上階の部屋はほとんどが空き部屋だ。放課後、誰も来ない最上階の部屋は、1人で絵を描くのに最適な部屋だと思ったのだ。

 手に持っていた油絵を適当なところにセットすると、シャツのポケットから小さな鍵を取り出し、左から2番目のロッカーを開ける。中にある無地のトートバッグを取り出し、中の物を床にぶちまける。

 バラバラの絵の具、折りたたみ式のパレット、細い筆が何本か、ティッシュ、からの瓶、鉛筆、練り消しゴム……。そして、トートバッグの下に置いてある新聞紙の中には、描きかけの水彩画。


 ここは、私の秘密基地だ。毎日放課後になると誰も来ない最上階のこの部屋に来て、水彩画を描いている。油絵はただのダミーで、教授にこの部屋を使うのを許可してもらうためだけの口実だ。

 窓から入り込む赤みのさした光が、二つのキャンバスを照らす。瓶に水をくみ、筆に絵の具を吸い込ませると、画用紙にそっと色を置いていく。

 外でカラスが鳴く声は聞こえず、ひたすら水が跳ねる音だけが響く。いい空間だ。静かで、侵入者は誰もいない。今まではそうだったのに。


「みーちゃった!」


 ……本当に、この男は予想外の行動をしてくれる。

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