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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
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3、嫌な予感

 フィレール・マイロニーは、フランスで活動する世界的に有名な画家だ。彼が描く絵を、私も少なからず見たことはある。

 なんというか、一言で言うと『変』。これに限る。

 別の言葉で言うとつまり『独特』で、彼の絵に惹かれる専門家やその道を進む者は多い。中里 祐也も、彼の虜になった内のひとりと聞く。さっきから、周りの女子をお構い無しに色素の薄い男に話しかけている。

「まさかこんな所でお会い出来るなんて思ってもいませんでした!もう、もう光栄すぎて……。」

「あはは、参ったなあ。もっと讃えていいんだよ。」

 ふわふわと笑うこの男が、フィレール・マイロニー……?にわかに、というか全然信じられない。もっと芸術家っぽい、巻きひげでも蓄えた人物だと思っていた。

 そんな超すごい人物との出会いが、あんなのなんて酷すぎる。

「というか、なぜこんな所に先生が……?」

 そうだ、この人が本物のマイロニーであるのなら、なぜそんな人が日本の大学になんているのだろう。

「あれ〜?もしかして、当日まで生徒には秘密って感じだったのかなぁ。」

 ぽりぽりと頬をかくと、にっこりと笑った。

「まあいっか。明日からこの大学で絵画を教えることになったフィレール・マイロニーだよ!気軽に大先生って呼んでくれていいよ!」

 ……嫌な予感しかしなかった。


 翌日の朝礼で、例の男が特別講師だと紹介された。にっこりふわふわと物事を喋るあの口から辛辣な言葉が出てきたなんて考えたくもない。

 初めての授業が始まる前には、もうすでにマイロニーは女の子に囲まれていた。外国人にしては線の細い顔だちや、猫っ毛の髪の毛はまるでマンガの世界の王子様のようだ。

 本人もまんざらではない様子で女の子たちの相手をしている。

(もしかして学園祭の時の声は、近くにいた別の人の声なのかもしれない。)

 こんな無邪気が人化したような人が、あんな言葉を吐くだろうか。だって、あの顔を見てほしい。長いまつげを持て余してまばたきする純粋無垢な瞳、あれが人の絵を大声で批判するような人の瞳だろうか。いや、違う!

 教室につくと、キャンバスと絵の具、パレットを傍らに用意する。準備ができた人からどんどん作品を描きあげていく。マイロニーはその様子をニコニコしながらじっと見つめている。

 落ち着かない。マイロニーがいると考えると、下手な絵を描きたくないという気持ちと早く描きあげて見てもらいたいという気持ちが交わる。

 一番に見せに行ったのは、中里だった。すこし興奮を抑えられないような気持ちで、マイロニーの前に立つ。前から描き続けていた絵をついに完成させたらしい。全員手を止め、作品の隙間から中里とマイロニーの様子を盗み見る。どんな反応を示すのだろうか。褒めるのか?けなすのか?どんなアドヴァイスをするのか?

「…………」

 渡された絵を見ながらマイロニーは黙りこくる。中里の喉が鳴る。どんな反応でも中里は受け入れるといった風に、じっとマイロニーを見やっている。

「…………」

 しばらく絵で顔を隠していたマイロニーが、大きく息を吸い込んだ。そしてキャンバスから目を離すと、中里を見てにっこり笑った。おおっ……と教室内が静かにどよめく。誰もがいい傾向だと思った。私も、多分中里も。

 そして、マイロニーが口を開いた。


「下手くそな絵!」

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