34、視線
学校に戻る。相変わらず居心地の悪い学校。でも、なんだか足は軽かった。
今日も放課後になったらあの秘密基地に行こうと思う。奴は来るだろうか。いや、アレでも一応教師しているんだ。そんなに暇ではないのだろう。
ノルウェーで買ってもらったあの二冊の絵本は、鞄の中に入っている。今日水彩画を描く時に参考にしようと持ってきたのだ。思わず顔がにやける。こんなに何かを楽しみにしたのは、久しぶりだ。
ふ、と。背中で視線を感じる。振り返るが、人が多いので誰が私を見ていたかなんてわからない。
気のせいか。重たい鞄を抱え直して、再び学校への道を進む。
マイロニーの授業はさんざんだ。「下手くそ」のオンパレード。この感じ、久しぶり……。こんな久しぶりは正直いらない。
授業中も、視線を感じた。授業中だしきょろきょろするわけにもいかない。それに、見たところで周りはキャンバスだらけだし、きっとわからない。
背中に突き刺さる視線が気になって、油絵どころではなかった。
(早く秘密基地に行きたい。)
居心地が悪い。前よりも悪くなっている気がする。ツライとかそういう訳では無いが、なんだろう、胸糞が悪い。
視線は、マイロニーと話をしている時が一番強かった。なんだ、誰なんだ。誰かが私を見ている。これは羨望とかいい意味のものでは無いことは、すぐに分かる。これは…誰かが私を睨んでいる。
―――嫌な予感がする。
放課後、駆け足で秘密基地に行く。階段を上がり、息が切れながらも廊下を走る。
部屋のドアが、開いている。開いたドアから、部屋の中の様子がよく見える。そう、床にぶち撒かれた絵の具や、折られ散乱している筆。上から黒い油絵具で塗りつぶされ、破られ、ぐしゃぐしゃにされた水彩画。それらがよく見える。
そして、部屋の中心にいる人物も。
床に転がったチューブを足で蹴り飛ばしたその人物は、この学校の期待の星………
中里祐也だった。




