2、下手くそ
この学祭は、その業界に関係するお偉いさんが生徒の作品を見に来る。学校側から優秀だと思う生徒の作品を出展させ、学校の質を見せつけるのだ。
私は正直に言って、油絵は得意ではない。絵の具がのびないし、透明な色感を出すのが難しい。そして、描き終わった時キャンバスが凸凹するのが嫌いだ。しかし、この学校の主流が油絵なのだから、仕方がない。
学園祭は滞りなく終わる、はずだった。思った通りお偉いさんがたくさん来て、彫刻や絵などを評価していった。展示されている作品を買っていく人もいた。もう客もだいぶ減り、そろそろ片付けに入らなくてはという時に、その男はいた。
絵画部門のところで、絵をじっと見つめている。その人が見ているのは、私の絵だ。少しドキドキしながら、その人の後ろ姿を見つめる。随分と色素の薄い茶色の髪だ。体格の良さからしても、外国人なのかもしれない。
ふいに、その人が口を開いた。
「下手くそな絵!」
一瞬、耳を疑った。
今、下手くそ……って言った?
私はナルシストではないし、自分の絵が特別上手いとは思っていないが、この有名な大学に通っているし学祭にも出展出来ていることから他人から見てそれなりに上手いのだろうと思っていた。でも今………下手くそって。
固まっていると、その人がくるりと振り返った。
「あれ、ごめんね〜片付ける?もう行くから。」
ほんわかと微笑むその顔は無邪気そのもので、なんだかとても幼い。髪の毛と同じく色素の薄い目。白い肌。高い鼻……。
私…ショックを受けてる。
かすれた口笛を吹かしながら歩いていくその後ろ姿に、かすかに悔しさが生まれた気がした。
「あ……………あの」
「あれ!?も、もしかして、フィレール………先生!?」
声を遮ったのは、ファンの女子達に囲まれた中里 祐也だった。中里は目をキラキラと輝かせながら両手で心臓のあたりを押さえる。
フィレール……どこかで聞いたことがあるんだけど…。
「ん?そうだけど、君は誰?」
「お、お、俺、中里 祐也って言います!あの、俺ずっとずっと………」
フィレール……フィレール…………そういえば、こんな名前の画家がいた気がする。
「あなたのファンでした!!」
フランスの、確か、有名な………。