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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
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1、芸術大学

 あの風景が頭から離れなくて、私は絵を描き始めた。勉強もおろそかにならない程度に頑張り、念願の芸術大学に合格することができた。ひたすら絵を描くことが出来る生活に、私は充実するはずだった。

「それじゃあ、今年の学祭展示に出展させる者の名前を呼ぶから、呼ばれた人はこの後準備室に来るように。」

 教授の呼びかけに、そこにいた全員が各々手にしていた物を置いて振り返る。

 私も、右手に持っていた小筆をパレットのすみに置き、体の正面を教授に向ける。

「まず、彫刻部門。4年、安藤 莉子。」

 棚に石膏が並んでいる方から、小さく返事をする声が聞こえた。

「4年、菅原 静香。」

 教授が、淡々と紙に書かれた名前を読み上げる。その度に、あちこちからため息や祝福の声が上がる。それを尻目に、自分が選ばれるのは当たり前だとでも言うような声で適当に返事をする人もいた。

「次に、建築部門。4年、白川 雅人。4年、平田 隆馬……」


 芸術というのは勝ち負けが無いようで、実はお互いの心の内では戦いの炎が燃え上がっている…というのを、テレビかなにかで聞いたことがある。実際そうだし、行動的でない分悪質な嫌がらせに繋がることが多い。そのストレスに耐えられず、辞めていった人を何人も見た。その瞬間に思ったのは、「意志が弱いんだな」ということだった。

 もう少し頑張ればいいのにとか思う人はいても、ほんの少しだけだろう。この世界は、そういう所なのだ。


「…じゃ、最後に絵画部門。4年、笹木 瑞穂。」

「はい!」

 パチパチパチ……まばらな拍手が起こる。本人も、周りの人も当然だなといったふうだ。

「4年、中里 祐也。」

「はい。」

 パチパチパチ……

 背後の方から、きゃあっと小さな歓声が聴こえた。中里 祐也の、ファンクラブの子たちだ。

 中里 祐也は、高いプライドの持ち主だ。家が豊かで、顔が良くて、頭が良い。そして何より、独特な手法の持ち主だ。それで鼻を高くしている訳ではなく、誰とでも分け隔てなく話しかけるものだから、知らないうちにファンクラブが出来たらしい。私はそういう行動こそが自分のプライドを守る行動に思えてならないが。


「…3年、クリスティン・夢子。」

「……はい。」

 名前を呼ばれて、返事をする。

 ピタリ、と周りの雑音が止む。遅れて、皆ヒソヒソと耳打ちをし始めた。

「あの子でしょ?2年の頃から学祭に出展してる子って。」

「クオーターなんだって。質が違うんでしょ。」

 そういった声が聴こえた。

 教授は紙を四つに丁寧に折ると、

「今呼ばれた者はさっき言ったように準備室に来ること。以上。」

そう言って教室を出ていった。

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