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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
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12、チョコミント&ブルーベリー

 15時間以上かけ、目的地まで一箇所を経由してやっとオスロについた。マイロニーが着陸しても起きようとしないので、少し揺らしてみた。まったく起きる気配がないので、顔をぺちぺちと叩いてみた。それでも起きる様子がなく、残りの乗客が自分たちだけになったので、私は仕方なく彼の太ももをつねった。

 そう、仕方なくだ。決して幸せそうによだれを垂らしながら寝ている彼にイラついて、起きた彼が思わず涙目になるほど爪でつねった訳では無い。

 空港から出た私たちは、バスを乗り回しながらオスロを回った。街にはやはり北欧特有のプラチナブロンドヘアの人が多い。

「で……どこに行くんですか?」

 隣で目を輝かせながらキョロキョロと周りを見渡すマイロニーに尋ねる。彼は大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出すと、急に走り出した。

「ちょっ、どこ行くんですか!?」

「あそこにアイスクリーム屋さんがあるよ!早く行こ!」

 長い脚で一目散にワゴン車へと行ってしまうので、慌ててマイロニーのあとを追いかける。全力で走っても、どんどん距離が離れてしまう。

「ほら見てよ!アーモンド味のアイスだって、美味しそう!」

「ハァ、ハァ」

「夢子は何味食べる?」

「ハァ…ハァ………み、水………」

「水味のアイスが好きなのかい?変わってるなぁ!」

 いきなりコレだ、もうすでに疲れた。結局マイロニーはアーモンド&ラズベリーと、チョコミント&ブルーベリーを、流暢なノルウェー語で買った。そして後者の方を私に渡して満足そうにニコニコした。

 私は非常にイラッとしたが、喉が痛くて仕方なかったので黙ってアイスを口の中で溶かした。

 その後もマイロニーは自由に歩き回り、時々道に寝転ぶネコを愛でながら私を連れ回した。なんとなく、というか、ものすごくにそんな気がするのだが、この人はきっと何も計画なんてしていないんだと思う。そう思ってからは不安というよりも呆れた。でも、この人だから仕方ないかと思ってしまった。


「夢子、ここに入ってみようよ。」

 マイロニーが、一軒のお店の前で立ち止まる。レンガ造りの小さなお店で、外からでは何のお店かはわからない。

 お店の周りにはひな壇のように花が生けられており、赤っぽい小さな花が、枝からたくさんぽつぽつと咲いていた。

 お店から、かすかにインクの香りがした気がした。

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