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序章
昔、祖父の故郷であるノルウェーに行ったことがある。幼かったのであまり記憶に残っていないが、一つだけ、はっきりと覚えていることがある。
ノルウェーに滞在する最終日、祖父は朝日が登る前に私をたたき起こし、外に連れ出した。霧がかかる道を車でとばし、着いた先は、足元に真っ暗な闇が佇む崖の上だった。
私は眠いのと怖いので祖父にしがみついていたと思う。祖父が私の背中をポンと優しく叩いたとき、地平線の向こうから光がさした。真っ白な朝日が顔を出し闇を照らすと、現れたのは大きく弧を描いた谷の中にきらめく大西洋だった。
その眩しさに目がくらみ、私は目をつぶった。その後はよく覚えていない。暖かい光に安心したせいか、私は眠ってしまったのだ。