18話 ~聖なる泉の祝福~
「凜、そろそろパーティーが始まるけど、大丈夫かい?」
虎次郎お父様の言葉が、ずっしりと重く感じる。
とうとう、始まってしまうのか……。
「ふふっ、凜緊張してるのね?大丈夫よ、私の娘ですもの。」
雪白お母様の笑顔が、締め上げていくみたいで。
緊張、なのか。恐怖なのか、分からないけど。冷や汗が背筋をわたっていく。
「そうだ凜。あとで私の友人を紹介するよ。東堂院家の跡継ぎでね、きっと凜も気が合うんじゃないかな?」
琥珀お兄様の提案が、とどめを刺した。
お兄様のご友人で東堂院家の跡継ぎだなんて。もう確実に彼じゃないですか、やっば。
……あまり、必要以上に関わるのはなぁ……。
「さぁ、行こう?」
陽向の差し出す右手に、覚悟を決めて左手をを重ねた。
「えぇ、行きましょう!」
逝かなきゃ、ね。
死亡フラグの乱立する、あのパーティーに。
*****
パーティー会場は絢爛豪華に飾られていて、四方神の神獣の彫り物などが目を引いた。
滅茶苦茶高そう。あれ、一個でも壊したらヤバいんだろうなー。
「やぁ、ごきげんよう。西園寺家の皆さん。」
「桐生さん、ごきげんよう。今日は儀式の方をよろしくお願いいたします。」
「あぁ、勿論だ。凜も陽向も、現之世入りの御祓の準備は出来ているかな?」
そっか、現之世入りだから桐生さんがわざわざやるのか。ほら、十歳の時に桐生さんが"神獣・黄龍"だって事を知らされる、って公式もいってたし。
「御祓……?どのようなことをすれば……?」
おぉナイス、陽向!
私もよくここら辺のことはしらないんだよねー。あんまり公式でも言及されてなかったし。
「そうだねぇ……。魂を身体に定着させる儀式だ。内容は口外にしちゃいけないことになっているから、お楽しみだよ。」
「はい、ではもう始めるんですか?」
んー、どうやって儀式するんだろ?神譲渡の時は、あまりすることがなくっていつの間にか終わってる、って感じだったけど。
「うん、じゃあ行こうか。おいで、凜、陽向。」
おいで、と言った師匠は、恐ろしい程に澄みきった魔力を纏って、移動魔法を展開させた。
移動したさきは、どうやら城の最深部っぽい。
なんか雰囲気があるわー。こう、不可侵の領域?みたいな格好良いやつ。
なんて事を考えていると、師匠がレンガ造りの壁に手を翳して、何かを唱えた。
うおぉ、壁が動いてる!すげぇ!隠し部屋?!
これが神獣の力……。こんなところで御祓をするって……中二心がかすぐられるな。
ゆっくりと開いた、ほの暗いそこは、冷気を漂わせていて、小さい洞窟のように岩肌が覗いていた。マイナスイオンが出ていそうな雰囲気っていうのかな。
水の流れている音がする……?
「ここが御祓を行う場所だよ。」
桐生さんが革靴の音を響かせて奥へと進んでいくと、微かに発光している水が岩肌の隙間から流れ出て、小さな瀧を形成していた。
なんつーか、小規模のかけ流しの露天風呂みたいな感じ?
けど光源が発光する水で、その水紋が岩肌を輝かせているのは、神秘的すぎる。
もしこれが露天風呂だったら、おじいちゃんおばあちゃんが卒倒しちゃうだろうけど。
「わぁ……ここが?」
「綺麗な空間………。」
私も陽向も言葉を失った。綺麗すぎて魂が吸い込まれそうになる。
「儀式はここに白い和服でお参りしてもらうだけだよ。」
「そうなんですか?お参りの方法とは?」
「この泉のなかに浸かるだけだよ。簡単だろう?じゃあまず陽向からやろうか。」
んでもって、私が一旦退出して十分位で陽向が、出てきた。
心なしか、ちょっと大人っぽくなったように見える。儀式って凄いな。
「さぁ、次は凜だ。おいで。」
招かれて、陽向とバトンタッチをする。
キラキラと光る水面が美しい。……ここが桐生司神獣・黄竜の守護地。
そうして心を奪われたように、ほぅっと、息を吐くと、師匠が徐に口を開き、静かにいい放った。
「桐生司はね、神獣なんだ。そしてここ泉は私の守護地さ。」
綺麗だなぁ。硝子色の髪が湖面を反射することで透明度が上がっていて輝かしい。
でも、この感じデジャヴを感じるな……。あーイケメンの観すぎか……。
「御祓をするときは、その泉に入って祈りを捧げるだけだよ。御祓をするのは、一人で、という決まりがあるから、一旦私は外に出るよ。終わったら壁を叩いてくれればいい。」
「えっ、付き添いは無いのですか?」
てっきり、最初から最後まで手取り足取りかと……。
「そうさ。それが現之世入り、だからね。じゃあ、待ってるよ。」
そういって、師匠が扉の向こうへいき、私は一人、泉の前で佇む。……冷たいのかな?なんていう思いを抱きつつ。
ゆっくりと、足先を水面に浸けた。
え!冷たくない!?なんで?むしろ、仄かな暖かさを感じるんだけど……。
これが聖なる泉!なんと末恐ろしいことか!
迎え入れるような暖かさに、自ずと足が進んだ。そして、気がつくと全身を浸からせていた。
安らぎに身を任せそうになった、その瞬間。
目の前に、一人の女性が現れた。