17話 ~十歳の誕生日がやってくる!~
太陽の光が窓ガラスを透過し、大気に散る魔法の欠片がキラキラと輝く朝。
窓ガラス越しに桜の花が舞っていた。花弁はひらりと踊っているようで短命な美しい儚さを感じさせた。
やけに部屋の外が慌ただしく聞こえて、既視感を覚えた。
そういえば、私が目覚めた時もこんなふうに慌ただしかったっけ。
「お嬢様~?おはようございます。今日も良き日ですよ。」
袴の袖を揺らしながら、室内に入ってくる小虎さん。
そうそう、こんな感じだったよなー。なんか懐かしい気がするわー。
「おはよう、小虎さん。今日はやけに慌ただしいけど何かあったけ?」
「あら!お嬢様がお忘れなんですか!?明日は凜お嬢様のご生誕十周年の日、でしょう?ですから最近の淑女のためのマナー講座の予定が増えているんですよ。」
ああああ!思いっきり忘れてた!
最近のレッスンの量がやけに増えたなぁとは思っていたけど、そういうことかあー。
……!何故忘れていたし私よ。大事なことなのにー!
あぁーもうっ、自分の間抜けさが憎いぜ。
十歳っていったら「現之世入り」じゃないか。貴族のご子息息女にとっては社交界デビューの年である。……ヤバいなんか緊張する。
「っそ、そうね。うっかりしてたわぁー。あっ朝御飯を食べに行きましょうか。」
「準備は整っております。が、奥様からの呼び出しがかかっております。お着替えがお済み次第行ってくださいませ。」
「そう、分かったわ。」
んー「現之世入り」の事かな。早く終わると良いんだけど。お腹減っちゃったし。
「失礼します。凜です。おはようございます、お母様。」
「おはよう、凜。今日は良い天気ね。」
「そうですね、美しい空です。桜が舞う心地よい朝でした。」
「それは、良かった。ねぇ凜、早速だけど本題にはいるわね。」
微笑みをたたえていたお母様の表情がサッと変わり、一瞬で真面目な表情になった。
思わず、溜飲を下げた。緊張する雰囲気だなぁ。
「貴女の社交界デビューの事なんだけど、東堂院家・西園寺家・北御門家・南鳳家の四方神家が主催のパーティーでデビューすることに決まったわ。」
お母様の口から紡がれる言葉を正式に理解するのに、数秒の間を必要とした。
……ウソ、でしょ?社交界デビューってだけでも十分な重荷なんですよ?それなのに四大陰陽師家主催のパーティー?それってつまり………。
他の陰陽師側の攻略キャラが一堂に会するって事ですか?
ショックを受けて呆然としている私に、お母様は言葉を重ねる。
「一週間後に開催予定だからね。ドレスや装飾品は、凜が決めて良いわ。現之世入りの儀式も同日に行う予定だから、舞を練習しておいてね。」
「はっはい!了解しました。」
東堂院瀧清、北御門玄司、南鳳凰介……この三人をどうやって同時にトラウマ回避しようか?
いや、一気にする必要もないのかな?でも一日でも苦しむ時間を無くしたいし……。けど、全員と関わりすぎて学園にはいってから、主人公に恨まれるのは御免だしな。
朝御飯でも食べながら考えよう。
「どうしたんだい、凜?浮かない顔をして。」
「お兄様……。実は、一週間後のパーティーが不安で……。」
不安の理由は多分お兄様には分からないかもしれないけど、心配してくれるのは嬉しいや。
「あぁ、そういえば。僕も凜ちゃんと一緒に、現之世入りの儀式で舞うからよろしくね。」
「そうなの?じゃあ舞を合わせなきゃね。舞の種類はどうしようか?」
「凜と陽向なら同じくらいの身長だからね、舞を一緒に行うのにはピッタリじゃないか。」
そうなんだよね。十歳ぐらいだったら女の子の方が身長高いと思うんだけど。やっぱ未来のイケメン効果?
「それがね、普通の舞では目の肥えた奥様方を飽きさせてしまうんじゃないかな、って思うの。……どうしよう?」
「そうだな、二人用の舞じゃなくて二人それぞれが一人用の舞を同時に演じる、っていうのも素敵だと思うよ。それは私も見たこと無いからね。ね、凜どうだい?」
あぁ、それも良いかも。それだったら衣装も色違いにして統一感を出しつつ舞いたいなー。
「衣装の色は白と黒かな?二人で舞うならこの二色が良いと思うんだけど。」
「うーん凜ちゃんが白?黒?どっちが良い?」
「凜は全体的に白いし、衣装は黒の方が映えるんじゃないかな?陽向には紅色が白に合うし、吉兆を示すカラーリングだからね。儀式で神に舞うんだから丁度良いんじゃないか?」
うん、お兄様の言う通りかな。陽向の紅色の髪に白い衣装、っていうのは中々乙なものがあるわー。
「んーじゃあ、僕が白で凜ちゃんが黒?なんだか黒って影みたいなイメージがあったけど、凜ちゃんが着るならスタイリッシュなイメージになるね。」
影、かぁ。忍者的なイメージ?
忍者風の服ってお気に入りなんだよね。隠密行動できそうだし。
私小さい頃、木の影で主君を救う忍者とか好きだったんだよね。懐かしー。
……!そうだよ!良いこと閃いたかも!攻略キャラのトラウマ回避をしつつも攻略キャラと関わらない方法!
妖術と魔法で最大限の工夫を凝らして、私が行ったって事を知られなきゃ良いだけじゃない。
あくまで間接的に。直接的なんて言語道断!
うん、オールオッケー!じゃないか。
「どうしたの凜ちゃん。ボーッとして、大丈夫?」
「ううん、陽向君やお兄様がついてくれてるって考えたら、楽しみになってきたかも。ねっ、早く舞の練習をしましょう?」
よーしっ、解決法方が決まったらなんだかやる気が出てきた!
うん、今世ではファンタジーな世界で、良家のお嬢様に生まれたんだもの。どうせならトラウマ回避に翻弄するだけじゃなくて、お嬢様として学園に妖術に魔法に……。色々なことを経験しなきゃね、(前世だけど)日本人の"モッタイナイ"の精神が騒ぐぜ!




