16話 ~西園寺琥珀のトラウマ回避・盗賊視点~
攻略キャラクター西園寺琥珀のトラウマ回避の一連を、盗賊視点で進めたものです。
「うぁあ、あぐあぁ!っ!がああっ!」
仲間たちの、痛々しい声が鈍く反響して聞こえた。
あぁ、今回の半獣化は、本当にヤバいかもしんねぇな。
そんなことを、全ての感覚が鈍く衰えていく中で思った。
視覚や聴覚が殆ど機能していないのに、痛覚だけが鮮明に感じる。
ちっ、どうせこの曰く付きの体なんだ。あの西園寺家のお坊っちゃん方を拐って、身代金でも踏んだくってやろうと思ってたのになぁ。
下らない計画も、もう、今となっては叶えられないのだと思えば、笑えてきた。
この体に生まれた、運命か。ははっ。
暫くしたら、この痛みから解放されて楽になれるのだと思うと、この痛みも悪くないじゃねェか。
そう思いを巡らせた、刹那。
暖かで、何処か懐かしい母親のような、妖力を感じた。
初めは、お迎えが来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。
ギシギシと骨を縛るような拘束感も無くなり、代わりにふんわりとした純粋な力が体内に伝わってきた。
これは回復しているのだと、認識し始めた頃にはもう、体は柔らかな布に包まれているような快楽に包まれていた。
おいおい、誰だってンだ。こんな妖力の持ち主はよォ。
シュリヒトハイリゲにも居ねぇぞ。いや、そもそも、こんなに綺麗な妖力があんのかよ。
少し荒い呼吸が近くに聞こえた。
この呼吸の主が、俺らを助けたんだろうか?
確認しようにも、重い瞼がそれを許さなかった。
荒い呼吸が、休まりつつあったとき、扉の向こう側から足音が聞こえてきた。
ガチャという開閉音と共に、ブーツで床を弾く軽快な音がした。
「凜!無事かい?」
「盗賊団員さんたち、無駄な抵抗をするならー……って、あれ?」
二人分の、若い男の声。
治療してくれたやつの、知り合いか?
「お兄様!陽向君!無事でしたの!?」
「それはこっちの台詞だよ。取り敢えず怪我はないようだけれど、この状況は……何なんだい?」
「えっと、彼ら実は妖力の暴走のようなものを起こしてて、何かの病気みたいな感じにもなっていたのです。」
俺らを治療してくれたってのは、女だったてのかい?
しかも、この声となると、なかなか幼いんじゃあねェか?
「だから、ち、りょう、して……」
ドサッ。
「大丈夫?無理しないで凛ちゃん。」
五人も治療したんじゃあ無理はねぇ、相当な疲労がたまってるはずだぜ。
「あ、ありがとう。少しだけ疲れちゃって。」
暫く体を横にしていると、体に力が戻ってくるのを感じていた。
彼らの話を聞いている間に随分調子もよくなったようだ。
ゆっくりと体を起き上がらせると、団員の一人が飛び起きるのが見えた。
「……っ!?ここはっ?」
体を急に起き上がらせたアイツは、驚いていた。
「こりゃあ、兄ちゃんちがやってくれたのかい?」
「いいえ、凜が……あぁ、妹が処置してくれましてね。」
その言葉を聞いて、先程までは見れなかった少女の姿を確認したとき、衝撃を受けた。
そして、そのあまりの衝撃に、俺は言葉を発していた。
「あぁ……!すげぇな、……怖く、無かったのかい?」
体を黒く蝕む半獣化は、大の大人が見ても恐ろしいんだぞ。
こんな小さい姿の少女が……、怖くねェのかよ。
「ええ、苦しんでいる姿というのは、見ている方も心苦しくなりますもの。」
そういって胸を張る少女は、さも当然の事をしたまでだというように、微笑んだ。
「なぁ嬢ちゃんよぉ、俺が物言える立場じゃねェっつーんは重々承知なんだけどなァ、一つ言わせてくれや。……何を考えてるんだ?俺ァ、嬢ちゃんちを襲おうとした盗賊だぜ?」
「そんなこと、承知の上ですわ。それにきっと、貴方たちは望むべくして盗賊になったわけでは無い、のでしょう?」
そう言った少女の目には涙が浮かんでいた。
もしかして、俺らを憐れんでくれているってのか?
「勿論、お嫌でしたら幾つかの選択肢は用意していますよ?ただ、最低条件として私の研究には携わってもらいたいんです。」
「凜ちゃん、研究って何をするつもりなの?」
少年が好奇心を紅緋色の眼に宿らせる。
「半獣化を抑える研究をしたいの。私たち大きくなって学園に行ったら寮生活なんでしょう?だから今のうちに多くの事を経験したいのです。」
「まぁ確かに西園寺家でなら、半獣化した彼らに襲われても抑えられると思うよ。うん、いいんじゃないかな?凜の意見。賛成するよ。」
!!?半獣化を抑える研究?そんなことが出来るのか?
そう言おうとしたが、体に残る少女の妖気を感じると、もしかしたらこの少女であれば可能にしてしまうのでは?という考えが浮かんだ。
「おぉう兄ちゃんもかいな。……確かにその申し出はありがてぇ。だが、嬢ちゃんちが良いって言っても周りの人間が嫌がるんじゃねぇか?」
そうだ、いつだって、俺たちは受け入れられねェんだ。
そうじゃねぇか。何を今更希望を抱こうとする?
失望して悲しむのは、もうごめんだ。
考えていると、後ろに下がっていた侍女が口を開いた。
「別に構いませんよ?妖怪の方でも西園寺家で働いてる方は、数多くいらっしゃいますし。西園寺家当主御夫妻もとても素晴らしい人格をお持ちですし、種族差別など決してしませんし、むしろ理解のある御方です。」
そうですよね?と侍女が後ろに控えていた使用人たちに賛同を求めた。
皆、顔を縦に降り、賛同の意を示した。
おいおい、なんだよ、これじゃあ……。
希望を抱いても、いいっつーことかよ。
「……、御貴族様っつーのはみんな冷酷無比で、嫌なヤツらばっかの血筋だと思ってたんだがな。ありがとう。……こんな俺らだけどよろしく頼む。」
「はいっ!よろしく頼まれますっ。」
少女が——いや、凜お嬢様の笑顔をみたとき、目尻から頬に生温い液体が溢れていった。




