11話 ~油断大敵~
馬車から降りた私は詮索魔法を展開させていた。
お兄様と陽向は二人で話していて(自主的にというよりも、二人で話すようにちょっと仕組んだけど)侍従たちは魔導車の修理しているから暇だったし、ひとつ気になることがあったから、今、詮索魔法を展開してるんだけど。
盗賊団ついて知りたいなら、盗賊団リーダーを詮索した方がいいよね?
意識が無い無抵抗なものの情報を勝手に収集するのもなぁ……。でも、気になるんだよね。少し弱めに展開して調べようかな、気が引けるけど。ごめんなさいね。
「ちょっと失礼しますよー。」
そうして詮索魔法を展開させると、盗賊団リーダーの男の上に、ふきだしの形をした、薄いガラスのような魔法膜が表示された。
あっ、魔法膜っていうのは空中に浮いてるウィンドウみたいなやつ。そこに情報が加えられていく感じ。
(…三十四歳……男性…盗賊団"シュリヒトハイリゲ"所属……盗賊団リーダー……右目の視力を殆ど失っている……)
"シュリヒトハイリゲ"直訳すれば"悪の聖人"……か。なんか曰くありげな気がするなー。
んー、これだけだと判断しづらいな。もう少し強めにして、情報をもうちょい集めようかな。
魔法膜に追加情報が掲載される。
(…数年前は農村に居住していた……右目の視力は数年前に失った………ペシミスト…)
これは黒、かな。まだ推測の範囲は越えていないけど。限りなく黒に近い灰色だな。多分、この人も"トラウマ"や"暗い過去"持ちのキャラクターなんじゃないかな。
ヒトメグではいくつかミッションで「盗賊団の殲滅」っていうのがあったんだけど。そのミッションにも上位版があって、ヒトメグの世界観を大いに反映するミッション「盗賊団の情報収集をし裏を暴け」なんていうのがあったから、盗賊団に暗い過去が存在しても可笑しくないと思うんだ。
モブキャラにさえもトラウマを作っていく製作陣は本当に凄い。むしろ怖い。
そんな風に考えることに没頭していた私は、完全に油断していた。
「っ!……んっ、っ!」
背後に迫る足音に気付け無かった。いつの間にか起き上がっていた盗賊団員が迫っていることに、気付けなかった。
口元に押さえつけられた布に気付いた時には、既に遅く、殆ど抵抗が出来なくなっていた。
口元を押さえられてしまっては、まだ無提唱で展開は特訓中だし魔法を発動することが出来なくなってしまうのに。喋れなくなると、この身体だと殆ど無抵抗と同じぐらいだろう。
しかも、侍従たちが盗賊団たちを車道に外れた位置に移動させたため、侍従たちは此処の位置が死角になっていって見えない。
どうする、私。
無抵抗な少女になりきるか、いや、もうそれしかないだろうか。
退路を絶たれて逃げ場の無い状況、なんて絶望的。
そんな私に追い討ちをかけるように、酸素の配給が追い付かず意識が薄れて行く。朦朧とした意識の中で、使用人たちの叫び声と、視界の隅で陽向とお兄様の倒れゆく姿が見えた。
(ど、う、しよう。これじゃ、シナリオ通りにっ、な、っる!)
冷たい床の感覚で目が覚めた。
視界を覆うような薄暗さから察するに、牢獄みたいで、何かを押さえ込んでおくような部屋っぽい。
(冷たっ。何ここ?……なにこれ、動けないんだけどっ!)
右手を動かそうとしたとき、重量感と拘束感を覚えた。気になって右手を見ると、手枷がついていた。うわー、マジかよ。やけに冷たいと思ったら手枷か。
(仕方無い。壊そうか。)
何のために特訓をしてきたと思っているのか。ただ、助けを求めるだけのお姫様なんて性に合わない、ってね。
右手の枷に妖力を込めようとしたとき、突き刺すような痛みが走った。
「ひっ、痛っ。」
嘘っ。妖術が発動できない!?何で?
……!もしかして、妨害する術式が入ってるってこと?
そういえば、ヒトメグでも相手の術を妨害するイベントがあった。あのイベントもなかなかスリリングだったな。えーと、確か方法が"術者が術式を取り消す"しか無いんだよね。
この状況だと殆どの確率で絶望的だな。術者はきっと盗賊団員だろうし、術式を取り消す意思なんて無いだろうし。
どうすれば良い?どうすれば逃げれる?落ち着いて状況整理しないと。
そもそもこのイベントは、お兄様を誘拐して身代金を要求するっていうのが目的だったはず。
なら、西園寺家の息女である私もその対象に入るよね?なら、陽向とお兄様は?
もしあの二人を人質にした場合、三人に人質が増えて管理が面倒になるから、人質にしなかった可能性。と、あの二人を人質にして、身代金の額を増やす、っていう可能性もあり得るよな。
盗賊団員たちが、お兄様と陽向をとらえる確率は半々ってところかな。
お兄様たちを探したいけど、詮索魔法も妖力同調も出来ない今は、確認する術がない。
大声を出すのはあまり利口な判断とは言えないし、盗賊団員にばれる可能性がある。
……いや、逆にばれた方が良いのか?私が意識を取り戻した事を知らせるのは、今の方が良いかもしれない。
どうせ、ここにいることを知られている以上、おいおい気付かれるんだ。なら少しでも多くの情報収集出来る方が良い。
神経を研ぎ澄ませて、周りの気配を伺う。
肌に感じる温度、冷気。どんな繊細な音も逃さないように。
詮索魔法が出来なくても、師匠との特訓で多少は相手の気配を察することが出来るようになった。
薄暗く、視覚や触角に刺激が少ない今なら、聴力と第六感が敏感になっているし、首尾は上々じゃない?
研ぎ澄まされたクリアな意識のなか、数人の気配を察知することができた。
(お兄様?陽向?……いや、二人じゃない。それよりも多いな、盗賊団員か?)
その気配を探ろうとしたとき、その気配が揺らめくのと、身体中の血液が逆流するような感覚に襲われた。




