第5話 店を駆ける鳩
1月16日の朝。
日が昇ると同時に起きた鳩は、見繕いをして鳩型の島から飛び立った。
「クークー」
地上では歩いている人が多く、それに呼応するように歩いている鳩も多かった。
だが今日は珍しく、鳩を写真や動画で撮影してる人や、餌を大量にあげている人が居た。
その人達のカメラに映らないように、目的の店に行くまでは高いところで飛んで移動した。
◆◆◆
家電販売店トリマデンキの入り口。
この店は会員制になっているが、商品の全てが破格の値段となっている人気店で、日本の家電販売店の中でもトップクラスの売上高を誇っている。
そんな名実も実績も凄い店に、小さなお客さんがスッと入店した。
「こちらで会員証を拝見いたしま……えっ?」
「クルッポー……じゃなくて、お願いします」
「あっ、はい……って、えっ? (会員証の顔写真が鳩だ)……お客様少々お待ちください……」
入り口に居た店員は、大慌てで反対方向にあるバックヤードに向けてダッシュした。
鳩は、周りの客や店員から、戸惑いを隠せないような目で見られて、ヒソヒソと話している声が沢山聞こえていた。
それでも、知らんぷりを続けた。
昨日のダンジョン受付で見られたような目は、あまり好きじゃないのだ。
「おい、あの鳩って……」
「白い鳩に羽根……」
「間違いないよ!」
「確か話題になってた鳩だよね?」
「鳩ってあんなに毛並みがきれいなの?」
「写真撮ってSNSにあげよ」
「うちもやる」
「あれ? なんか鳩が画面が映らないよ?」
「早く映ってくれよ……」
今回、対策として鳩がしたのは、スキルの羽根操作を使って、真正面以外は光が反射して映せなくさせる事だった。
朝早くに見繕いをした時、専用の羽根を光が反射するまで磨いたのだ。
〜5分後〜
「か……確認致しました……。ハトるん様ですね。ど、どど……どうぞ店内へお進みください」
「クックー」
鳩は、店内ペット禁止の店には行かない。
自分はペットではないが、動物である自分が入ると迷惑をかけてしまうからだ。
でもトリマデンキは、家電販売店の中では珍しく全店を通して店内ペットOKだから、鳩も安心してお買い物ができるのだ。
◆◆◆
鳩がゆっくり飛びながら商品を見ていると、品数の多さと多彩な商品から、何を買えば良いか分からず迷っていた。
「クー」
持っていたスマホの電源を付け、何も知らない家電を知る為に、自分がいつも見ているダンジョン配信者が使っている機材を調べた。
調べた機材を探してかごに中に入れ、どんどん羽根で運んで行く。
1点……また1点とかごの中に入れていき、鳩が家電販売店で買い物というあり得ない状況とは別に順調に行った。
「クックー……お会計お願いします」
「あっ、はい……って、鳩!?」
レジに居た店員は戸惑っていた。
そんなレジ店員を遠くから見ていた、入り口前で鳩の対応をしてくれた店員は、ダッシュしてレジに行き、鳩の説明をした。
レジ店員はすんなり理解して、商品の会計を人間と同じように進行していった。
「パソコンが1点……オーディオインターフェースが1点……キャプチャーボードが1点……照明が1点……Wi-Fiルーターが1点……Webカメラが1点……マイクが1点……計7点で287200円です」
「現金でお願いします!」
鳩はスキルの羽根を器用に操作して、ぴったりお金を払った。
計7点。
1人の人間が運ぶのにも苦労する家電の数。
人ではない小さな鳩が運ぶにはあまりに重く、多い機材に、せっかく買ったのに盗まれるかもしれない……落として壊しちゃうかもしれない……とレジ店員は危惧した。
「あの……この家電を後日まとめてご自宅へ輸送することもできますが……どうなさいますか?」
「あっ……大丈夫です」
断った鳩は、重い機材を羽根で軽々と持ち、店の外へ飛んで行った。
レジ店員と入り口に居る店員は、鳩が家電を運んでいるのを静かに見守った。
この日、トリマデンキが世界で初めて、人以外の生物が買い物をした店となったのだ。
「じゃあ、あとは……食べ物と日用品を……」
この後は、丸1日かけて色々買った。
色んな店を回り、毎度の如く一悶着あったが、必ずペットOKな店を選んでいたので、鳩が追い出される事は無かった。
人語を話した事で意思疎通ができ、対応してくれた店員達は先日の配信を見ていた……それらが光を成したのだ。
「クー」
『ピロンッ』
あっという間に日が暮れ、遅い時間になった。
鳩は今日買った物を鳩型の島に運んでいたが、突然持っているスマホに1つの通知音が届いた。
「クゥ〜?」
それは、コラボ依頼。
人間と人外で行う史上初のコラボ配信。
人ではない鳩だからこそ生まれる物珍しさと、非現実感が短期間でコラボ相手を焚き付けたのだ。




