第3話 鳩流のダンジョン攻略
「3……2……1……クルッポー」
鳩がボス部屋に入ると、4体のモンスターが部屋の中央で堂々と座っていた。
戦災のキジ。
知僧のサル。
追悼のイヌ。
鬼狩りのモモタロウ。
この4体は総じてモモタロウスと呼ばれ、ダンジョンのモンスターに定められた『スレットハザード』という、人に対してどれほど脅威があるかを表す指標のレベル6に当たる化物だ。
スレットハザードは数字で分けられてあり、1番下のレベルは10で、1番上のレベルは0。
レベル6は、約数千人を殺せるレベルの化物だ。
そんな化物に、たった1羽の鳩が挑むなんて普通にあり得ない事だった。
―――チャット欄―――――――――――――――
『やべぇって』
『画面越しにもヤバさが伝わるんだが?』
『これ……あかんやつや』
『久しぶりにこいつ見たけど、鳥肌立ったわ』
『流石に止めたほうが良くないか?』
『誰が止めんだよ……』
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「じゃあみんな。見ててね」
鳩はゆっくり飛んでいった。
クマ帝や象蜂の時とは全く違う、警戒なんてしないようなふわふわ飛び。
そんな状況に、チャット欄は激しく流れていた。
「……匂うな」
鳩が4体に近付くと、モモタロウが『ボソッ』と発して立ち上がった。
モモタロウの声に反応して、他の3体も待ってましたと言わんばかりに鳩の方を向いた。
「久しぶり! モモタロウスのみんな!」
―――チャット欄―――――――――――――――
『は?』
『へ?』
『え?』
『話が通じる訳無いだろ……』
『何やってんだよ』
『ヤバいって』
『おいっ、モモタロウスが震えてるぞ……』
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チャット欄は心配の声で溢れていたが、そんなの関係無しに、鳩はゆっくりとモモタロウスの方へ飛んで行く。
「ハトるんか……」
「久しぶりだね!」
「何ヶ月ぶり?」
「会いたかったよ〜!」
何故か、モモタロウ、キジ、サル、イヌは、まるで久々に親友と会った人のような反応をした。
本来ならば危険なモンスターだが、今回のギャップにチャット欄は騒然となった。
―――チャット欄―――――――――――――――
『!?』
『何この雰囲気』
『ここってダンジョンの中だよね?』
『ボスモンスターと何してんだ?』
『何が起きてるんだよ……』
『モモタロウ笑ってね?』
『モモタロウだけじゃない……他3体も鳩を見て笑ってるぞ!?』
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「あっ……。この配信を見ているみんなには言ってなかったね。私とモモタロウスのみんなは、一緒にきび団子を食べて、宴をした仲なんだよ!」
鳩は、どこからともなく現れた袋から、きび団子を取り出した。
鏡のように反射する白いきび団子に、サルとキジとイヌの3体はよだれを垂らした。
「モモタロウスのみんな……準備は出来てる?」
「あぁ……」
「僕とキジ兄も何日は前から準備出来てるよ!」
「サル……それは言うなって」
「僕も楽しみにしてたワン」
―――チャット欄―――――――――――――――
『これが……あのモモタロウスなのか!?』
『何千人もの探索者との死闘をしたあの?』
『雰囲気違い過ぎだろ……』
『みんな勘違いすんな。モモタロウスの4体が人を殺した例は全くと言っていいほど無いぞ!』
『そういえばそうだったな』
『何件かあったけど、あれって死刑判決されるような極悪犯罪者って身元が判明したからな……』
『まぁ、犯罪者じゃない探索者でも、全治2年レベルの重症例は結構あるんだけどな』
『そりゃあ、探索者も殺しに来るんだからそうなるだろ……。むしろ、殺さないのが凄くね?』
『ここのコメ欄視野広すぎだろ……』
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チャット欄はどんどん盛り上がっていき、気が付けば同接2万を超えていた。
一方で、宴気分の鳩はチャット欄や同接数も気にすることは無く、ただただ宴の準備をしていた。
「それじゃあ……かんぱーい」
「ワンワーン」
「クェー」
「キィー」
「うむ」
動物の4体は果汁100%のリンゴジュースを飲み、モモタロウはお酒を嗜んでいた。
ダンジョン内……それもボス部屋での宴は、世界中のどこを探しても、恐らくここだけだろう。
「やはり、ハトるんの作る酒は美味いな」
「リンゴジュースも美味しいよ!」
「深淵まで行ってるだけあるね!」
「流石!」
「喜んでくれて良かった! そのリンゴジュースは青森県の弘前市にあるダンジョンの最下層。リンゴ世界樹の根元に落ちてたリンゴだからね!」
―――チャット欄―――――――――――――――
『は?』
『嘘だろ!?』
『あのリンゴって1個100億くらいしたよね?』
『1個食べるだけで寿命が3日伸びるやつ……』
『確か、日本政府が流通を制限してたよね?』
『ならこの鳩は捕まるのか?』
『いや……無いだろ。鳩だぞ?』
『そうか。鳩だから人の法が通じないのか……』
『まさかこんな抜け穴が……』
『裏で人間が関わってたらアウトだけどな』
『ってか、これだけチャット欄が盛り上がってるのに当の本鳥?は一切チャット見てないんだが』
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宴は続き、2時間ほど経った頃、サルとキジとイヌの3匹が眠り、起きているのはモモタロウと鳩だけになった。
「なぁハトるん……お前、以前ここで会った時に、人間界で店を出すとか言ってなかったか?」
「言ってたね」
「あれはどうなった?」
「順調だよ。それに、もう少しで店を出せる。開店した時は、モモタロウスのみんなも呼ぶよ!」
「フッ……。それは実に愉快だな」
―――チャット欄―――――――――――――――
『やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』
『流石に冗談だよな!?』
『鳩に人間の常識は通じないのか?』
『モンスターが店に来るのかよ』
『怖すぎて行けねぇ』
『そもそも、なんの商品を出すんだ?』
『もしかして……』
『さっき宴で出してたやつじゃないよな?』
『まさかな…………』
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この日、世界に激震が走った。
今までの常識を覆すような配信。
最高同接は3万を記録し、各種SNSでもトレンド入りを果たすほどの影響を世界に与えた。
世界中でこの配信が話題になってる頃、当の鳩は宴の後片付けをしていた。




