第22話 楽しかった異世界観光
配信開始から結構な時間が経ち、夕方となった。
カラスのような生物が鳴き、日が落ちている。
「やべぇ……やべぇって……」
「はぁ……はぁ……はしゃぎすぎちゃった……」
「だから言ったろ……間に合わなくなると」
「3人とも足動かして……洒落にならないから」
「クッークッー」
日本に戻るために乗る電車の最終便は、もうすぐそこまで来ている。
鳩一行は、異世界の観光があまりにも楽し過ぎて時間ギリギリになったようだ。
―――チャット欄―――――――――――――――
『ガチでまずい』
『間に合わないとどうなるんだ?』
『そりゃあ異世界で野宿やろ』
『おいっ……もう電車止まってるぞ!?』
『あれが最終便か?』
『発車は18時。今は17時57分。間に合うか?』
『3分しかないのかよ』
『駅が混んでないとは言え、流石にやばい』
『サラリーマンの俺としては、発車時間を見逃すなんて良くある事だけどこれは絶対やばいって』
―――――――――――――――――――――――
鳩一行は改札口を通り、全力ダッシュした。
電車の発車時間まであと1分。
『ダダダダッ』
田中さんと鳩、ミルクココアとDサイエンサーはギリギリで電車に乗ることができた。
「セーフ……なんかゲームのイベントに行く時に乗る電車を乗り過ごした時よりも焦ったわ……」
「だから言ったろ……この道が一番良いのだと」
「危なかった……って、西郷さんは?」
唯一、西郷の猿だけ遅れていた。
買ったダンベルが重いのか……電車の発車時間に間に合いそうもない。
西郷の猿は、まだホームに居る
「みんな……頼む。このダンベルだけでも……」
「クルッポーーーーーーーー!」
西郷の猿が大事に抱えてたダンベルを田中さんに向けて投げようとした瞬間、鳩が立ち上がり、スキル『天空の羽根』を使って白い羽を操作し、西郷の猿を電車内に向けて超速で移動させた。
『ドォォォォォォォォン』
「……いててて」
「猿……重い」
超速で移動した西郷の猿は、なんとかミルクココアがクッションになって一命を取り留めた。
―――チャット欄―――――――――――――――
『ナイス!』
『ギリギリやん』
『MVP過ぎる』
『ミルクは可哀想』
『何してんだよ……猿』
『これ、最悪猿は1人取り残されてたのか』
『猿は後先を考えなさ過ぎる』
―――――――――――――――――――――――
「猿よ……お前は鳩とミルクに感謝しろよ」
無事だった西郷の猿とは違い、さっきまで大事に抱えてたダンベルはというと……
「西郷さん……ダンベル……」
「は……あっ……ギャァァァァァァァァァ……俺のダンベルが……粉々なってる……ありえない」
西郷の猿は、粉々になったダンベルを見て、今にも泣きそうな顔をした。
一同が西郷の猿を哀れむなかで、Dサイエンサーだけがこの状況を理解していた。
「お前らは何を言っているんだ? これはただのトウモロコシだぞ? おそらく、鳩のスキルで出した羽が猿を持ったことで、この猿の頭の中で思い描く鳩のイメージがダンベルに具現化された」
「へ?」
―――チャット欄―――――――――――――――
『草』
『wwwww』
『こいつ……』
『鳩のイメージがトウモロコシって……』
『いや、この鳩に対しては失礼じゃないか?』
『やっぱ猿なんやな』
『Dさん……もう完全に猿呼びで草』
『バカすぎる』
『トウモロコシを考えてる暇なんて無いだろw』
『つうか、何気にトウモロコシにもなるんやな』
―――――――――――――――――――――――
Dサイエンサーがトウモロコシになったダンベルを一粒一粒拾い、想像し、ダンベルの形に戻してから西郷の猿に手渡した。
「良かった……俺のダンベル……」
「西郷さんは、ハトるんちゃんとミルクココアさんとDさんにお礼を言わないと……」
「あ、あぁ……ありがとな……ガチで助かった」
『ドアが閉まります。ご注意ください』
『ビビビビビビビビビビビビ』
電車は無事に日本に向けて発車した。
鳩達は、安心した顔で席に座り、今日あった濃い出来事をお互いに語りあった。
「今日は色々あったね……」
「だね! 今日あったことはVRゲームでも中々体験できないよ……あぁ〜楽しかった〜」
「フッ……帰ってからが楽しみだ……。この魔導ダイヤの解析……研究……実験……フフフ……」
「おいっ、見てくれみんな! このダンベル……ハンマーにも片手剣にも槍にもなるぞ!」
―――チャット欄―――――――――――――――
『猿は変わんねぇな』
『こいつ……さっき起こった事を忘れたんか?』
『wwwww』
『あぁ……忘れてたわ……そういえばDさんって、かなりのマッドサイエンティストだったわ』
『ミルクもほんま相変わらずやな』
『このメンバーでまたコラボして欲しいな』
『こいつらが日本に帰ってくるのか……』
『かなり荒れそうやな』
『俺、会いに行くわ』
『チャット欄見てる感じ凸る人多そうやな』
『凸るのは論外……と言いつつ気になるんよな』
『チャット欄の奴らは安心して。正直言って俺も気になるから……』
―――――――――――――――――――――――
〜3時間後〜
電車は東京駅に着いた。
東京駅のホームは朝の時とは違い、とても夜とは思えないほど人が多く、混雑していた。
「とうちゃーく!」
「あぁ〜また異世界行きてぇな」
「早く……早く研究を……」
「ハトるんちゃん……ありがとね」
「うん!」
鳩一行が電車の外へ出ると、大勢の人達が異世界からの帰りを待ち構えていた。
『パシャパシャ……パシャ……パシャパシャ』
「すげぇ……マジで帰ってきたわ」
「SNSにあげよ」
写真を撮られ、
動画を撮られ、
何度も異世界の事を聞かれた。
「やっべ……野次馬が……俺、もう帰るわ……ハトるん今日はありがとな……ほな、またな〜」
「鳩よ……今日は至高のひとときだったぞ。じゃあ俺は撮られるのが嫌なので帰る……またな!」
「鳩ちゃん! 今日はありがとね! できたらまた今度コラボしようね! さよなら〜!」
3人は野次馬達を華麗に避けながら帰宅した。
そんな3人とは違い、田中さんだけは野次馬達に撮られる中で、鳩にある提案した。
「ハトるんちゃん……僕達……これからは一緒に活動してみない?」
「クゥ?」
「ハトるんちゃんと一緒に居ると凄く楽しいからメンバーになれないかな……って。どうかな?」
「良いの?」
「あぁ」
「やったー! 嬉しい!」
「ハハッ……これからは毎日が楽しくなるな」
衝撃の声でチャット欄が溢れる中で、2人は配信を切り帰路につくのだった。




