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人生  作者: yoshi88
:23歳――夏 第二章 と、ある日の出来事
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2.(続)ぎゅうぎゅうの朝

 進行方向左手にお菓子で有名な"森永工場"を見ながら次の塚口までは僅か3分程で着くが、大阪駅まで殆ど誰も降りない...。


  工場以外何もない"JR塚口"駅と、華やかな"阪急塚口"駅までは歩いて20分くらい掛かるので、土地勘がない人が待ち合わせ場所を「塚口駅」とだけ決めると、とんでもなく待たされる可能性がある。


(...まぁ、こんな辺鄙な場所で待ち合わせる奴は地元民しかいないか...。)


 どうでも良い事を考えながら、僕は汗臭い「弁慶」から1cmでも離れようと必死に格闘していた。


 ――相変わらず背中が痛い...。


(...早く尼崎駅まで着かないかなぁ...。)


 次の尼崎は乗り換え客が多い主要駅だ。


 昔は大型ターミナル駅の癖に案内標識の位置が悪く、ホームの先端の方まで行かないと何番線に行けば良いか全く分からなかった。


 この駅の近くに国土交通大臣の自宅があったお蔭か、尼崎駅は高架駅として発展し、駅周辺も劇的にマンション開発が進んだ。


 地元の猪名寺は「兵庫」ではあるが、「大阪」の中心までわずか電車で30分以内で通勤通学が可能。電話番号の市外局番も大阪と同じ「06」なので、知らない人に、


「何処に住んでますか?」


 と聞かれると、見栄を張って必ず、


「大阪に住んでます」


 と答えてしまう...。"地元民あるある"だ。


 ・・・思考すら押し潰されるような息苦しさを感じつつも、僕は「弁慶」の胸と自分の顔の間に新聞を押し付け、彼の汗の匂いを新聞紙のインクの匂いで誤魔化しなが、ひりひりするような"永遠の(とき)"をやり過ごした...。


 車掌さんから独特の重低音で、


「――次は尼崎、尼崎」


 アナウンスが流れる。


 僕は出入口左側の位置を目指して、わざと一旦降りる乗客に紛れ込んだ、で、すかさず乗り込む――。


「黒髪美人」の方は無理でも、


(...この最悪の位置からはなんとか逃れたい...。)


 程なく目的を達成し、僕はさっき破れたであろう、股の部分を誰にも気づかれない様に自然な仕草でそっと右手で確認した。


(...破れてる...。)


  意気消沈しているのも束の間、今度は尼崎駅で洪水のように人が押し寄せてきた――。


 もう周りには「眼鏡」も「弁慶」も居なくなっている。僕は扉付近で小さく身を固めながら、洪水が治まるのをじっと待っていた。


「扉が閉まります!扉が閉まります!ご注意下さい!」


 アナウンスを無視するかの如く、それでも乗客は次々と雪崩れ込む...。


 電車の外側では一人でも多く乗客を乗せてあげようと、駅員も必死で中へ押し込もうとする。


(...もう乗車率、500%くらいに密集しているのでは?...。)


 人が発する熱気と全く効かない冷房の中で、僕は最後に乗り込もうとする”一人の女性”に目が留まった――。


(...ミニスカートスーツ姿、僕と同じくらい、いや2歳か3歳年下か...。・・・身長164~66cm、体重45~53kg、D~E、いやFカップはありそうなダイナマイトボディ、ショートカットは少し茶髪で、「黒い眼鏡」をかけた清楚で真面目風、「黒髪美人」とも甲乙つけ難いS級、いや、SSS級美少女だ!...。)


 その「眼鏡っ()」が止せばいいのに、何とか体半分だけ電車に乗ってそれ以上前に進めそうにない...。


「扉が閉まります!扉が閉まります!ご注意下さい!」


 悲痛なアナウンスと、わざと電車の扉を開けたり閉めたりしながら、乗客が諦めるのを、"これでもか!これでもか!!"と煽ってくる。


「眼鏡っ娘」の必死な形相から、


(...この一本に乗り遅れると、あたし遅刻してしまうわ...。)


 そう読心術の能力を発揮した僕は、こともあろうか、無意識の内に無意識の"反射の感覚"で、「眼鏡っ娘」の肩を僕の方へ引き寄せる!


「眼鏡っ娘」は少しびっくりして目を見開いて、僕と視線を合わせたが、少し含羞(はにか)みながら抵抗せずに僕の方へ自然と寄ってくる...。


「扉が閉まります!ご注意下さい!」


 最後のアナウンスを聞きながら、やっと列車の扉が閉まり、静まり返った車両に何時ものガタンゴトンと規則正しい音色が響き出す...。

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