酒は飲め飲め
私、お酒飲んだことないのです。
そう自己申告したミラーカさん。
「えーとそれは転生してから一度もですか?」
「二度の人生を通じて一度もです」
マジか。
「未成年でしたか?」
「成人してました」
マジか。
「健康上の理由とかですか?」
「いえ、親の方針で」
箱入りか。
「女性は酒など飲むものではないと言われまして。今世でも飲む機会が無かったのでそのまま…。飲めなかったら通らせてもらえないのでしょうか…?」
震える手で壁の落書き(?)を指し示す。
『ようこそドワーフ村へ! 酒飲み歓迎 飲めない方はご遠慮ください』
うーん、どうだろう。
最後の『ご遠慮ください』をどう解釈するかによるかな。
『とっとと帰れ』の意味かもしれないし、『飲まないなら注文するな』の意味かもしれない。
解釈に幅がある感じだから、交渉次第?
「そこんとこどうなんでしょう、グレアムさん…っていないし!」
グレアムさんったら酒場のカウンターに向かってすたすた歩いてくじゃん。
初めての場所で置いてかないで!
あわてて追いかける俺とミラーカさん。
はぐれたらどーすんの!
単独行動しないで、頼むから!
カウンターでグレアムさんはバーテンダー風のドワーフと話していた。
「探索目的で通行希望です。人数は3名、一般人の依頼人が1名と冒険者の護衛が2名です」
「あんたが依頼人?」
「いえ、私は護衛の一人です」
「じゃ、後ろの坊主が依頼人か」
「いえ、もう一人の方が依頼人です」
「あっちが…?」
バーテンダー風のドワーフは俺とミラーカさんとを不審そうに見比べている。
目立たない服を着た肉体年齢15歳、装備と言えば棒とスリング程度の俺。
体形のわからないマント姿でフードを深くかぶり、仮面と手袋で顔も手も隠したミラーカさん。
どっちが依頼人に見えるかというと……申し訳ないけどミラーカさん、ドワーフから見ても怪しい人のようだ。
まあ俺が弱そうで護衛に見えない、という可能性も無くはないけど。
「…ま、いろんな奴がいるよな。で、奥で探索したいんだな?」
「そうです」
「それじゃ駆け付け一杯だ。これを飲めたら通っていいぜ」
バーテンダードワーフは琥珀色の液体が入ったグラスをカウンターに置いた。
酒か?
酒だよね?
飲みたい!
「いただきましょう」
グレアムさんはグラスを手に取ってぐいっと呷った。
おお、グレアムさん、いける口だったんだね、でも一気飲みは体に悪いから気を付けようね!
「…ご馳走様でした」
「いい飲みっぷりだ。合格だな」
グレアムさんは顔色一つ変えずにグラスの中身を飲み干し、バーテンダーが笑って親指を立てた。
次は俺だよね。
この世界に転生してからアルコール飲料とはご無沙汰だったから、すごく飲みたい!
わくわくを押さえられない俺の前にバーテンダーがグラスを置いた。
トクトクトク…と注がれた液体はやはり琥珀色。
「坊主にはこれだ」
「お酒ですよね? いただきます!」
「まあ待て。先に依頼人だ」
バーテンダーはミラーカさんに視線を向けた。
「あんたにはこれだ。飲んでみろ」
「は、はい、でもこれは…」
あれ、色が違う?
ミラーカさんの前に置かれたグラスの中身は赤い色の液体だった。
その暗い色合いは何かを連想させる。
「…これはお酒? なのでしょうか? 見た目がまるで…」
「血の色だろ?」
バーテンダーがにやりと笑った。
顔を見合わせる俺とミラーカさん、ミラーカさんの顔は仮面に隠れてるけど。
ミラーカさんに突き付けられた血の色をした液体。
まさか正体がバレてる…ってことはないよね?
いや、ミラーカさんは特に正体を隠していはいないないけど。
この赤い酒『正体はお見通しだ、吸血鬼は通さねえ』ってメッセージだったり…?
『ボンボンビーバンシビロレン オデ~オ♫』
背後でドワーフたちか何語だかわからない謎の歌を歌っている。
渋い低音の歌声が流れる中、俺達はただただ困惑していた…。
ドワーフバーテンダー。バーテンダーを職業としているちょっと変わったドワーフ。『岩妖精のワンダーランド洞窟』奥への立ち入りはこのバーテンダーの試験を突破しなくてはならない。基本、酒が飲めない方は立ち入りお断り。ミルクを出されて丁重にお引き取りを願われる。




