厩務員倶楽部部長
おいちゃんもらい泣きしちまったよ。
そう言って目元を拭うフリをする厩務員倶楽部部長さんの目に涙なんかない。
飄々とした様子で会話に滑り込んでいく。
「医療のあんちゃんも花屋のねえちゃんも、布地の確保に苦労してるってわけだ。ガーゼと、なんだっけ、寒冷紗。アレだろ? どっちも薄くて平べったいペラペラのだろ?」
「そうだな」
「そうですわね」
「増産してもらえそうで良かったねぇ。そこへ行くとうちの欲しいもんはダンジョン行かないと手に入らねえんだよなー」
部長さんはチラリと領主に目をやった。
「町では作れないよなー、毛布」
毛布?
「毛布ってかフェルトでもいいんだけど、厚みがあるやつな。馬だって生き物だよ? 寒い日には背中に毛布かけてやりたいだろ、家族としては」
馬、家族なんだ。
「それに馬の背中にさ、鞍を置くわけだけど、鞍って硬いから直に置くと痛いだろ? 間にふかふかした物挟むわけよ。で、そこにも毛布とか使いたいけど、この町じゃめったに売られてないんだよ。現状、薄くて平べったい布しか作れてないと俺は見たけど、そこんとこどうよ?」
「…パイル地などは研究中だと聞いている」
「パイル地ね。タオルとかだな。それも見通しが立ってないって事だな」
そう言えば銀猫亭の女将さんから買ったタオルはパイル地じゃなくて、ガーゼタオルだった。
あれってこの町で作ってたのか。
「そうかい、研究中かい。タオルでそれじゃあ、毛布が作れるようになるのは何年先だろうねえ。5年か、10年か、20年か? 悪いがそんなに待てねえよ」
さっきの領主の仕草を真似るように、部長さんは両手を広げて肩を竦めるポーズを取って見せた。
「俺らも馬が可愛いからさ。毛皮敷いてみたり、獣毛と布重ねて自作したキルティングのサドルパッド敷いてみたり、試行錯誤してんのよ。で、今んとこアパレルダンジョンでドロップする毛布が一番具合が良いんだわ」
「しかし使い捨てではあるまい」
「まあね、大量消費するもんじゃあない。一つを長く使うものではあるが、今ある物はいつか擦りきれる。替えが手に入らないとなったら……」
意味ありげに言葉を切った。
なぜだろう、具体的な言葉を口にしたわけではないのに、なんか不穏?
…………。
誰も何も言わない、不気味な沈黙。
え、何、もしかして厩務員倶楽部って怖い組織なの?
沈黙を破ったのは領主だった。
「…まだ発言していない者が一人いる。彼の意見も聞いておこう」
ふーん、誰だろうね。
…え、俺?
視線が一点に集中している。
俺に喋れと!?
この緊迫した空気の中で!?
エバちゃんに引きずって来られただけの、ただのオマケなんですけど!
何を言えばいいんだ、わからん、空気が、空気が読めん!
領主からは『なんか言え』、部長さんからは『変な事言うな』、エバちゃんからは『言ったれ!』等、空気が錯綜している!
この状況で怒りを買わないセリフって……思いつかーん!!
しかし何かは言わねば。
えーと、えーと……。
「えーと……新人なのですいません、不調法があるかとおもいますが……そもそもアパレルダンジョンに入ったことないんですけど、どんな所なのかなーなんて……すいません、まだ転生して2か月くらいなんで」
そもそも論で、アパレルダンジョンが何なのか、よくわかっていない俺だった。
・厩務員倶楽部:「ヒーロー伝説! これが俺たちの走りだ!」をキャッチフレーズに活動する乗馬愛好家による冒険者集団。乗る動物は馬でなくても構わない。自由を愛し、広い平原を気ままに駆け回り、目についた魔物を狩りまくる。部員数は200名を超える。年に一度の総会では部員が一堂に介してそれぞれの騎獣(魔獣含む)で爆走する。スレイプニルやバイコーンを先頭集団にした突進はサイクロプスの群をも蹴散らす。
『厩務員倶楽部』ほぼ『珍走団』ですが、この世界は道路交通法とかあんまり整備されてないので違法ではありません。




