フラワーデザイナー連盟会長
「不足しているのは医療用だけではありませんのよ」
そう言って割り込んだフラワーデザイナー連盟会長さん。
偉そうなおっさん同士の会話に割り込むって度胸あるよね。
俺には無理かな、怖いから。
領主も医療会(略称)会長さんも目つきが鋭い。
睨んでるわけじゃないのに目が怖い人っているよね。
日頃から相手の心理を見抜こうとする職業の人とかだと、目力が半端ない。
裕福なご令嬢がそのまま年齢を重ねたような、若さを失った分だけ神経は太そうなフラワーデザイナー連盟会長さんは、おっさん二人の視線の圧に負けずに言葉を続けた。
「わたくしたちも繊維製品の不足に悩まされておりますわ。農業用の寒冷紗が圧倒的に足りておりませんのよ」
「寒冷紗とは?」
領主、何を言っているんだ、の顔。
医療会(略称)の会長さんもポカンとしてる。
正直俺もわかんない、寒冷紗って何?
フラワーデザイナー連盟の会長さん…医療会(略称)の会長さんと紛らわしいな、花子さんでいいか…花子さんは呆れた様子になった。
「何もご存じありませんのね。殿方ってこれだから…。寒冷紗とは網目が密な薄手のネットのような生地ですわ。ガーゼよりも丈夫で、見た目は模様のないレースのような感じかしら。身に着けるものではないので、美しさは必要ありませんの。肌触りも関係ありませんから、ザラザラしていても良いのです。肝心なのは通気性と遮光性ですわ」
「ふむ、それはどのような用途で用いられるのかな?」
「植物を覆って寒さや過度な日光、害虫などから保護するのですわ。これがあるとないとでは栽培の難易度が段違いなのです。美しい花には虫がたかるもの。この世界にビニールハウスはございませんし、ガラスの温室だって容易には建てられません。露地栽培が一般的ですが、畑にただ種をまいただけでは鳥や虫に食べられてしまいますわ。芽吹いたばかりの双葉が、開く寸前の蕾が、虫食いでダメになってしまう農家の悲しみがわかりまして? 花卉栽培には虫よけの寒冷紗が必要なんですのよ!」
フラワーデザイナー連盟って、農家の団体だったの!?
「なのに市販されている寒冷紗はほんのわずか。わたくしたち、アパレルダンジョンに自ら入ってドロップ品をかき集めてますのよ。必要な物量を確保するために」
「それは申し訳ない。ご婦人たちにそのような苦労をさせていたとは」
それより俺は花子さんが農家のおばちゃんだったことにびっくりだよ!
見た目を裏切る花子さんの正体に驚愕する俺の傍らで、
「いや〜、聞くも涙語るも涙の苦労話だねえ。おいちゃんもらい泣きしちまったよ」
厩務員倶楽部部長さんがわざとらしく目元を拭うフリをしていた。
・フラワーデザイナー連盟:世の中を花で美しく彩る、という崇高な理念の下に運営されている団体。会員は花卉栽培農家の女性たち。農家でなくても花を愛する人なら入会可。ただし女性限定。会員は月に一度の定例会の他に、花に関する講習会や視察旅行、親睦のためのレジャーなど、多岐にわたる活動を行っている。ダンジョン探索もその一環である。
・フラワーデザイナー連盟会長:フラワーショップと花卉栽培の両方を経営しながら冒険者パーティーのリーダーとしてダンジョン探索も行う女傑。名前は花子ではない。




