不穏な気配
職業を自分で決めることの大切さを俺は知った。
タイムリミットが転生後1年、とはいえ早めに決めるに越したことはない。
うかつに引き延ばして『天職』を与えられたら大変だ。
ベリーダンサーにはならない!
それだけは絶対に!
※
「ビッグニュースやで〜」
エバちゃんが何かを手に持って冒険者ギルドに飛び込んできた。
「アパレルダンジョンが攻略されたんやて。冒険新報が号外出しよった!」
「本当!?」
「すごいじゃないの!」
セシルさんソニアさんら女性陣の食いつきがすごい。
よく見るとエバちゃんが持ってるのは新聞のような、チラシのような、単色刷りの印刷物だ。
女性達がそれを覗き込んでキャッキャ言ってるのだが、俺は意味がわからないので一人冷静なグレアムさんに聞いてみる。
「アパレルダンジョンってなんですか?」
「最近盛んに探索されているダンジョンの一つです。管理精霊がバグる前は衣類や服飾小物の製造工場だったようですね。今もバグっているなりに生産活動が続いているらしく、マントや手袋など『服』に分類されるアイテムがドロップするのですよ」
なるほど、迷宮遊園地のファッションアイテムバージョンか。
「それが攻略されたって、凄いことなんですか?」
「ざっくり言えば、衣料品を容易に手に入れられるようになります」
なるほど、ファッションアイテムが大量入荷して、バーゲンセール状態になるわけか。
そりゃ女性達が興奮するわけだよ。
でもまあ自分にはあんまり関係ない。
この時はそう思っていた。
※
「アパレルダンジョンに入られへんてどういうこっちゃ!」
エバちゃんがブチ切れている。
「領主が決めたのよ」
「おかしいやろ! ついこないだまで自由に入れたやん!」
「昨日付で布告されたのよ。今後、アパレルダンジョンには領主の許可なしに入れないって。知らずに入ろうとした冒険者が逮捕されたわ」
ソニアさんが無表情で答えている。
「横暴や!」
エバちゃん、珍しく荒れている。
セシルさんも眉間にシワを寄せて無言で腕組みしている。
俺は少し離れてお茶を飲んでいるグレアムさんに小声で話しかけた。
「この世界、領主とかいるんですか?」
「この町にはいます。いない町もあります。この国全体で言えば民主制で領主なしの自治都市が多いのですが、都市のリーダーが領主を名乗る例は珍しくありません。統率力の高い人が武装集団率いて武力制圧すればその日から領主を名乗れたりしますね。実力ある人が領主を名乗れば周囲も大体従います。逆らってもいい事ないですから」
なんと野蛮な。
異世界、割と無法地帯?
「それって群雄割拠の乱世なのでは?」
三國志みたいに。
「それほど紛争が多くはないですよ。神官戦士がグローバルに平和維持してますから。信者は神殿が守ります」
「本音は?」
「俗物どもは勝手に殺し合え。だが神官を害する者は地獄に落ちろ。神殿を焼き討ちしやがったらジハードだ。神の鉄槌を食らうがいい」
「そうですよねー」
グレアムさんはそういう人だよね!
グレアムさんの本音が不穏なのはいつものことだ。
でも女性陣はいつもと違う感じに不穏だ。
セシルさんがポツリと呟いた。
「独占、許すまじ」
そのフレーズ、いつか聞いたセリフに似てますね。
エバちゃんが指をポキポキ鳴らした。
「領主がナンボのもんじゃい! 喧嘩売るなら買うたるで!」
いつもニコニコ楽しそうなエバちゃんはいったいどこへ。
ソニアさんがカウンターから出て来た。
「冒険者ギルドは政治には関わらない決まりだけど」
スッと手の甲を上にして前に差し出す。
「私たちのキレイめスカートのために」
エバちゃんがその手の上に自分の手を重ねる。
「うちらのゴスロリワンピのために」
セシルさんも手を重ねた。
「いつか着るウエディングドレスのために」
三人が唱和する。
「「「アパレルダンジョンを取り戻す!!!」」」
マジですか。




