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102 レミート対エリーサ

 レミート率いる魔族軍は南へ進む。やがて、人類軍の待ち構える平原にたどり着いた。遠く、人の軍勢が見える。敵の数は多い。10万弱は居そうだ。


 レミートが命令を下し、魔族軍は横隊を形成する。ただし、その隊列は異常に間隔が広い。スカスカで、とても陣形とは言えない。

 古龍(エンシェントドラゴン)は中央後方に隊列から少し離して配置する。


 ブラックドラゴンはこの場にはもう居ない。撤退となった場合に備え、後方の要塞線を下がらせた。

 要塞線に残した戦力は僅かだ。人類軍に奪還されればレミート達は退くことも出来なくなる。ブラックドラゴンが居れば簡単には再占領されないし、最悪でも再占領される前に要塞を破壊できる筈だ。


「全軍前へ!」


 隊列が整ったところで、レミートは軍全体に前進を命じる。指示を伝達する為の魔力弾が幾つも空に炸裂した。


 魔族軍が進む。


 大軍な上に密度が低いので展開する範囲は凄まじく広い。軍の中央にいるレミートからは右も左も地平線まで隊列が続いていた。対する人間側は停止したまま。その場で魔族を迎え撃つ構えだ。


 徐々に人間との距離が縮まってくる。レミートはタイミングを見て次の命令を出す。


古龍(エンシェントドラゴン)のみ停止! 突撃開始!」


 合図の魔力弾が撃ち上げられ、魔族とモンスターが走り出した。轟音を纏い、地面を震わせ、魔族軍が進む。

 人類軍までの距離はまだまだ遠い。こんな場所から走っては魔族と言えども接敵前に疲弊してしまう。突撃の衝撃などは全く期待出来ないだろう。


 だが、仕方ない。敵には長射程超火力の大魔術師がいるのだ。恐らく既に(フィーナ級)の射程に入った。こちらの魔術は届かない、一方的に撃たれる距離だ。


 案の定、人類軍の中程から、巨大な魔力槍が放たれた。青い光が空を進み、地を穿つ。吹き飛ばされた魔族の体がバラバラになりながら宙に舞う。軍の密度を下げているお陰で比較的被害は少ない。


「進め!」


 レミートは叫ぶ。フィーナ級はレミートが空から攻撃して抑える予定だが、流石に単騎で突出すれば集中攻撃されて墜される。前列同士が衝突するまでは耐えるしかない。


 2発目の極大魔力槍が着弾する。大型モンスターが血肉を撒き散らし、周囲の魔族がそれを頭から被った。


 前進しながら、魔族軍は少しづつ密度を上げていく。分散し過ぎた状態では近接戦闘では不利だ、前列の衝突までにはある程度固まっていなくてはならない。当然、その分フィーナもどきの攻撃は脅威度を増していく。

 極大魔力槍が次々と撃ち込まれ、その度に犠牲が出る。


 巨大な魔力刃が水平に放たれた。しゃがんで躱す者もいたが、多数の魔族とモンスターが2つに断たれ、走る勢いのまま地面を転がっていった。

 そこからは攻撃が魔力刃に切り替わり、損害が更に増していく。


 ようやく、人類軍の前列が魔族側の魔術の射程に入った。同時にフィーナ級以外の人類側魔術師も魔族軍を射程に収める。

 攻撃魔術の応酬が始まった。互いに魔力防壁も展開するので損害はそこまで大きくならないが、それでも壮絶な撃ち合いだ。


 レミートは”今”と判断し飛行魔術を発動する。


 風を切り、全速力で空を駆ける。目指す敵の位置は明確、極大魔力刃の発射地点だ。人類軍の中に、そこだけぽっかりと兵士の居ない空間が空いている。


 レミート目掛けて数十発の魔力槍が飛んで来た。半分ぐらいは対龍級だ。空中機動で躱し、更に接近する。


 前回威力偵察したときとは違い、今回は敵の攻撃を抑えなくてはならない。危険は承知で進む。


 フィーナ級魔術師の姿がはっきり見えた。金色の髪の可愛らしい少女だ。


 そして、手には白銀の杖。


 外見の特徴と、これ程の大魔力に耐える性能、候補は一つしかない。至天杖に違いなかった。

 驚きはない。やはりと言った感じだ。


 至天杖を持った少女と目が合う。すると少女は声を上げた。


「フィーナ王国第一王位継承権者、エリーサ・ルドランです」


 人の良さそうな元気な声だった。


「紅玉位レミート・クンツァイトです」


 レミートは笑っていた。満面の笑みだ。


 恐らくフィーナの子孫なのだろう。大戦の悪夢、人類最強の大魔術師。その血と武具は受け継がれ、目の前にある。

 圧倒的な強者への挑戦、そんな機会に恵まれるとは思ってもみなかった。


「レミートさん、行きます!」


 そう言って、エリーサが魔術を構築する。20を超える対龍級の魔力刃。発射されると同時にレミートは回避に移る。体への負荷を無視して全力で疑似質量化した魔力を噴射、軋む骨肉に耐え、刃を躱す。回避動作の完了と同時に魔術の構築に移る。飛行魔術を解除し、全魔力を注ぎ込んで貫通力特化の細長い魔力槍を作り出す。


 構築完了と同時にエリーサに向けて放った。エリーサは魔力防壁を構築する。体全体を覆う全周防御ではなく、盾のように一方向を守る壁だ。

 レミートの魔力槍はエリーサの防壁に衝突する。金属同士が激しく衝突したような音がして、槍と壁は共に砕けた。


 相殺、レミートの想定通りの結果だ。全力の攻撃ならエリーサも本気で防御しなければならない。

 レミート・クンツァイトなら、辛うじてエリーサ・ルドランを抑えることが可能だ。

 そして、リリヤが来る様子はない。やはり回復していないのだろう。


 レミートが飛び上がると同時に古龍も移動を開始している。レミートがエリーサの行動を抑え続ける限り、古龍は簡単には倒れない筈だ。


 レミートは飛行魔術を再発動する。下からエリーサが構築した対龍級魔力槍が放たれた。周辺空間ごと狙う光の槍衾をギリギリで躱しきる。背中に死の気配がひりつく。

 高度を上げ距離を取れば回避は楽になるが、エリーサにも余裕を与えてしまう。彼女はその余裕で古龍を狙うだろう。


 レミートは火炎弾を構築し、エリーサに目掛けて放つ。もちろん単なる目眩ましだ。横から飛んできた魔力弾にあっさりと迎撃され、空中に爆炎を撒き散らす。迎撃したのはエリーサから少しだけ離れた場所にいた女だ。レミートからすれば雑魚だが、一線級の魔術師のようだ。

 再び渾身の貫通特化魔力槍を構築、自由落下で炎の陰から出ると同時に発射する。既にエリーサは魔力防壁を構築していた。魔力槍は防壁と衝突し、相殺する。


 レミートは分析する。今の応酬、エリーサは先取りで防壁を構築していた。もし相手がリリヤなら確実に攻撃魔術を構築し、カウンターを狙ってきただろう。防御重視の姿勢は戦闘経験の浅さを伺わせる。

 魔力制御には粗があるし、どうにも戦闘慣れしていない。王族ということだし、今まで戦っては来なかったのだろう。


 エリーサが再び空に魔力刃を放つ。先程より広範囲に刃が舞った。大きく動いてまとめて躱すのは不可能だ。レミートは魔力刃の隙間に身を通し、躱す。髪の毛の一部が断ち切られパラパラと宙に舞った。

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