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101 本体合流

 草原に風が吹き、葉を揺らす。辺りには見渡す限り大量の兵士がいる。その中程のぽっかり空いた空間に、エリーサ・ルドランは立っていた。手には至天杖、背筋はピンと伸び、その表情は険しくも凛々しい。


 エリーサの前にはロラン・ブラッケが膝を付き、(こうべ)をたれていた。


「国王軍本体、到着いたしました。王女殿下をお待たせし申し訳ございません」


 国王軍本体はエリーサ達に追い付いた。これで人類側の兵力は約9万、数の上では魔族軍を上回ることになる。


「いえ、迅速な行軍、良くやりました。さて、兵も疲れているでしょうが、敵は待ってくれません。魔族軍は数時間後にはこの平原に現れるでしょう」


 エリーサはさっき頑張って覚えた台詞の一つ目を言う。ロランは「はっ」と短く返す。


「レブロ辺境伯軍とデベル家剣士隊は国王軍に編入します。指揮しなさい。但しウェンスト兵とドミー・コンチェ、私、トリスタ、ソニアは独自に動きます」


「承知致しました。陣形ですが、横隊を形成します。レブロ辺境伯軍の領民兵は後列に回し、国王軍歩兵、デベル家剣士、カッセル家魔術を前列にします。また国王軍の騎兵は予備として後方に置きます」


「……妥当な判断です」


 エリーサはロランの言葉を肯定する。実は良く分かっていないが、視界の端でソニアが『肯定』とハンドサインを出していた。


「確かに、レブロの領民兵は領民兵としては異質な程に精強ですが、国王軍の職業軍人には及ばない。加えてこれ以上レブロ領民を死なせるのは不味い。予備の騎兵も魔族側の回り込みを防ぐのに必要ですね」


 エリーサの斜め後に居たトリスタが解説してくれる。とりあえず無難な形であることは分かった。


「お見込みの通りです。では、準備に移らせていただきます」


 ロランが立ち上がり、去っていく。全軍が慌ただしく戦闘の準備を始め、草原は喧騒に満たされた。


 エリーサから注目が外れたのを見計らってソニアが寄ってくる。ソニアがハンカチをエリーサの口元にあて、口の中から緑色の何かを取り出す。


 エリーサは「どうだった?」とソニアに小声で聞いた。


「大丈夫です。そこそこ威厳のある感じの表情になってました。言葉の方も問題ないです」


 エリーサが口に含んでいたのは『とても苦い薬草』だ。表情作りの為のソニアの仕込みである。

 素のエリーサに任せると「魔族が来るけど頑張ろー! エイエイオー!」みたいなノリになる。それでは締まらないので色々と策を弄していた。


「よかった。よし、後は戦うだけだね」


「はい。リリヤさんが復帰できていないのは非常に厳しいですが、こちらにはエリーサ様が居ます」


「不安だけど、頑張る!」


 エリーサは小さく「エイエイオー」と言って杖を振り上げた。



◇◇ ◆ ◇◇



「増援と合流した敵は平原に展開……無難ね」


 偵察隊の報告を聞き、レミート・クンツァイトはそう述べた。

 隣にいたヤニックが「そうだな」と頷く。


 多様なモンスターを引き連れた魔族軍は、地形への適応力で人間軍より上だ。フィーナ級魔術師という超火力があることも含めれば、平地での会戦は妥当だろう。


「何にせよ、私達は追い詰められている。城塞都市の包囲を解いた以上、近いうちに後方連絡線は断たれる。この会戦で敵主力を打倒できなければ、負けるわ」


「ああ、厳しい状況だ。フランティス・デベル殿の言葉からすれば、敵の中にはデベルの筆頭剣士もいる筈だしな」


 そのとき羽ばたきの音が聞こえてきた。空を見上げると、2体のブルードラゴンがこちらに向かって飛んできていた。その姿はみるみる大きくなり、レミートから少しだけ離れた場所に着陸する。


 ブルードラゴンから二人の魔族が降り、レミート達に近付いてきた。中肉中背で黒髪青肌の青年と、小柄で赤髪の少女、レミートの知った顔だ。

 二人はレミート達に頭を下げる。


「レミート様、ヤニック様、お話し中失礼いたします。ガズワルデ・フローレグ、サイグラス様の命により参りました。以後指揮下に入ります」


「フィネッツァ・ログラート、同じく」


「援軍ですか! とても助かります。サイグラズ殿に感謝を」


 本当にありがたい。レミートの声も少し高くなっていた。


「しかし、大丈夫なのですか? サイグラス殿の部隊はサルドマンド方面から来た人類軍と交戦中の筈」


 ヤニックが心配そうに問う。青年魔族のガズワルデに少女のフィネッツァ、この二人はサイグラス隊のナンバー2とナンバー3だ。たった二人とはいえ、大きな戦力である。


「サイグラス様が居れば暫くは凌げます。ただ、あちらの人類軍はとにかく数が多い。なるべく早く戻りたいところです」


「わかりました。おそらくこの後敵の主力と会戦になります。そこで趨勢は決する筈です。それまでお願いします」


「承知致しました」


 二人が揃って頭を下げる。戦力を積み増すことができた。これで少しは希望が増える。


「方針ですが、まずフィーナ級魔術師には私レミートが対処します。もし銘杖ランタナの継承者リリヤ・メルカが現れたときはそちらを優先しますが、重傷を負わせたので可能性は低いでしょう」


 リリヤには瀕死だった筈だ、戦闘可能なまでに回復しているとは考え難い。


「フィーナ級魔術師の他に、ウェンスト家の精鋭騎兵も要注意です。隊長の槍使いが強い。それ以外にも精強な魔術師が複数名居ました。未確認ですが、ヤニック殿と同等の剣士も居ると推測されます。全容は分からないので、他にも何が出てくるか分かりません」


「なるほど……我々は少し人類を見くびっていたようですね。それ程の戦力がこの段階で集まっているとは」


「ええ、正直予想外です。会戦で敗北した場合は遠征は失敗とし、撤退します。ご両名は独自判断で敵の精鋭を抑えて下さい」


「承知しました」


「我々で敵の精鋭を拘束している間に古龍(エンシェントドラゴン)で敵軍を蹴散らすのが基本戦術です。さて、では進みましょうか」



めっちゃ間空いてすみません。

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