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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ7 タリスマンの闇
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3 7年前を境に

 一行は失意の中、本拠にたどり着いた。特にマルセル。彼はほかの誰が話しかけようとも上の空であるかのように返事をするだけだった。マルセルはゲオルドと深いかかわりがあったとのこと。無理もないのだろう。


「そっとしておいた方がいいだろうね」


 本拠で一行を待っていたヘンリクは言った。


「だな。時間が解決してくれるだろう。俺も、気持ちはわからなくもないが」


 メルヴィンはそう言うとマルセルの方から目をそらした。

 デーモンボーイズの兄弟がいたときのこと。それ以前、レジスタンスだった頃の仲間のこと。メルヴィンも仲間を喪うつらさというものをわからないわけではなかった。


 ――人によっては復讐者になるやつだっているが、マルセルはどうなんだ……?


「メルヴィン……ユーリー……」


 マルセルは言う。


「今だからこそ言わなければならないことだと思ったんだ。ゲオルドさんが何をしようとしていたのかもな」


「……というと?」


 メルヴィンは聞き返す。マルセルは目を伏せながら再び口を開く。


「ゲオルドさんは、シオン会長から通達を受けていた。出所までは教えてくれなかったのだが、今回の黒幕トロイ・インコグニートは2人いるとのことだった。あんたに人殺しをさせていたヤツとは違うもう1人のヤツだっているんだよ、ユーリー」


 そう言ったマルセルはユーリーの方を見る。


「2人か……確かにあの野郎は7年前を境に人が変わったようだったと言われていたからな。2人いるとなれば合点がいくのかもしれない」


「そうか。ゲオルドさんも同じことを言っていた」


 と、マルセル。


「ゲオルドさんは以前……7年くらい前か。トロイと接触したことがあるという話だった」




 ♰




 マルセルは語る。彼しか知らない、ゲオルド・ムーア付近の人物にしか知らないことを。


 ゲオルドはグレイヴワーム支部の情報部門の担当だった。マルセルやその他の魔物ハンターのサポートを情報の面からフォローするという役割を持っていたのだ。


 あるとき、ゲオルドはとある魔物ハンター――それも吸血鬼を専門にした魔物ハンターとともにタリスマンに出向いた。その時、彼らは支部長であるトロイから依頼されていたという。

 ゲオルドはその依頼を二つ返事で承諾し、タリスマンに出向くことになったのだ。とはいえ、それだけでタリスマンのすべてを知ることなどできなかったのだが。


「よく来たね、ゲオルド・ムーア。それから、エレナ・ノートン。私が2人を呼んだのは吸血鬼退治という目的があるのだよ」


 トロイは2人を出迎え、支部長室に案内する。

 ゲオルドは特段何かを気にすることもなかったのだが、エレナは何か違和感を覚えていた。

 この世界とは異なるどこかからの気配。異なる世界――異界から流れ込む何かがゲオルドやトロイの何かを呼び覚まそうとしていることに薄々気づいていたのだった。


「それで、場所は」


 ゲオルドはトロイに尋ねる。


「廃教会。このタリスマンには廃教会があるのですが、そこに吸血鬼が住み着いているとのこと。詳細は未だわからないが、とある旅行者から報告を受けてね」


 と、トロイ。


 曰く、件の吸血鬼は紫色の髪をした青年だという。手には何かの経典らしきものを持ち、得体の知れぬ術を使ってくるのだ。

 そして、件の吸血鬼によって既に数名の旅行客やバックパッカー、それ以上と思われる浮浪者の犠牲が出ている。


「事態を甘く見てはいけないな。とりあえず承りました。ですが、状況によっては本部からの応援要請も出すことになるでしょう」


 ゲオルドは答える。


「頼みましたよ。彼女がいるのだから、それ相応の戦果は挙げられると思いますが」


 トロイはそう言ってエレナを見た。


「最善を尽くしましょう」


 と、答えるエレナ。




 ゲオルドとエレナはタリスマン支部の案内役に連れられ、廃教会にやって来た。

 ゲオルドが監視をして、吸血鬼が現れたときにエレナがその吸血鬼を討つ。一行の計画はそれに決まっていた。

 廃教会の中。ゲオルドは彼自身が持っていた能力を使い、監視カメラの性質をもつものを教会内に展開した。


「もし何かしら状況が動いたのであればすぐにわかるはずだ。エレナはそのときに仕留めたらいい。大丈夫。お前は強いから」


 それから少し経ったときのことだったか。

 教会から少し離れた場所。潜伏する場所で監視していたゲオルドは吸血鬼の姿を捉えることとなる。

 監視するビジョンに浮かぶのは紫髪の吸血鬼。黒服をその身に纏い、観光客を屠る。

 その様はあまりにも無惨で、しかし美しかった。


「……いきますよ。多分チャンスは今しかねえ」


 エレナはそう言って潜伏場所の窓から外に出る。

 月が辺りを照らすなか、エレナは正面にある廃教会に突入した。

 その手に持つのは銀のチャクラム、服の袖に仕込まれたのは銀の矢。いずれも吸血鬼を殺すための装備だった。


 ――殺さなくては。恨みがあるわけではないけど、これが仕事だから。


 紫髪の吸血鬼は観光客の遺体を投げ捨てる。

 それは一瞬のこと。エレナはチャクラムを投げ、追撃するように矢を放つ。

 紫髪の吸血鬼は光に侵食され、灰となる。


「……やりました!」


 エレナはそう呟いて携帯端末を手に取ると、ゲオルドに電話をかける。ここで起きたこと、吸血鬼を討ったことを告げ電話を切る。後はゲオルドとともに、トロイに報告するだけだ。




「ふむ、ずいぶんとあっけない最期でしたね。どういったことかはわかりませんが。観光客を襲っていた吸血鬼ということ……」


 報告書を手に取るトロイは言った。

 そんな彼を見るゲオルドの中に浮かび上がるのは懐疑心。本来知っているはずのことを、トロイは初めて聞くことであるかのように語る。

 彼は何か忘れている?


「ええ。彼女が斃した吸血鬼です」


「それはわかりましたよ……報酬も渡しておかなければならないのですね。確か……2人で8000デナリオンですか」


 と、言いながらトロイは小切手を手に取る。


 ――ここに来たときはここまで怪しさを感じることはなかった。彼は一体何なんだ……?


 疑いを抱いたまま、ゲオルドは報酬を受け取り、グレイヴワーム支部に戻る。




 ♰




「思えばあの頃から疑いを持っていたわけだろうな。俺に何か話してくれるというわけでもなかったが」


 語り終えたマルセルは言った。


「そんなことが……」


 傍らで聴いていたアディナが口ごもる。


「ああ。俺が話せるのはここまでだが。あとは会長に聞くか、その情報を漏らした人に聞くかだな。あの支部長が何をしていたのか。何者なのかということに関しては」


 マルセルは言う。


 ふと、ユーリーの中に浮かぶケイシーとルナティカの顔。どちらかが情報を漏らしたのだろう。


 そんなときだった。


「――ここだから!」


 女性の高い声。開けられるドア。

 マルセルとクリフォードは敵襲かと思い、武器を取る。


「いや、その必要はねえよ。なあ、ルナティカ」


 心なしか明るい声のユーリー。

 ユーリーは立ち上がり、本拠の入り口に向かう。


 本拠のドアの前にいたのはユーリーと同じくらい大柄な男と、彼が小脇に抱えたルナティカ。なぜかその男――フィルは左手に重傷を負っていたが。


「おい。ルナに何してるんだよ……」


 ユーリーはフィルの姿を見るなり言った。



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