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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ6 混乱の刑務所
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3 過保護になるんじゃねえよ

 いない。ルナティカがいた形跡はあっても、隠し通路の出口近くにもその先にもいない。

 ジェシーは唖然としていた。

 一体、ルナティカはどこに行ったのだろう。


 ジェシーはちっ、と舌打ちして引き返す。こうなったら片っ端から探すしかないから。


 隠し通路の中を歩いていると、ジェシーは予想外の人物を目にした。

 闇の中に浮かぶ青い髪。ライトのように光る赤い瞳。その目は吸血鬼であることの証明で――


「クロイツ。なんでここにいる?」


 ジェシーは静かな声で言った。

 彼の前にいる男、クロイツ。囚人服を着た彼は困った様子を見せることもなく。


「その理由を言うまでもない」


 クロイツは言った。


「そうかい。僕としては声をかける理由がある。ルナティカを見ていないか?」


 ジェシーは尋ねる。

 すると、クロイツは「まいった」と言わんばかりの顔をした。少し前、クロイツはルナティカ本人から「護衛しろ」という依頼を受けたばかり。己の立場をわかっていたクロイツは彼の部下にルナティカを任せた。その後、刑務所に戻るということで今に至る。


「見た、ということでいいのかい? もし見たのなら――」


「言えないな。正直、君の立場がわからない。立場をはっきりしてくれない限り、俺は何もできない」


 と、クロイツは答える。

 そんな矢先。ジェシーは既にイデアを展開していた。半ば不可視のビジョン。それは低温を操る力。その力は吸血鬼にも作用する。人間ほど効くわけではなくとも、使い方次第では。


「何をする気だ?」


 クロイツはジェシーに尋ねた。


「何も。尋問、させてくれるよね?」


 と、ジェシーは言った。

 これは尋問の範囲を超えている。クロイツの態度次第では拷問に変わるだろう。


「ジェシー……」


「君が口を割らないのが悪い。もし口を割ってくれるのなら、悪いようにはしない」


 ジェシーは静かな声で言った。依然として彼の周囲にはイデアが展開されている。少しでも変な動きがあれば、クロイツもその能力によって凍り付くだろう。


「……所在はわからない。だが、取引はした。ルナティカを生き残らせて、彼女から情報を横流ししてもらう。それから、タリスマン支部の連中と処刑人をぶっ殺す」


 と、クロイツは答えた。


「へえ、そういうこと考えていたんだね。ルナティカのことについてはちょっと腑に落ちないけど。安全な場所にいさせてくれるのなら、それでよかった」


 ジェシーは言う。

 そして。


「男子刑務所の方にお邪魔するよ。状況を知りたい」


「今はできない。俺が適当なタイミングにこっちに戻るから、あんたはせいぜいここで心配していろ」


 クロイツはそう言うと踵を返し、隠し通路を進んでいった。

 隠し通路に残されたのはジェシーだけ。今外に出ようにも、夜明けが近い。吸血鬼の天敵である太陽を避けるため、ジェシーは隠し通路にとどまることにした。




 刑務所の一室のコンクリートが動く。

 コンクリートの壁に偽装されていた扉から現れたのはクロイツ。壁に寄りかかっていたライオネルは口角を上げて。


「やっと戻ってきたのかよ。あいつが何かやらかしたって?」


 と、ライオネルは言う。


「違う」


 クロイツはそれだけ言って、ベッドに座り込んだ。


「へえ……よくわからねえヤツ。それでよ、面白れぇことになってるな。上の階層でドンパチやってるみたいだ」


 ライオネルは言った。

 すると、クロイツはその言葉に反応したのか――


「面白いだって?」


「おう。女子刑務所みたいにはいってないようだがアンデッドと看守とかが戦ってるらしいぜ。俺たちがクリフォトを売りつけた甲斐があったよなあ?」


 そう言って、ライオネルは笑う。彼の傍には彼のイデアが展開されていた。紫色の粘液の塊はわずかな明かりをうけて妖しく光っている。


「そうだな……さすがに女子刑務所まで横流しはできなかったが。やつらはいつ来るかな?」


 と、クロイツ。

 無表情でいようとしていたクロイツだったが、彼の奥底の感情は隠せていなかった。

 クロイツはこれから刑務所で起こる惨劇でさえも楽しもうとしていた。そこから、人間と倫理観が乖離している。ライオネルも同じく、人間とは違った倫理観を持っていた。


 やがて、クロイツとライオネルのいるフロアにも混乱が訪れようとしていた。

 騒ぎが階段を下ってくる。アンデッド――レヴァナントが騒ぎを引き連れて。


 見回り中の看守がレヴァナントに気づく。彼はすぐさまイデアを展開し、レヴァナントの迎撃を試みた。

 その看守の能力は念力だ。ポケットに入れていたいくつかの銃弾を空中に浮遊させ、銃を使わずに放った。

 すると、銃弾はすべてレヴァナントに命中し、レヴァナントは脳漿をまき散らしてその場に倒れた。


「おい、援護されたいのならここを開けろ」


 個室の中、クロイツは言った。

 が、外の看守たちは自分たちの身の守りで精一杯で、クロイツの声も聞いていない。

 しびれを切らしたクロイツは立ち上がり、個室のドアの前に立つ。


 ――吸血鬼の力について俺は虚偽の申告をしていた。一応、俺が申告して検査を受けた部分の力ではここは壊せないことになっている。俺が本来の力を出さなければ。


 ドアの前。クロイツはイデアを展開する。

 彼がその身に纏うのは身体に巻き付く包帯。それこそが、クロイツの力を底上げする要因の一つ。

 クロイツの様子を見るなり、ライオネルはクロイツから距離を取った。


 そして。

 クロイツが放つ渾身の回し蹴り。フロアに響くのは扉が破壊される、鈍い金属音。


 いともたやすく扉は蹴破られた。


「出るぞ、ライオネル。ここで暴れまわって、脱獄も考える。が、もし何かあればお前だけでも逃げろ」


 クロイツは言った。


「おーおー、それ言っちゃう? 後見人だからって俺に過保護になるんじゃねえよ」


 と、ライオネルは答える。


 2人は閉じ込められていた部屋を出た。

 そこに待ち受けていたのは、上のフロアから押し寄せるレヴァナントたちだった。



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