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とおとひとひら

 とうとう転校する学期末になった。

 終業式と時を同じくして、それからぼくの予想に違わず、「皆さんに悲しいお知らせがあります」という文句から先生の発表が始まった。

「五年二組の西園秋弥くんが転校することになりました」

 無機質な先生の声に児童は誰一人として動じなかった。それもそうだろう。五年二組の西園秋弥なんて、他学年は知ったことじゃない。クラスの中ですら目立たない存在が、全校に認知されているわけもなかった。

 まあ、予想通りなので、ぼくは別段感慨もなく、壇上に上り、適当な挨拶をした。すると、驚くべきことに、花束贈呈という儀式があった。先生曰く、六年生の有志の方が花束を贈りたいと言って用意したらしい。きっと春子さんと夏帆さんだろう。特に夏帆さんはなんだか随分とショックを受けていたみたいだし。

 壇上に花束を持って上がってきたのは、春子さんだった。改めて向かい合うと、また身長が伸びているな、とぼくは思った。ぼくは所謂ちびなので、なんだか大人の人から手渡されているような気分だ。

「新しいところでも、元気でな」

「はい」

 実に無難な言葉がかけられて、ぼくは微笑でもって、それを受け止めた。

 少しだけ重なった春子さんの手は暖かかった。




 帰りの会が終わって、クラスはいつも通りに解散した。ぼくに声をかけてくるようなやつなんていない。

 これが普通だよな、と思いながら、何年も前に覆されたランドセルのカラーバリエーションを経ても尚、古風に拘るうちの親が選んだ黒いランドセルを背負って、廊下に出る。クラスメイトと最後の言葉を交わすような関係はぼくにはなかった。

 ただ、廊下に出ると、妙にそわそわした雰囲気があって、何事だろう、とぼくは思っていた。顔を上げると、教室の前に背高のっぽな女子と、めそめそ泣いている女子とが待っていた。言うまでもない。春子さんと夏帆さんだ。

 ぼくは花束を抱えて、待っていたのだろう二人にちょこんと頭を下げた。

「これ、ありがとうございます」

「いや」

 春子さんが頭を振る。礼なら夏帆に言ってくれ、と。二人で協力してこの花束を作ったらしいが、先に言い出したのは夏帆さんなのだとか。

 夏帆さんの方に向くと、夏帆さんは待っていたようにぼくに抱きついてきた。春子さんの前だと考えると気まずかったが、春子さんが引き剥がそうとする様子はなかったため、ぼくはそっと受け入れる。何も言わなかったし、言えなかった。夏帆さんは泣きじゃくって、もうこの上ないくらい喋れなくなっていたから。

 お別れって何を言えばいいんだろうな、とぼくは考えた。上手い言葉が思いつかない。さよならだとなんだかもう二度と会えないみたいな雰囲気になるし……また会える保障もないのだから、安易にまたねとも言えない。

「夏帆さん、えと……泣かないでください」

 とりあえず、ちゃんと慰めになるかわからないけれど、夏帆さんに慰めの言葉をかけた。

「もう二度と会えなくなるとか、そういうわけじゃないんですから」

 気休めにはなるか、と思い、そう告げると、夏帆さんが泣き腫らした顔をがばっと上げた。

 背丈が同じくらいなので、顔が幾分か近い。

「ほんとっ!?」

 本当になるかはわからないけれど、頷いておいた。まあ、生きていれば、何かの拍子に再会するかもしれない。そんな気楽さで、ぼくは頷いたのだった。

「そうだな、中学とかは離れるだろうけど、案外高校とか一緒になったりして」

「にっしー、どこの高校受けるの!?」

「小学五年生に聞くんじゃない。まだうちらも決めてないじゃんか」

 気の早い夏帆さんに春子さんがいつも通りの突っ込みを決める。高校なんて、まだ先の話だ。まだ小学校も卒業していないというのに。この年齢でそこまで見通しが立っているとしたら、ある意味怖いかもしれない。

 それもそっか、と少し涙を引っ込めた夏帆さんに、ぼくは冗談めかして言う。

「二人が女子高とかに入らなければ、会える可能性はありますよ」

「じゃあ会えるね! 春子が女子高とかあり得ないもん」

「おいそれはどういう意味だ夏帆」

 いつもの感じに戻ったことに、ぼくは安心した。

 これも今日で最後か、と思うと少しセンチメンタルな気持ちは湧くけれど。

 かくしてぼくは二人と別れ、ほとんどの確率で会わないだろうところへと行った。




 再会なんてないだろう、そう思っていた。



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