彼女の勇者が新たな力に目覚めた件
森の中の迷宮を勇者に突破されてしまい、後を追わなければいけなかったのに、竜の化身であるマインちゃんが出てきてラスボス ヒルテンさんともめだして二人を仲裁して……
「これどういった展開なんだよ!」と叫びたい状況から落ち着いて、やっと俺たちは再び勇者を追うことになったのだ……疲れた。
「で、今どこよ?」
マセリさんに訊かれて俺はキャラ呼び出しモードからジャークさんにつないで、勇者の行方を尋ねた。
「古の大地に着いたとこっすよ」
ジャークさんが疲れ切った表情で答えた。
「早いよ! もう虹の橋架けちゃったの?」
いくらレベル99でも今さっき森を抜けたばかりなのに、もう神殿で聖なる石を手に入れて虹の橋架けて最終舞台である古の大地に行っちゃったのか?
「いや、この距離ならって言うが早いかロープもって飛び越えちゃったんですよ」
「飛び越えた?」
予想外の展開だった。
「はい。俺はロープ伝って向こう岸まで連れて行ってもらったんすけどね」
レベル99とは言え、ゲームの基本的システムの範疇を超えていないか?
「ほな、魔王城の目前までいっとるんちゃう?」
他人事のように(他人事かもしれんが)マインちゃんが言い、その横でヒルテンさんが、
「でもわたしいないし、勇者も魔王の城でどうするのかしら?」
と、もっともな疑問をつぶやいていた。
「でも魔王がいなければもはやこれ以上先に進めないわけだし、追いつけそうじゃないか?」
俺の言葉にマセリさんが笑顔で頷いた。
「そうだよ! サラシナ君、わたしたちも早く古の大地に行こう」
「せやせや! いてこましたろ!」
「なんか、こんな形で自分の城に戻るのも複雑だけど、いきましょう」
皆で盛り上がっていると、画面の中からジャークさんが何やら声をかけてきた。
「で、あのー」
「なんですか?」
「俺裏切るって聞いてたんすけど、もうここまで来ちゃって裏切りポイントが不明なんすけど」
あー、そうだった、裏切って黒騎士になるんだっけ。
「いいじゃん、今裏切らせて足止めさせれば」
マセリさんがさらっと言い放った。
「ちょ、ちょちょっと待ってくださいよ! もういいっすよ!」
ジャークさんがかなり慌てて声を上げた。
「なにが?」
「ずっと一緒にいて見てたけど、この人テラ強いじゃないっすか! 俺裏切っても瞬殺っすわ」
「あ、でも裏切って黒騎士化するとレベル40くらいに上がるんだよ」
「勇者はレベル99じゃないっすか! どう見ても何もできずにボコられて終わりじゃないっすか!」
ジャークさんの悲痛な叫びを聞いて俺たちは顔を見合わせた。
「どうするの? サラシナ君」
俺が決めるの? まあ、俺が作ってるゲームだけどさ……正直めんどくさくなってきた。
「うーん、じゃあ、裏切るポイントはタイミング見て自分が思うとこでいいよ」
「いや、だからもういいっすよ! それに俺このまま勇者とくっついていた方が情報聞けて良くないっすか?」
それもそうか。
「じゃあ勇者のそばにいてもらおうよ」
「だね」
俺たちは適当に問題解決してジャークさんとの連絡は一旦切ると、古の大地との境に橋を架けることにした。
「サラシナ君、クリエートモードで橋架けちゃってよ」
「よしきた!」
俺はハードトゥセイを発動し、クリエートモードを開いてゲームの時を止めて、タッチペンで橋を架けようとした。
「これで橋架けて……あれ?」
「どうしたの?」
「橋が架けられない」
「なんでこんな時に調子悪くなるのよ」
「いや、なんかロックがかかっている」
「そんなわけないでしょ? サラシナ君以外にだれがロックするのよ?」
俺はかけてないし、マセリさんだってかけてないわけだし……。
「まさか、わたしたち以外にこの世界を変える能力を持っている者がいるってこと?」
「えっ?」
そんなはずがあるわけない。でも、もしそうだとしたら……なんか相当ヤバいような気がしてきた。
「い、一旦オフしよう。この場を離れて落ち着いて考えてみないか?」
「オフするの? でも」
「いいから、一旦オフだ!」
俺の言葉でマセリさんは手をつないでオフした。
周囲の光景がかわり、マセリさんの部屋に戻ってきたことを確認した俺は、安心して大きく息を吐いた。
「サラシナ君、どうしたの? なんかすごく焦っているようだけど」
「い、いや。万一、ゲームシステムに何かしらの操作をされてオフできなくなったらやばい気がしたんだけど……」
マセリさんは全く平然と「それは無理でしょ?」と言った。
「だって、ゲームがフリーズしたってオフできるんだよ? わたしの意思が絶対なんだから怖がる必要なかったのに」
「いや、違う! 怖かったんじゃなくて!」
そ、そう言えばそうかもしれなかったかも……ちょっと慌てすぎたかなぁ。
いや、何が起こるかわかんないような状況で落ち着いて考えるなんてできねーわ、やっぱ。
「ままま、まずは落ち着いて考えてみよう。えっと……」
「落ち着く必要があるのはサラシナ君だね。下に行ってお茶でも飲みながらゆっくり話そうよ」
そう言って立ち上がったマセリさんの後について、俺は部屋を出てリビングへと降りて行った。
「どうぞ」
来た時に出してくれた甘酸っぱいハーブティーとは違い、落ち着いた香りがするすっきりとしたお茶を出してくれた。
「このお茶は、何?」
「あー、烏龍茶だよ」
「え? 烏龍茶ってもっとこう、渋いというか、味の濃いような、しかもこんな黄金色じゃなくて真茶色じゃないの?」
「これはすっきりした味わいが特徴のお茶なんだよ。烏龍茶でもいろいろあるの」
そうか。まったく知らなかったけど、こんな爽やかですっきりしたお茶もあるのか。しかも香りが本当に落ち着くというか、まったりしてくる。
「じゃあ考察してみようか。さっきのこと」
そう言いながらマセリさんが俺の横に座ってきた。
「な、なんで横に座んの?」
「近い方が話しやすいじゃん」
そう言って無邪気に笑うマセリさんの顔を至近距離で見つめたら思わず心拍が速くなってきてしまった。
「い、いや、この程度の距離だもん、向かいに座れば?」
俺は平静を装ってお茶を一口含んだ。口と鼻腔に広がるほのかな香りが俺の心を鎮めようとしていた。
「うーん、いいけど、見えちゃうんだよね」
なにが?
「パンツ見えちゃうの。スカート短いから」
思わずお茶吹いたわ!
「ま、見られてもいいんだけど、目のやり場に困るかなって思って」
「い、いいよ、じゃあ、横でいいよ!」
「よかった」
いや、だからって近いんじゃないの? ま、もういいけどさ……。
俺は茶碗を置いて一回咳払いをした。
「えっと、じゃあ俺の考えを言うよ。誰がゲームを操作できたのかってことなんだけど、逆に俺たちがなぜこのゲームを操作できるのかってことを考えてみたんだ」
「どういうこと?」
「なんで俺たちがゲームを操作できるのか? それはこのゲームの世界の住人じゃないからだと思うんだ。だから外から操作ができる」
「そうきたか……サラシナ君ってさ」
「なんだよ?」
「難しく考えるの好きだね」
なんか俺、理屈っぽいみたいじゃん!
「でもその考え方は、あってると思うよ」
「えっ」
「わたしたちがクリエートできるのは外から来た者だから。合ってると思うよ」
あー、よかった。同じ考えだったか。
「ということはわたしたち以外で外からこのゲームにやってきた者ってことになるよね?」
「うん。そうだな」
「わたしたち以外にこの世界に入り込んできた者……まさか」
俺とマセリさんの頭の中では同じ単語が浮かんでいた。
「勇者……しかいないよね」
やはり古の大地にロックをかけたのは勇者ってことになるか。
「勇者がハードトゥセイと同じ能力を持っているなら、勝手に何かしらイベント作られちゃうんじゃないの?」
「いや、まだ俺たちほどいろいろはできないんじゃないかな? まだ能力が目覚め始めたところなのかも」
「そうなの?」
「だって、森の迷宮で俺たちは出口を作れたけど、勇者は作れずに彷徨っていただろう?」
「あの時はまだハードトゥセイの力を発現していなかったってことね」
「そしてやったことは古の大地にロックをかけただけのようだし」
「そっか。サラシナ君冷静じゃん……それにしても、勇者はなんでそんな力に目覚めちゃったのかな?」
マセリさんと俺は思案し、天井を見つめた。
人間考え事をする時なぜか上を向いてしまうような。
それは考える器官、頭が上だから?
それとも考えとは漫画の吹き出しのように頭の上に浮かんでくるからなのか?
などと思っていながらも、俺の中に一つの仮説が浮かんできた。
「きっと虹の橋をかけずに飛び越えた時だよ」
俺がそう言うと不思議そうにマセリさんが視線を向けてきた。
「力が発現した原因が?」
「ああ。あそこを飛び越えちゃうって行為自体がゲームの設定を無視した行為なわけだし……その時にこのゲームの世界のルールを変える力、ハードトゥセイの能力が発現したのかもしれないね」
自分で思いついた仮説を披露してみたが、本当だとしたらなんだかさらに複雑な感じになってきてしまったような……。
勇者は新たな能力を得て、古の大地に入ってしまった。
だが、古の大地はこのゲーム世界における最終地だから、逆に考えればもうそこから先はないのだ。
つまり、やっと先が見えてきたような気がしてきたのも事実だった。
「もうこんな時間……今日はここまでにしておこう」
「ああ」
俺は残ったお茶を飲みほして立ち上がった。
「サラシナ君、次回インするまで、ゲームの電源入れないでね」
「わかってるよ。俺たちがクリエートできるってことは勇者も何かしらできちゃうかもしれないしね」
「うん。じゃあ、また明日。学校で」
「ああ。お邪魔しました」
俺はマセリさんの家を後にして隣の自宅に帰った。
その晩ふと考えた。
夕方に別れてきたマセリさんは隣の家にいるわけで、それってほんの数メートルの距離に彼女がいるんだ、と思っていたら、なんだかすごくマセリさんが近くにいるような遠くにいるような複雑な気持ちになっていた。
「うーん、何考えてんだ、俺」
ふとマセリさんの部屋の窓を見たら、明かりがついていた。カーテンは閉まっていたし、特に彼女が顔を出すわけでもなかった。でもすぐそこにいるんだよな。
「わけわかんないこと考えていないで寝るか」
俺は部屋の明かりを消して寝ることにした。
「雷門ホール劇場?」
「そう。ウミノマチ商店街の裏の細い道入ったところにあるの知らない?」
俺とマセリさんは学校帰りに、次回ゲームにインする場所について話し合っていた。
「古い映画館だっけ」
「そうそう。昔の映画ばっかやってるとこなの。映画館って普通は入れ替え制だけど、ここは延々流しっぱなしだから途中からでも入れるの」
「途中から入ったら、見てないところはどうするの?」
「次の上映で見てないとこみてから帰るんでしょ?」
なんか適当だなぁ。
「とにかく、ここなら気にせずに二人きりでいられるでしょ?」
「周りに他のお客さんいるだろう?」
「それがガラガラなんだってよ」
ま、古い映画しか流さないとこだし、そんなもんなんだろうなぁ。
「因みにその情報どこから……」
「ある人に聞いたのよ。その人、彼氏と二人きりになれる場所をいつも探しているから詳しいんだよ」
「まさか、その人って……風紀委員の?」
「ま、いいじゃん」
うーん、そこで出くわさなきゃいいけどなぁ。
映画館はかなり古い建物だった。シネコンとか今時の映画館しか行ったことのなかった俺としては「外観怪しすぎる」といった印象しかなかった。入り口手前の小窓でチケットを買って建物の中に入るとすぐ横にカウンターがあって、そこで券をちぎってもらうシステムだった。
絶賛上映中のせいかロビーにいる時点で籠ったような音が聞こえてきていた。
「こっちこっち。二階席に行こう」
マセリさんの指示の下、階段をのぼり、そして重い防音のドアを開けた。
白黒の外国映画がやっていた。俺とマセリさんは他のお客さんから離れた席に座った。
意外にもシートは今時のものなのか座り心地は悪くなかった。
しかし、白黒映画で字幕かよ。こんな映画年寄り以外見に来ないだろうな。
序盤がわからないから何の話か分からないが、主人公と警察らしい連中で悪い奴を追いかけていた。それにしても舞台になっている街は石かコンクリートでしか構成されていないような街だった。昔の外国ってこんな感じなのかな。
「サラシナ君」
あ、マセリさんに声かけられるまで見入ってしまった。
「あ、じゃあ、そろそろゲーム始めようか」
「うん」
ちょっと映画のことが気になっていたが、俺はゲームを起動させてマセリさんの手を握った。
「おー、来た来た。待っとったで」
「いよいよ最終の地に踏み入れるんですね!」
インした俺とマセリさんの横にはマインちゃんとヒルテンさんがいた。
「急ごう!」
しかし目の前は断崖で先に進むことはできない。
「クリエーションモードで先の場所にいけないの?」
「古の大地全体がロックされて修正かけられないから入ることもできない。他の場所に橋を架けることもできないし」
「でも橋がなければ向こうにいけないじゃん。どうやって向こうに渡るの?」
古の大地は修正できないが、設定画面で構造はチェックできた。
「うん。ロックはかかっているけど俺が設定したことは改変されてないようだ」
「つまり?」
「普通にイベント通りに聖なる石とってきて虹の橋を架けることはできるよ」
俺たちは聖なる石を求めて禁断の神殿へ進むことになった。
(つづく!)




