ストーカーな彼女とけんかの仲裁
俺とマセリさんは一旦オフした。
「はぁ、なんか、その疲れた」
「そうだね。あ、お腹すいてない?」
そういえば今何時なんだ? 俺は時計を見た。
「あ、もう昼過ぎだ」
「ラーメン食べない?」
「マセリさんが作ってくれるの?」
「そうだよ。食べる?」
「い、いただきます」
俺たちは部屋を出て下のリビングへと移動した。
「どう? もやし醤油ラーメン」
マセリさんが作ってくれたラーメンはすごくシンプルだった。
細かいネギと小さな肉が浮かんだ醤油ラーメンで、具はもやしのみ。
「いただきます」
スープをいただき、続いて麺をいただく。うん、普通にうまい気がする。お店でいただくレベルとは言わないが、家庭で食べるラーメンとしては結構いけている気がする。
「スープが香ばしくてこってり感あるのに、なんか少し和風な感じもあるような」
「サラシナ君、意外にも味がよくわかってるじゃん。和風な感じがするのはアゴ出汁が入ったお湯でラーメンスープを溶いてるからなんだよ」
「へー。上にのっているもやしがシャキシャキでさっぱり感もあっていいアクセントだよ」
「もやしは麺茹でる時に一緒にさっと湯にくぐらせただけ。簡単でしょ?」
うーん、なんか手軽に俺でも作れそうな気がしてきた。
「具体的にはどうやって作るんだ?」
「豚バラと長ネギ小さく刻んで、アゴ出汁入れたお湯の中に入れて少し煮て……」
あまり料理はしないが、聞いてみたらなんか俺でもできそうな気がしてきた。
「マセリさん、料理得意なんだね」
「ラーメンしか作らないけどね~」
そう言いながらも、クッキーも作ってたじゃん。
「家族の中でラーメンを作るのはわたしの役目なの」
「なぜラーメンに特化してんだ?」
「サラシナ君みたいに、おいしいって言ってくれる人がいたから」
あ、そうなんだ。
いたから……いたからって過去形だなぁ。過去の話だから過去形でもいいのか。日本語って曖昧だよなぁ。
「ごちそうさん。おいしかったよ」
「おそまつさま。あ、食器洗っちゃうからそこでお茶でも飲んで待ってて」
そう言われて、俺はお茶を飲みながら、キッチンカウンター越しに食器を洗っているマセリさんをなんとなく見ていた。
「ん? どうかしたの?」
ふと目が合ってしまってマセリさんが声をかけてきたんだが、俺はなんと返すべきか思案してしまった。
「え、あ、いや、マセリさんが食器洗っているところを見るっていうのはなんか新鮮だなって思って」
「新鮮?」
「ほら、普段学校とかでは見ない光景だから」
俺はいったい何を言っているんだ……。
「わたしと暮らすようになったら毎日見る光景だよ」
は? 一緒に暮らすって……どこをどうなったらそうなるんだよ!
「サラシナ君、顔赤いよ?」
「あ、ちょっと暑い……あ、そう、お茶が熱くてさ」
「ふーん、お水で薄めてあげようか?」
「い、いいよ。熱いの好きだし」
「そう? 冷蔵庫に冷たい麦茶もあったんだけど」
え? いや、ラーメン食べて、更に熱いお茶だったから、ホントは冷たい飲み物が欲しかったというのが本音ではあったが……。
「熱いの好きだったんだ……残念」
とか言いながら、ニヤニヤしてるってことは、俺をからかってんだろう!
その手には乗らん!
「はぁー、じゃあわたしは冷たい麦茶一気飲みしようかな」
食器を洗い終わったマセリさんがタオルで手をふきながら冷蔵庫まで歩いていくと、中から冷えた麦茶のボトルを取り出し、グラスに注いだ。
「確かに、ちょっと暑いかもね、今日は」
マセリさんが意味ありげな視線を俺に送りながらボトルを冷蔵庫にしまった。
その間に、早くもグラス表面を結露させ始めているその冷え切った飲み物は、俺の暑い体と喉を一気に潤してくれるであろうことを容易に想像させた。
「ん……」
マセリさんはグラスを握って口へ運んだ。
俺の目の前でおいしそうに冷たい液体を飲んでいくマセリさんの白い喉がゴクリ、ゴクリと動く様はなんとも生々しく、そしてマセリさんの細胞単位で水分がしみわたっていくように見えた……って、おーい! のみてー! マジでその冷たいお茶が飲みたい!
「のむ?」
「のむ!」
俺は迷うことなくグラスを受け取ると、彼女の飲みかけていた冷たい液体を一気に飲み干した。
冷たい麦茶の前に、俺は我慢できず、あっさりと屈服したのだ。
「サラシナ君てさ」
「え?」
「意地っ張りなくせに、素直だよね」
「素直だから自分の意地を張るんじゃないのか?」
「そうじゃなくて、あっさり負けを認めるじゃん。今だって飲まないような振りだったのに、勧めれば素直に飲むしさ」
「うーん、自分の欲求に対して弱すぎるってことか?」
「わたしはいいと思うよ。サラシナ君らしくてさ」
マセリさんが意味ありげなことを言いながらグラスを流しの方に持っていって洗い出した。
「前から思っていたけど、俺の一体何を知って、らしいというのか?」
「言ったじゃん。わたし、結構サラシナ君のこと見ていたって」
洗ったグラスを籠に伏せて、マセリさんは手を拭きながらこちらに戻ってきて俺の横に座った。
「そ、そう言えば。でもいつどうゆう経緯で見ていたっていうんだよ?」
「ここから見えるんだよ。サラシナ君が学校行く時」
マセリさんは立ち上がるとリビングの大きな窓の前に立って外を見つめ始めた。
「マセリさん、いつも俺より遅かったけ?」
「あー、学校さぼった時の話だよ」
さぼらず行けよ、俺だって行ってんだから。
「思い出すんだよ。最初の日のこと」
「最初の日?」
マセリさんがソファの方に歩いてきて、再び俺の横に座った。
「ここに引っ越してきて初めて一人で登校しなきゃいけなかった日だよ。一緒に道案内しながら連れて行ってくれたじゃん」
あ、ああ。そんなこともあったなぁ。
「マセリさんのお母さんにもお願いされてたし、お隣だからな」
「サラシナ君、玄関の前で律義に約束の時間が来るまで待ってたでしょ?」
「え?」
「五分前くらいだったらもう呼んでくれてもよかったのにさ。玄関前でそわそわと落ち着きなく緊張しててさ」
見られてたんか! マジかよ……。
「あの姿見たら、緊張感が消えたんだ」
「えっ」
「最初あいさつに行った時は愛想がない感じでちょっと怖かったんだけど、ああ、この人根はいい人なんだなってわかったんだよ」
「はぁ」
「そこから、ずっとサラシナ君のこと見ていたんだよ。どう? わたしのストーカーぶり」
「なんかどう返していいのかわからないんだが……後つけられたり覗かれたりしていたのか、俺?」
「ううん。見かけた時だけ目で追ってた程度」
「別にストーカーじゃないじゃん。そんなの」
「そっか。ならよかった」
よかったのかどうかはわからんが、ま、いいか。
「なんでかな。サラシナ君見つけちゃうとついつい観察したくなっちゃうんだよ」
珍しい動物かよ、俺!
雑談(?)も落ち着いたところで、俺たちは午後の部を開始することになった。
「で、今後はどうなっているのよ?」
俺たちはゲームにインして再び森を抜けた平原に帰ってきた。
もちろん俺たちの横には迷宮でパーティーを組んだヒルテンさんもいる。
「えっと本来は竜の聖典の力で超えるはずだったけど、とにかく森を抜けた後は忘却の地で弧月の塔の謎を解いて、禁断の神殿で聖なる石を手にして、虹の岬で橋をかけて魔王の城がある古の大地に踏み込むんだ」
そこまで説明した俺の顔を、マセリさんがじっと見つめていることに気づいた。
「マセリさん、どうしたの?」
「その、忘却の地だっけ? そこにあるのが何の塔だっけ?」
「弧月の塔?」
「それって、サラシナ君が名前考えたの?」
「そうだけど」
「弧月って、なんかすごいネーミングだね」
そこ改めて突っ込むのかよ!
「うるせーよ……いいだろ?」
「うんうん、サラシナ君ってそういったことよく考えついちゃうんだね」
ネーミングでとやかく言われたくねー!
俺たちのやり取りを見てヒルテンさんがほほえましく頷いた。
「いいじゃない。この歳の男の子は夢と空想で頭がいっぱいなのよね?」
ヒルテンさん、それフォローになってないような気が……。
「中二思考か……」
マセリさんが笑いをこらえるような表情でつぶやいた。
「いやいや、中二病というのは意味が取り違えられているけどさ、本来こういうことじゃなくて」
「サラシナ君、必死になるのはいいけどさ、今言ったイベントはある程度できてるの?」
「いや、まだ部分部分手付かずのとこもあって……それに弧月の塔はあのオールドロックを置いちゃったから」
「ああ、裏情報を語るエロじいさんね」
「うん。だからそこは飛ばして、禁断の神殿で聖なる石をゲットするのが次の道筋かな」
「それはできているの?」
「ある程度できている。中ボスと戦う予定なんだ」
「じゃあ、今急げばまだ勇者がボスと戦っているかも!」
マセリさんが頷き、ヒルテンさんが俺たちの肩に手を置いた。
「じゃあ次の目標は決まったわね。禁断の神殿に向かいましょ!」
俺たちは再び勇者の後を追って先へ進もうとした! しかし、まさにその時!
「ちょっと待たんかい!」
急に背後から声をかけられ、俺たちは振り返った。
そこには細身で小柄、白い肌に青い目、光が当たると少し空色に輝く銀色の髪を持つ少女が立っていた。
「だ、だれ?」
「誰やて? 腹立つわ。うちの存在無視してその上誰かも覚えてへんとか、なめとんのか?」
その怒りの視線は完全に俺を見ていた。
「サラシナ君、誰?」
「えっと」
こんなギリギリ中学生かどうか位の女子に知り合いはいないんだが……いや、落ち着け、ここはゲームの世界じゃないか。こいつは俺が作ったキャラの一人と考えるべきだろう。
「あ! もしかして、あの……聖典守る竜の化身の方ですか?」
俺が恐る恐る尋ねると青い目を爛々とさせながら叫び出した。
「そうや! 竜の化身マイン・インバリィや!」
「そ、そうか、マインちゃんだったね……それがなぜここに?」
「なぜ? そない言えるとはさすがクリエーターやな。ええ度胸しとるわ」
そう言いながらつかつかと俺の前まで歩いてきて、見上げるように俺を睨んだ。
「ええか? こっちは今か今かと待っとったのに、聞いたら作成途中のうちのイベントすっ飛ばして先進んでるゆうやないか!」
あー、竜の聖典のイベント飛ばしたのばれてたのか。
「もう堪忍でけへんわ!」
「待った、わかったわかった! えーっとどうしようか、じゃあ」
俺がマインちゃんのために何かイベントを考えようとしていたところ、ヒルテンさんが助け舟を出してくれた。
「今は勇者に追いつけそうだし、まずはそちらを片した後で、ゆっくりとしっかりしたイベントをこの子に作ってあげればどうかしら?」
「そ、そうですね。マインちゃん、しっかりとしたイベント作るから、ちょっと待ってて……」
俺がそこまで言ったとき、マインちゃんは恐ろしい一言を放ってきた。
「誰やねん、このおばはん」
お、お前! 誰に向かって……!
その瞬間、俺の横にいるヒルテンさんの笑顔が微妙に硬くなった。
「お、おばはん? それって、わたしのこと?」
「いや、おばはん、誰か知らへんけど口出さんといて」
ブチッ! て音が聞こえたような気がした。
「は? わたしはヒルテン……おばはんじゃなくて、魔王なんですけど」
出たよ、泣く子も黙る「わたし魔王なんですけど」発言!
さすがのマインちゃんもそれを聞いて一言。
「知らんわ」
えー! お前、その返しアリなの? いや、ないわ!
「ま、魔王を知らないって、すべての魔物の頂点に立つわたしを知らない?」
「うちは竜や。竜は何者にも支配されん誇り高き生き物なんや」
俺の隣、ヒルテンさんの方向から「ビキィ!」って音がした気がした。
そう、歯を食いしばりすぎて奥歯が砕けたような、力を入れすぎて握りしめた拳が骨から砕けるような……。
「ちょっと口の利き方がなってないようね……」
凄みと漆黒のオーラが噴出してきているような感覚がした。
「なんぞ文句でも?」
反対からも若さからくる無鉄砲なエネルギー波が噴出して俺を境にぶつかり合っているような気がするんですけど!
「痛い目にあってみる?」
「やったろか?」
俺は無駄かもしれないが両者に声をかけてみた。
「お、落ち着こう、二人とも、まずは」
すると大人の風格があるヒルテンさんがやさしく俺に答えてくれた。
「心配しないで」
ヒルテンさん、やっぱ大人だわ。争い事が無意味だって理解早いわ。
「真の姿で戦ったらこの辺一帯崩壊しちゃうけど、この子相手ならこの仮の姿のままで十分だわ」
理解してなかったよ! 当然マインちゃんは全く理解してなさそうだし!
「おお、吐いた唾飲まんといてや」
「どういう意味?」
「ゆうたからには、ヤバくなってもチート能力出さんといてってこと」
マインちゃんの完全に舐め腐った発言にヒルテンさんの形相が見る見るうちに変わっていった。
「チ、チートとか、失礼なことゆわないで! わたしの力は真の力です!」
「ごちゃごちゃゆわんとかかってきいや!」
いかん! こんなとこでアルティメットラストファイナルハルマゲドンが勃発しちまう!
「いい加減にやめてくれよ!」
「とめないで!」
「とめんなや!」
なぜクリエーターの俺のゆうことを聞いてくれないんだ!
よく考えたら俺が創造したキャラだろうが! 創造……そうか。
「ハードトゥセイ! クリエートモード発動!」
俺とマセリさん以外の時間が止まった。
「どうするの?」
さっきまで全く他人事のように一歩後ろに引いていたマセリさんが俺に尋ねてきた。
「とにかく二人を分けて、説得する。これしかないだろ?」
「サラシナ君、説得できるの?」
「うーん、わかんないけど、きっと話せばわかると思うんだ」
「話してわかるって感じの雰囲気じゃなかったけど……わかった。わたしも手伝うよ」
「ほんと?」
「うん。わたしはヒルテンさんの方を説き伏せておくよ」
「え?(いや、竜の子の方が難しそうなんだが……)」
「がんばって!」
「あ、はぁ……」
やるしかないか。俺はとりあえずそれぞれ個室を作り、ヒルテンさんとマインちゃんを分けた。
ヒルテンさんの部屋にはマセリさん、そしてマインちゃんの部屋には俺が入って話をすることにした。
「な、なんや? ここどこやねん! あのおばはんどこ行ったんや!」
「ちょ、ちょっと待てって!」
「待てるかいな! ここから出せや!」
いかん、もう大暴れでなかなか俺の言うことを聞いてくれなさそうな……いや、ここは言わねば!
「マインちゃん! 君はそんな子じゃないはずだよ!」
「は? うちのなにを知っててそないなことゆえんねん!」
あー、確かに適当に言い切ってみたが、竜の化身という設定以外は、まだ作ってなかったよな……だが、ここは言い切るしかねえ!
「俺はクリエーターだ! 君を作る時に、君のことをいろいろ考えながらキャラ作りをしてきたんだ」
「うちのことを?」
マインちゃんが疑わしそうな視線を送ってこようとも、ここは言い切ってやるぜ!
「そうだよ。俺はさ、君は自由奔放な誇り高い女の子として作っていこうとしたんだ」
「ま、まぁ、うちは竜やからな。誰にも縛られん気高い生き物やけど」
よし、少し乗ってきたじゃないか!
「ああ。でも、君は自由だけど、身勝手な傍若無人な荒くれものじゃないんだ」
「ほな、うちはどんな女の子として考えてくれてたんや?」
「自由で気高い、でも心の奥底に純粋な宝石をいつも持っている。元気だけど純朴で、朗らかだけど慎ましやかなホントにかわいらしい女の子なんだ」
「う、うちが、そんな……」
「俺は君のことをそう言った子に設定して、それに見合うエピソード、勇者たちの旅の中で忘れることのできない心に残る一ページをもたらす子にしようとずっと考えてきたんだよ」
「ク、クリエーターさん……そないに、うちのこと」
「君は素直なかわいい女の子、俺の中でのマインちゃんはそういう子なんだよ」
マインちゃんはしばらくぼんやりとした表情で聞いていたが、そっと口を開いた。
「うちのイベント全然作ってくれへんし、寂しくて……クリエーターさん、うちのことなんて、いらない子だと思ってるんちゃうかって……」
「確かに、ちょっと考えすぎて作業が遅れていた。そのことで君をに寂しい思いをさせてしまったことはごめん、謝るよ」
「そ、そんな、あやまらんといてよ! うちが勝手にクリエーターさんのこと疑って……ご、ごめんなさい!」
マインちゃんは急に大粒の涙をこぼして俺の胸に飛び込んできた。
「いいんだよ。それから俺の名はショウマ。『クリエーターさん』なんてかしこまらなくていいんだよ。君は俺にとってもっと身近な存在だと思っているから」
「ショウマー! ごめんなさい、迷惑かけて、ごめんなさい!」
「(いきなり呼び捨てかよ)いいんだよ、わかってくれてうれしいよ。一緒にヒルテンさんに謝ろう? な」
泣きながら頷くマインちゃんの頭を俺はそっとやさしく撫でてやりながらも、マジで罪悪感に満ち溢れていた。
ああ、本当はあんまり考えずにイベント飛ばそうとしていたことが胸に刺さるぜ……。
「さっきはごめんなさい。仮にも魔王様にあんな態度とってもうて、反省してます」
ヒルテンさんを再び前にして、目を赤く腫らしたマインちゃんは深々と頭を下げた。
「い、いいのよ。わたしも大人げない態度とっちゃってごめんなさいね」
ヒルテンさんとマセリさんは少し困惑した表情で顔を見合わせていた。
「ほな、わだかまりもなくなったとこで、旅を続けようやないか」
急に笑顔になったマインちゃんが元気に宣言した……って、おい!
「な、なに? 一緒に来るのかよ」
「当たり前やん、うちがショウマのこと守ったるさかいな! ほないこうや!」
なぜかパーティーのメンバー一人増えて、先に進むことになったんだが……。
「どうなってるの、サラシナ君?」
元気にはしゃぎながら歩いているマインちゃんの後ろで、俺の肩をつついてマセリさんが訊ねてきた。
「いや、その」
どう説明したらいいのか。
「そ、それよりも、マセリさんはどうゆってヒルテンさんをなだめたの?」
そう。ヒルテンさんも説得部屋から出てきた時は穏やかな表情に戻っていたんだが。
「ああ、わたしはヒルテンさんが正しいから思いっきりボコっちゃいましょうって言ったの」
説得してないじゃん!
「でもヒルテンさんは、そこまでやっちゃうのも子供相手にかわいそうかなって。自分からやめるようにもう一度話してみるって言ってくれたの」
「はー、大人だわ……あ、でも、もしかしてマセリさん……」
マセリさんが小さくウィンクして頷いた。
「止められると逆にヒートアップしちゃうように、他人に焚きつけられると冷静になっちゃう人もいるのよ」
「なるほど。マセリさん、冷静だね」
「そんなことより、サラシナ君が竜の子になんて言ったかの方が気になるよ」
「あ、いや」
「変に気を持たせるようなこと言ったんじゃないの?」
ギクッ! す、鋭いな、マセリさん……。
「そ、そんなこと、ないけど」
「ふーん。ま、安請け合いや軽々しく大事な約束しちゃだめだよ?」
「だ、だいじょうぶだよ」
「ならいいけどね」
マセリさんが何もかも見透かしたような表情で俺を見てくるんだが……。
(つづく!)




