表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

01.加護なし令嬢、婚約破棄される。王太子は破滅する

本作は同タイトルの短編の連載版です。

4話から短編の続きとなります。

 シャンデリアが照らす王城の大広間。

 王家主催の夜会の空気は、王太子【マナヤ】の鋭い声によって凍りついていた。


「レティシア・フォン・グランヴェル……お前との婚約を、本日をもって破棄させてもらう!」


 広間の中央に立つレティシアは、自分に向けられたその言葉を、静かに受け止めていた。


 マナヤの腕の中には、大国ゲータ・ニィガにおいて百年に一人の逸材と謳われる『聖女』カスミィが、怯えた小動物のように身を寄せていた。


 しかし、その口の端がにやりと吊り上がっていることを、レティシアは見逃さなかった。


「この世界に生まれた者は皆、等しく女神からの祝福――『加護』を授かる。それが世界の常識だ。しかし、レティシアには何の加護も宿っていなかった。加護を持たないということは、すなわち魔力を持たない無能の証! 無能はこの僕に相応しくない!」


 マナヤが婚約破棄の理由(至極個人的なものであるが)を、周囲の貴族たちにはっきりと聞こえるよう声高に告げている。


【本来】であれば、彼女はその『加護なし』という強烈なコンプレックスから性格をひどく歪ませ、聖女カスミィをいびり抜き、やがては無惨な破滅を迎える悪役令嬢となる……はずだった。


 そう、ここが恋愛シミュレーションゲーム『ホーリィ・プリンセス』の世界であるという、前世の記憶を彼女が持っていなければ。


(あぁ……やっと、この時が来たのね)


 レティシアは内心で、安堵の深呼吸をした。


(ここまで……長かったなぁ)


 幼少期に高熱を出した際、彼女は自分が「趣味は美味しい料理と食べ歩き」という、ごく普通の日本人女性であった記憶を取り戻した。

 そのおかげで、加護を持たないという事実にも絶望することなく、ただ「美味しいものを作って穏やかに生きたい」と願うようになっていたのである。


(でも、公爵令嬢だし、次期王妃になる身だからって、自由に色々できなかったのよね)


 厨房に近づくことすら、「高貴な身分にふさわしくない」と禁じられ続けてきたのだ。


「聞こえなかったのか、レティシア! 加護も持たぬ無能な女など、次期王妃にはふさわしくないと言っているのだ!」


 沈黙するレティシアを前に、マナヤはいら立ちを隠そうともしなかった。

 泣いてすがり、許しを乞う姿を期待していたのだろう。だが、レティシアの心中に渦巻いていたのは、絶望でも悲哀でもなく――。


(これで憎き王妃教育から解放されるわっ)


 歓喜。ただそれだけであった。

 今すぐにでも踊り出したい衝動を、公衆の面前であることを理由にぐっと堪える。


 レティシアは淑女の鑑のように美しい所作で、そっと目を伏せた。


「……承知いたしました、マナヤ殿下。殿下のお心のままに」


「な? なんだ……随分とあっさり受け入れるじゃないか」

「ここは泣いてすがりつくところじゃないの? 原作だとそうだったけど……」


 マナヤも、そしてカスミィも、レティシアの予想外の反応に困惑している様子だった。

 特にカスミィは、まるで今まで見ていた映画が途中から別の作品にすり替わったかのように、幾度も首を傾げている。


(原作であれば泣いてすがっていたのでしょうけれど、私は別に。どうでもいいし、この人のこと)


「ふん、まあいい。聞き分けが良いことだけは評価してやろう。だが、ただで済むと思うなよ。我が国の面目を潰した罰として、お前には極寒の隣国、エッゾ皇国へと嫁いでもらう。あの【狂犬皇子】ルークの元へな!」


 ざわめきが、波のように広間を駆け巡る。


「エッゾのルーク皇子だって……?」

「知っているぞ、恐ろしく凶暴な皇子だってな……」

「少しでも不興を買えば、首を刎ねられるって噂だぞ……」


 ルーク・E・ヴォルフシュタイン。

 原作では、エッゾ皇国の第三皇子でありながら、彼もまたレティシアと同じ『加護なし』の忌み子であった。


 さらには、常軌を逸した凶暴さと冷酷さを持つと噂され、【狂犬】と恐れられている男である。


(確か原作のレティシアは、ルークに殺されてバッドエンド……だったかしら)


 まさしく、体よく厄介払いをするための処置であった。


「あの狂犬のもとで、一生凍えながら惨めに暮らすがいい!」


 勝ち誇るマナヤを見据えながら、レティシアは凛とした声を響かせた。


「わかりました。エッゾ皇国ルーク殿下の元への輿入れ、謹んでお受けいたします」


(ゲームの設定資料には『その後、レティシアはエッゾでルークに殺された』としか書かれていなかったわね。レティシアが、何を怒らせるようなことをしたというのでしょう。裏を返せば、そういった真似さえしなければ死なないはず。それに、ルークの性格キャラクターも実際にはわからないもの。噂が一人歩きしているパターンだってあるわけだし)


 ゆえに、これから極寒の狂犬のもとへ強制的に送られるとしても、特段レティシアの心は揺らがなかった。

 むしろ、ようやく自由に自分のしたいことができると、小躍りしているくらいだ。


(エッゾって確か北国よね。原作の設定では、北海道に近い気候だったはず。北海道ならお魚も豊富だし、ジャガイモもあるはずだし……たくさん美味しい料理が作れるわっ!)


 マナヤやカスミィたちが、どれほど自分を嘲笑おうとも構わない。

 これから始まる自由な生活を想像し、レティシアの足取りは、王城を出るその瞬間まで、羽が生えたように軽やかであった。


    ◇


 レティシアに婚約破棄を言い渡した王太子マナヤは、心の中で高笑いを響かせていた。


「これでやっと、カスミィと結ばれる……。あの加護なしの無能を追い出すことができたぞ!」


 八歳で行われた【加護鑑定の儀】の時点で、レティシアに加護が宿っていないことは判明していた。


 マナヤは、レティシアを心底見下していた。皆が当然のように持っているはずの加護を、彼女は持っていなかったのだから。当然の感情である。


 マナヤはすぐさま、父である国王にレティシアとの婚約解消を願い出た。

当初、父も自分と同じ意見であったはずだ。しかし……。


「父上は【何故か】、レティシアとの婚約はそのままとすると言い出したのだ……! 彼女は王妃に相応しい人物だと……! 加護がないんだぞ!? 意味がわからん!」


 その後、いくらマナヤが国王に訴えようとも、父が頷くことはなかった。

 マナヤが口うるさく進言し続けたためか、時折、国王は自ら公爵家にいるレティシアのもとを訪ねるようになった。


 そして……帰城する度に、なんともほくほくとした顔で言うのだ。


『婚約解消は、無しだ。レティシアはこの国に必要だ』


「この国に必要なのは、あんな加護なしの無能などではなく……カスミィのように、力も愛嬌も兼ね備えた美しい女に決まっているだろうがっ!」


 そもそも、マナヤはレティシアのことが全く気に入らなかった。加護がないこともさることながら……あまりにも愛嬌というものが欠落しているのである。


「僕は婚約者だぞ。いずれ己の夫となる男に、レティシアときたら媚びの一つも売ろうとしない。向こうからすり寄ってくることも、手をつなぎたいとねだることもない。甘えてすらこない……あいつは本当に僕のことが好きなのかと、何度腹立たしく思ったことか」


 ……政略結婚である以上、そこに恋愛感情が存在しないのは道理なのだが。しかしマナヤの中では、「婚約者は自分を愛していて当然」という傲慢な自負があったらしい。


 ゆえに、レティシアのあまりの素気ない態度《塩対応》に、常にいらだちを覚えていたのだ。


「その点、カスミィは実に良い女だ。僕の言うことを全て肯定し、いつだって甘えてくる。……まあ、こちらの都合を考えず、やたらと僕の元へ押しかけてきては束縛したがるのが、少々鬱陶し――いや、それも可愛らしいがな」


 カスミィとの出会いは、貴族たちが通う学園でのことであった。元々は平民出身である彼女。しかし、その身には類稀なる聖女の力が眠っていたのだ。


 それだけではない。


「カスミィは、よく気遣いの出来る女だ。こちらが落ち込んでいる時は優しく声をかけて慰めてくれる。僕の抱える悩みだって、全てぴたりと言い当てるのだ……。まるで、こちらの心を見透かしているかのように」


 ……カスミィが、原作知識チートを用いて攻略対象マナヤを落としにかかっていることなど、彼が知る由もなかったのだが……。


 すっかりカスミィの虜となったマナヤは、国王不在のタイミングを見計らい、夜会を開いて独断で婚約破棄を宣言したのである。


「レティシアはきっと、泣いてすがるはずだ……今まで愛想を振りまかずにごめんなさい、と!」


 ……しかし、彼女はそんな振る舞いは微塵も見せなかった。

 レティシアはあっさりと婚約破棄を受け入れ、エッゾ皇国ルーク皇子のもとへと旅立ってしまったのだった。


 ……無論、この婚約破棄ならびに他国との婚約も、全てマナヤの一存で進めたことである。

 闇ギルドから、「エッゾの第三皇子が嫁を探している」という情報を得た彼は、ならば好機とばかりに打診をし……まんまと了承の手紙を引き出したのだ。


 あとは、レティシアを疎ましく思っている公爵家と結託し、計画を実行に移すのみであった。

 公爵家からの入れ知恵もあったとはいえ、全てはマナヤの独断であった。


「邪魔者は消え去り、愛する女と結ばれる……! 僕は今、、人生の絶頂にいる……! はっはっは!」


 ……しかし、その絶頂とやらも、長くは保たなかった。

 数ヶ月後。マナヤは悲鳴のような声を上げることになる。


「まずい……実にまずいぞ……!」


 ……勝手に行った所業が、父である国王に露見したことに対する「まずい」。

 そして……。

 彼はようやく気づくのである。


 自分が今食べている料理が……口に含むのも苦痛なほど、とてつもなく不味いということに。


【作者からお願いがあります】


少しでも、

「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新がんばれ、応援してる!」


と思っていただけましたら、

広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】をタップして、

【★★★★★】にしてくださると嬉しいです!


皆様の応援が、作品を書く最高の原動力になります!


なにとぞ、ご協力お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ